「しっかし、モノの少ない部屋だな」 一人になった友樹はあらためて部屋をぐるりと眺め、つぶやいた。
真島がいなくなると部屋にピンと張り詰めた空気が流れた。 パリパリパリパリと灰谷がレタスやキュウリを噛む音だけが響く。しばらくして友樹が口を開いた。
「夏休みにも来てましたよ、お店に。他校の女子たち。ねえ~灰谷先輩」
「友樹、どんどん食えよ」「いただきま~す」「唐揚げ、ほれ唐揚げ食べろ。うまいから。そんでポテサラな」 真島は友樹の皿にポテトサラダを盛りつけた。
「服、大丈夫でしたか?灰谷先輩」 真島がいなくなると友樹が灰谷に話しかけた。 「ああ。大丈夫」 盛大にぶちまけたと思ったが被害は案外少なかったようだ。服よりもベッドカバーの方が濡れている。まあでもこれは自業自得だ。 濡れたところを避け、灰谷は…
ドカドカドカドカ。 オレは足音を立てて階段をかけ降りた。降りきったところで立ち止まる。心臓に手を当てるとバクバクいっている。
なに意識してんだよ……。 なんだか胸がむずがゆいような気持ちがこみ上げた。 灰谷は真島の手首をつかんだまま顔の横から頭の上に上げ、バンザイの格好をさせた。そして両手でつかんでいた手首を片手だけでつかみ直した。男にしては細めの真島の手首は灰谷の…
「セクハラってのはな……こういう事だっ!」 叫ぶなり真島は全身の力を一気に抜き、鯨がローリングするようにカラダごとドスンと灰谷の上に倒れこんだ。
「野郎ども、天国の門にキッスしな!」 友樹が甘いロリ声を作り、自身の操るキャラクター、ミルハニの決めセリフを叫んだ。 「うお~ミルハニ総攻撃~」 キャラチェンジしてからどうにも勝てなくなったらしい真島の焦った声を聞いて、灰谷は再びスマホから顔…
「さ、カラダも暖まったところで、もう一回戦いくぞ~」真島が腕をブンブン振り回す。「負けませんよ~」 真島にワシャワシャ撫でられてクシャクシャになってしまった髪を整えながら友樹がゲームのコントローラーを手にした。
ドスン。 友樹の隣りに乱暴に腰を下ろすと、真島は「ほらよ、ピザまん」と宙にポイッと放り投げた。
「何そんなに驚いてんだよ。バイトの代打センキューって」「おっ、おう」「ビビっちゃってカ~ワイ~」 そう言うと真島は履いていたジャージのズボンで濡れた手をぬぐった。 「ビビってねえわ。しっかり手、拭いてこい。小学生か」「小学生じゃねえわ。灰谷…
「灰谷くんいらっしゃい。お疲れ様」 真島の母、節子が玄関先で迎えてくれた。お陽さまみたいないつもの笑顔だ。 「チイッス。これ」「あら、何?」差し出されたコンビニの袋を受け取り、節子が中をのぞきこむ。 「新商品のチョコレートまんとカスタードまん…
赤信号でバイクを止めた灰谷はその長い足を持て余し気味に伸ばした。夏の終わりに乗りはじめた原付バイクは今では立派な足がわりになっていた。 「寒(さむ)っ」灰谷はつぶやき、カラダをぷるりと震わせた。 ーーあれから約一ヶ月半が経つ。 表面上は相も変わ…
このお話は拙作『ナツノヒカリ』続編となっております。 こちら↓を読んでからどうぞ。まあちょっと長すぎるんですけど……。 ku-ku-baku-baku.hatenablog.com
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