空々と漠々 くうくうとばくばく

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アキノワルツ 第35話 雨のコンビニ①

時計の針は午後二時過ぎ。
土曜日だというのにコンビニ店内は空っぽ。
朝からどんよりした曇り空で予報は夕方まで傘マーク。

窓ガラスを拭く手をとめ、空を見上げれば予想どおり今にも雨が降り出しそうだ。

「マコせんぱ~い。来ないですねえ、お客さん」

床にモップをかける手をとめ、友樹がぼやく。

「ああ。天気こんなだし。来るなら雨上がってからじゃね?」
「ですよねえ」

キュッキュッキュッツ。
オレは力を入れてガラスをこすった。
やれることはやっちまわないとな。


「次は何します?マコ先輩」

モップをしまいながら友樹がオレに指示をあおぐ
何しよう。掃除は終わったし、お客さんは来ねえし。

「ん~~座っとくか」
オレは大きくのびをして言った。

「ですね~」


店を入って左側にはイートインコーナーがある。
L字型のテーブルに脚の高いイスが6つほど並んでいる。
外を見渡せる席に友樹と二人、並んで腰掛けた。

店の前は車が6台ほど停められる駐車場になっていて横断歩道をはさんで向かいは1階がモスバーガーで2階が美容院の入ったビルだ。
モスバにはお客さんが二人ぐらいしかいないし、美容院にいたっては人が誰もいない。美容師さんもいない。バックルームで休憩でもしてんのかな。

「モスバってなんであんな高えの?」
「あ~ブランド力ですかねえ」
「オレはやっぱマックだな」
「ですね~」

なんて友樹と他愛のない会話をしてみる。


そうこうしているうちに美容室の前にぶら下がってるフリルみたいにたわんだ電線がゆらゆらし、植えこみの木の枝がバサバサと揺れはじめた。


しばらく黙って、友樹と二人、窓の外を眺めた。

「風、強くなってきたな」
「ですね~」

入口に敷かれたマットのフチが風にあおられ、くるりと持ち上がる。

「ボク、入れてきます」と友樹がすばやく立ち上がった。

マットをくるくると丸める友樹の髪が風で大きくかき乱れ制服のすそがパタパタとなびく。


友樹はホント、気が利くというか神経細やかというかフットワーク軽いというか。
できるヤツなんだよなあ。


マットを抱え、友樹が戻ってきた。

「サンキュー。カウンターの角っこにでも転がしといて」
「は~い」

なんてやってたらとうとう窓ガラスにポツポツ小さな雨粒が当たり始めた。


「あー来ちゃいましたね」
乱れた髪を手で整えながら友樹が隣りにすとんと腰を下ろす。

「だな~」


。 。 。ポッ 。。。ポツ
 ――ポツ――ポツ。
  ――――ポツポツ。
 ――――ポツ。ポツポツポツ


窓ガラスに小さな雨の粒。

水滴ってなんだかキレイだな。
透明のビニール傘についたのって、ついつい見ちゃうんだよな。


雨あしは次第に強くなり、

――――ポツ 。。ポツ。。 が
〰〰〰〰ザー
    〰〰〰ザー〰〰〰ザー
〰〰〰〰ザ〰〰〰〰 〰〰〰ザー 
   〰〰〰ザー 〰〰〰ザー

になってきた。


そういえば……前に灰谷が北斎の雨の線が好きだとか言ってたような気がする……。
波頭の弾けた線はカメラのない時代なのに、ほぼ正確だとかなんとか。
あいつって美術系も好きだよな。インテリア関係の仕事してる母ちゃんの影響なのかな。


〰〰ザー〰〰〰ザ〰〰〰は
ゴー~~~ゴー~~~ゴー~~~ゴーに。

風は勢いを増し、叩きつけるような横殴りの雨になって来た。

 

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