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アキノワルツ 第40話 金曜夜の電話

『灰谷、ヤバイ。助けてくれ~。親父に殺される……』

金曜の夜に物騒な電話をかけてきたのは少年サッカー時代のチームメイト・西村だった。


「何?どした?」

話を聞いてみればなんのことはない。
西村の父が毎週末、仲間と楽しんでいるサッカーのメンツが足りない。
来られないかという誘いだった。


「なんだよ殺されるって。大げさだな」
『いや、マジなんだよ。うちの親父、週末サッカーと、その後の飲み会が命なんだ。今回ホントに集まらないみたいでさ。オレは強制参加で最低あと一人って言われてさ』
「バイトあるんだよな」
『それ休めねえ?』

……休めないことはないかも知れない。明日は天気悪いらしいからお客さんも少なそうだしな。

『頼むよ灰谷。サッカーできるやつに電話かけまくってんだけど、どういうわけか捕まんなくてさ。灰谷が最後なんだよ』
「ん~どうだろうなあ」
『こづかい減らされる~』
「……」

脚を痛めて辞めてから、サッカー関係の誘いはすべて断ってきた。

『灰谷~頼むよ~』

このところなんだかモヤモヤしている。

真島のこと。
母のこと。
進路のこと。
考えたところですぐには答えの出ないこと。

行ってみようかなと思ったのはそれらのことから少しでも離れたいという気持ちがあったからかもしれない。


最近新人が入った事もあり、バイトはあっさりと休みがとれて、すぐに真島に電話をかけた。


『灰谷、どした?』
「ワリイ、明日迎えに行けなくなった。徒歩で行ってくれ」
『なん?どした?」

数時間前まで真島家でいつものように過ごしていたからだろう。
心配そうな真島の声に別にLINEとかでも良かったんだよなと思いつつ、サッカーの試合に誘われた事を話した。

『おっ、いいじゃん。行けよ行けよ。足は大丈夫なんだろ』
「ああ。もう辞めてからかなり経つし、無理しなきゃ大丈夫だろ」
『無理な、無理っつうかさ』

そう言うと真島は楽しそうにクククと笑った。

「なんだよ」
『灰谷ってさ、勝負事になるとスイッチ入って熱くなるよな』

いや、うん。まあな。その自覚はあるけど。

『負けず嫌い』

さすが真島。よくわかってる。

『だから!無理もだけど、無茶だけはすんなよ』
「わかった」
『おし。そっか~。でもオレも見たかったな。灰谷が走り回るとこ。休めねえかなバイト』
「二人休んだらまわらねえだろ」
『だよな~』
「そういや昔、よく来てくれたよな、節子といっしょに」
『おうよ』

そうだった。真島親子は試合の度に必ず来てくれた。
真島の母・節子は必ず心づくしのお弁当を作り、チームに唐揚げの差し入れまでしてくれ、真島は声を限りにスタンドから応援してくれた。
仕事に忙しくほとんど来れなかった母・久子にかわって自分がさびしい思いをしないようにという事もあったのだろうと今になって思う。
ホントに真島家には足を向けて眠れない。

『ミム、まだムーミン谷にいそうな顔してんのかな』
「ああ。だろうな」

久しぶりに聞いた西村のあだ名に灰谷は懐かしさを覚えた。

『あれ?ミムって西村何って言うんだっけ』
「西村亮」
『お~そんな立派な名前があったのか~』

そもそも西村を『ミム』と呼ぶのは灰谷と真島だけだった。
チームメイトはみな『ニシ』と呼んでいた。

ある日、真島が言ったのだ。

「西村ってさ、ムーミン谷にいそうな顔してねえ?ほら、あれ……ミムラねえさん!」

言われてみれば確かに似ている。
ニシムラとミムラを合わせてニシミムラ
長すぎるから、略して、なぜか『ミム』。

真島がミムミム言うから、つられて灰谷もミムと呼ぶようになったのだった。
当の本人にはこの事は内緒にしていたから(真島がその方がおもしろいじゃんと言うので)きっと今でも不思議に思っている事だろう。

『まあ、久々に楽しんでこいよ。バイトはオレと友樹にまかせなさい』
「おう。よろしく頼むわ」

友樹か。友樹な。

電話を切った灰谷は、そこもちょっとひっかかるワードではあるんだがな、と思った。

 

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