2023-01-01から1年間の記事一覧
『アキノワルツ』、お読みいただいてありがとうございます。タイトルのままですが、しばらくお休みを頂きます。週3日投稿していましたが、ストックが無くなってしまいました。くわえて首と右腕に痛みがあり、長時間キーボードを打つのが困難になったためです…
「久しぶりだな」灰谷を見て春日井が言った。 「オレのこと、覚えてるんですか?」「覚えてるさ。灰谷だろ。西村と同じチームにいた」 春日井が自分のことを認識していたこと、名前まで覚えていた事に灰谷は驚いた。 「良いセンスしてた。いまどこでやってる…
ピピー。 試合終了を知らせる笛の音が響くと、灰谷はその場に倒れこんだ。 ハッ ハッ ハッ ハッ。 息がはずみ心臓がバクバクと音を立てた。肺が新鮮な空気を求めている。 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。 なんも考えられない。 灰谷は目を閉じ、カラダの声…
『灰谷、ヤバイ。助けてくれ~。親父に殺される……』 金曜の夜に物騒な電話をかけてきたのは少年サッカー時代のチームメイト・西村だった。 「何?どした?」 話を聞いてみればなんのことはない。西村の父が毎週末、仲間と楽しんでいるサッカーのメンツが足り…
「と…友樹…あの……オレ……」オレの声が震えている。 と、その時、ふいに友樹が下を向いた。友樹のつむじが見える。 そして肩が小刻みに震えはじめた。 え?泣いてる?……。え?え? 「……くッツクククク。アハハハハッ」友樹が腹を抱えて笑い始めた。 「マコ先輩…
「灰谷先輩、楽しんでますかねえ」 黙っているのにもさすがに飽きたのか脚をブラブラさせながら友樹がいう。 昨夜灰谷から電話があった。 「ワリぃ、明日迎えに行けなくなった。徒歩で行ってくれ」「なん?どした」「バイトも休みもらったから」 何事?と聞…
ブチブチッ。 天井のスピーカーから、コンセントにささったケーブルを無理やり強く引き抜いた、みたいな音がした。 「あっ有線」と友樹がつぶやく。 店の中に流れていたBGMが止まってしまった。 「店長に言わないと」と立ち上がろうとした友樹に「雨風強いと…
まるで嵐だよ……。 「友樹、アメリカンドッグ食わない?」 「え? いいんですかねえ」 友樹はチラリとバックルームの入口に目をやる。 「いいだろ。誰もいねえし。店長、当分出てこねえよ」「ですよねえ」「Suicaな。オゴるわ」とオレがスマホを渡すと「ごち…
時計の針は午後二時過ぎ。土曜日だというのにコンビニ店内は空っぽ。朝からどんよりした曇り空で予報は夕方まで傘マーク。 窓ガラスを拭く手をとめ、空を見上げれば予想どおり今にも雨が降り出しそうだ。 「マコせんぱ~い。来ないですねえ、お客さん」 床に…
「マジナカ~、オマエらどこ行ってたんだよ~」「おう佐藤、勉学に励んでたか?」 寄ってきた佐藤の額を指ではじく。 「イタッ。なに上機嫌だよ真島は」「いや、んな事ねえよ」 って、ああ。こっち見てる灰谷の顔……。あれはちょい心配してんな。 席にすとん…
屋上のドアにカギを掛けて、ガーンと蹴るとカチリと閉まる音がした。
矢沢のモノマネでなんとか中田から笑いを引き出した。
「わざわざすいません」 灰谷が席をたち、教室の入口に立つと友樹はニコリと微笑み、小さく頭をさげた。佐藤はといえば灰谷の隣りに立ち、腕組みをし、友樹を上から下まで眺め回していた。
「あれ、マジナカいねえな。連れションか?」 結局オゴらされてしまった灰谷とご機嫌の佐藤が教室に戻って来ると、真島と中田の姿はなかった。
「ガーッ。ざけんなチクショウ」 あ、大きな声で叫んでる。
『高橋が言ってたんだよ。やらしいことできるって』
「ふ~~スッキリ」 例によって例のごとくハンカチ忘れちまったんで、ぬれた手をフリフリ、トイレを出る。まだ教室に帰るのは早いかもなあと向かったのはオレの憩いの場所だった。
「いやぁ!灰谷がオナってんの想像しただけで萎えるわ!」
「んじゃ真島、中田は?」 そう来たか佐藤よ。
「なあなあ真島、オレってアリ?ナシ?」 昼休みになっても佐藤は朝の話を忘れていなかった。
『未来は僕らの手の中』……か。
「なあなあ真島、あのな、オレってアリ?ナシ?」
夏の終わりに、買ったばかりのチャリを盗まれてからこっち、灰谷はいまだにオレを迎えに来てくれている。
朝、いつもの交差点に着き、オレの特等席(灰谷のチャリの後ろ)から降りたところで佐藤の呼ぶ声がした。
『気をつけて。ホントにホントにホントに気をつけて』という節子の言葉を守り、安全運転を心がけながら灰谷は自宅に向けバイクを走らせていた。
♪フンフフン~ 鼻歌まで飛び出して、皿を洗う節子は上機嫌だった。
「ホンっトにオマエは……」 え?え?オマエは……何?
食事会のメニューもギョウザメインの中華に決まった。こりゃあ楽しみだぜっとオレは思ったけど、灰谷的にはどうなんだろうな。
「灰谷く~ん。座って座って」 居間のテーブルの上に料理本やらレシピノートやらを広げた母ちゃんがソファから嬉しそうに手招きする。
「しっかし、モノの少ない部屋だな」 一人になった友樹はあらためて部屋をぐるりと眺め、つぶやいた。