空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 97

 

長渕聞いたりダラダラ話しながら課題やって、休憩つってお菓子食ったり。
 
母ちゃんが作ってくれたミートソース食ってカレー食って、あっという間に一日が終わってしまった。
 
 
灰谷と二人、帰るという佐藤と中田を玄関先で見送る。
 
「じゃあまた明日な~」
「んじゃな、真島、もうちっと頑張れよ」
 
中田がオレの肩を叩く。
 
「おう。頑張る」
「ダーリーン頑張って~」
「あいよダーリン」
 
「灰谷、真島のケツ叩けよ」
「お尻ペチペチだ~」
「わかってるって」
 
「帰り気をつけてな」
「ウーイッス」
 
泊まって行けばと誘ったのだが、課題に疲れたのか、明日の追いこみを考えてか、サトナカは帰って行った。
 
「灰谷は、泊まってく…だろ」
「おう。当然。ケツ叩かねえと」
「おう……」
 
サトナカといる時はなんでもないのに、なんだか二人きりになった途端、少し恥ずかしくなってしまうオレ……。
いかん、乙女化している。
 
「灰谷、シャワーでも浴びてくれば、オレ、課題やってるし」
「そっか?んじゃあ、そうするか。節子~シャワーお借りしまーす」
 
灰谷が台所に声を掛けた。
 
「どうぞ~灰谷く~ん」
 
母ちゃんの声が返ってきた。
 
灰谷はいつも律儀に母ちゃんに許可を取る。
節子と呼び捨てだけど基本敬語だし、なあなあにならないというか。
図々しくないというか。
そういう所もいいよなあと改めて思う。
 
婿チック……。
いやいやオレ……。
 
「一緒に入るか?」
 
ニヤけ顔の灰谷の腹にオレはパンチする。
 
「グフッ」
「今度言ったら、殺す」
 
階段を駆け上がる。
あの冗談、笑えねえ。
 
 
 
課題。
明日中に終わらせて、明後日、夏休みの最後にはマジハイサトナカで思いっきり遊びたい。
みんなは全然余裕で終わりそうだけど。
オレは……かなり厳しい。
 
写すだけっていってもスピードには限界があるしな。
つうか腕も、ちっと痛い。
つうか目も疲れた。
 
ん~。
ダメだ。やろう。考えてる間にやろう。
 
オレは座卓に向かい、課題を続ける。
 
あ、あと世界史の読書感想文かあ。
 
誰にすっかな。
佐藤がテキトーに書いてくれるって言うけど。
世界史……。
 
 
だってワンピースは全世界で何万部も売れてるんだぜ。
 
そうだ。そうしよう。
尾田先生なら佐藤も書けるはずだ。
世界史じゃない?そんなのカンケーねえ。
つうかヘタな世界史よりある意味世界史だぜ。
 
ワンピの良い所は、まずルフィが……。
 
 
「おい」
 
ん?
 
振り向いたら上半身裸で下にバスタオルを巻きつけた灰谷が立っていた。
 
「な!」
「着替え持ってきてくれるんじゃねえの?」
 
灰谷は濡れた前髪をかき上げた。
 
「う!ワリぃ」
 
え?オレそんな事言った?
あれ、それってデフォルト?
いや、でもそうか。
オレ嫁みたいじゃん。
 
つうか……灰谷のカラダ、エロい……いやいやよせ、オレ。
 
「ま、待て。ステイ。そこにステイ」
「オレは犬か」
「パンツ、新しいのもうねえから、オレのでいいか」
「ああ」
 
オレはクローゼットから着替えを出して、灰谷のカラダを見ないようにして渡す。
 
「洗濯済みだから」
「ああ。サンキュー」
「おう」
 
オレは座卓の前に戻る。
灰谷が服を身に着けている気配がする。
今ほぼ全裸、だよな。
 
海で見た灰谷の海パン姿を思い出す。
ガッチリした肩に張った胸筋。
小さめな乳首に締まった腹。
んで、オレのパン……やめろオレ。
 
ん~。ちょっとソワソワ。
落ち着け乙女ちゃん。
 
課題課題。
 
背中を灰谷が通り過ぎた。
 
ボスッと音がして、ガーとドライヤーの音が聞こえ始めた。
ベッドに腰掛けて髪にドライヤーをかけているらしい。
 
「灰谷オマエ、家に連絡してる?昨日とかも」
「あー、してる」
「ならいいけど」
「どうせ母ちゃん、頭お花畑だから平気だよ」
「あのファンキー母ちゃんがお花畑って信じられ……」
 
顔を上げて灰谷を見れば下はハーフパンツ履いてるけど首からタオル掛けて上半身裸だった!
 
「……オマエ、上」
「あ?」
 
目のやり場に困るっつうの!
 
「なんで上、着ねえの?」
「あ?ドライヤーかけてる間、暑いだろ。汗かくじゃん」
「おう」
 
そうだけど。
この間は着てたじゃん。
もう~。
 
オレは心の中でため息をつく。
 
つうかシャワー後ってなんかこう、色々想像しちゃって艶めかしいんだよ!
 
 
しばらくしてドライヤーの音が止まった。
 
「真島」
「うん?」
「真島って」
「なんだよ」
 
オレは灰谷の方を見れない。
 
「ごめんな」
「え?」
 
あ、灰谷、Tシャツ着てる。
 
「なんかオレ、ワリぃ」
「いや、いいんだけど。つうか、なんで謝るの?」
 
灰谷が謝る所じゃねえよな。
オレの都合だし。
 
「いやだって、言ってみればオレ、自分の事好きだって言ってる男の前でおっぱいペローンって見せつけてる女って感じだろ」
「は?」
「配慮が足りなかった。すまん」
 
おっぱい……ペローン?
おっぱいペローン?
 
「アハハハハハハ。おっぱいペローン。おっぱいペローン」
 
一日、ギチギチ課題やっててギューギューに張り詰めてたオレの頭の中が弾け飛んだ。
 
「アハハハハハハ」
「オマエ、人が謝ってんのに」
「いや、もう、オマエの口から……アハハハハハ」
 
おっぱいペローンなんてとても言いそうにない顔してるくせに。
しかもペローンてなんだよ。ペローンって。
 
「アハハハハハ」
 
笑いが止まらなくなった。
 
「オマエ……」
「アハハハハハハ」
 
オレは笑い転げた。
 
「イ、イタイ。腹イタイ……イタタタタ……な、涙が……」
 
涙を拭いながら灰谷の顔を見れば……あれ?灰谷怒ってる?いやテレてる?
 
 
「真島コラ。こっち来い。」
「なんだよ灰谷」
「いいから来い。ケツ叩いてやる」
「やめろ」
 
灰谷が寄ってくるからオレは逃げる。
灰谷が追う。
なぜか部屋の中で追いかけっこ。
 
「逃げるな真島」
「逃げるだろ普通。やめろ灰谷」
 
狭い部屋だ。
すぐに捕まった。
 
「なんだよやめろよ灰谷」
 
 
バシッ。バシッ。バシッ。
 
「イタイ。イタイ」
 
ヒザの上に載せられてケツを叩かれた。
 
「人が謝ってんのに」
 
バシッ。
 
「イタイ。イタイ。腹とケツがイタイ。やめろ灰谷」
「謝ったらやめる」
 
バシッ。バシッ。
 
「悪い悪い悪かった。オレが悪かった灰谷。やめろ~」
「百叩きだ。ていっ」
 
最後にもう一つ強めに叩かれてやっと灰谷から開放された。
 
「ったく。人の純情をもて遊びやがって」
 
それを言うならオレの純情だと思うんだけど。
オレたちの純情?
 
オレはケツをさすりながら言う。
 
「オマエ、本気で叩くなよ。痛いじゃん」
「オレの心が痛いわ」
「悪かったよ。でもさ、おっぱいペローンはないよな。ポローンはあってもさ」
「あ?」
「だからさ、ポロッならわかるけどさ。ペロッじゃもう最初から自分で見せてるから、まるで痴女じゃん」
「ああ、まあな。…ってそういう事じゃねえから」
 
珍しい灰谷のノリツッコミだった。
 
「わかったわかった。ゴメンゴメン。気ぃ使ってくれてありがとな」
「おう」
「あ~ウケた」
「オマエはホントに笑いのハードル低いな」
 
灰谷が呆れ顔で言う。
 
「そうかも知れない。特にいつもボケない灰谷がボケるとほぼ百パーウケる」
「ボケてねえわ」
「ワリぃワリぃ。あ~目が覚めた。課題やるか」
「おう」
 
オレと灰谷は向かい合って座卓に向かった。
 
「オレ、後は古文だけだから終わったら……」
 
ダメだ。この真面目な顔がさらにクる。
 
「クククク。おっぱいペローン」
「真島オマエ~」
「はいはい。ワリぃワリぃ」
 
 
灰谷とまた、下らない事で笑ったり、ジャレ合えるのが単純に嬉しかった。
 
 
 
 
時々思い出し笑いしながらノートにシャープペンを走らせる真島を盗み見ながら灰谷は思う。
 
こいつって、こんなに笑い上戸だったっけ。
 
子供の頃はそう言えばこんな感じだった。うん。
 
それが、いつからだろう。
ここまで気を許して笑わなくなったのは。
 
中学の終わり?
高校入ってから?
 
学校の休み時間にもいつの間にか一人でふらりといなくなってしまう事も増えた。
どこに行っていたのかと聞けば、「ん~屋上。眠くて」といつも答えたっけ。
 
一人になりたい時もあるだろうな、と思って、放っておいたり、でも節子の言うようにこう見えて意外と淋しがりなのはわかっていたから、適度に構うようにはしていたけど。
 
オレの事をいつからそういう意味で好きだったのか聞いてないけど、もしかしたらその頃からだったのかもしれない。
 
今、明るく無邪気に笑う真島が、多分本来の真島なんだ。
だとしたら、辛かったよな。
 
 
心もカラダも成長していく時期。
 
カラダ。
カラダか。
 
やっぱそこなのかな。
オレは……。
 
ふいに灰谷の手の中に、真島の尻を叩いた時の、男にしては細い腰、そしてふっくらとした尻の感触が蘇って来た。
 
 
オレ……。
いや。
情動だけに流されるとまた真島を傷つけてしまう。
 
カラダ。
カラダか。
 
わかりやすいっちゃわかりやすいけど。
それだけでいろんなものを測るのは危険だよな。
 
時間をくれとか言っちゃったけど、時間をかければわかんのかな。
早く答えを出さないとこの先キツイだろうしな。
真島も。
オレも。
 
 
「ククク……」
「真島~」
「ごめんって~」
 
 
でもまあ今は、とりあえずこのままでいいか。
 
楽しそうに笑う真島を見て灰谷は思った。
 
 
 
 
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