空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 98

 

「あ~もう~飽きた~。飽きたよ中田~」
 
短期集中課題デーも二日目を迎えて、さすがにシンドくなって来た。
佐藤の言うとおりだった。
 
飽きた。
とにかく字を書くのに飽きた。
 
今日までに終わらせたい、いや、終わらせる、そんな気持ちで昨日、サトナカが帰った後も頑張って、なんとか半分近くは終わったけれど。
残り後半分……。
コレを今日中にやり切って明日一日空けるのは難しそうだった。
つうか、提出日までに間に合うかどうかも怪しい。
 
う~。オレも煮詰まっていた。
 
 
「んじゃあ、こういうのは?今まで隠してた秘密を一人一つずつ打ち明ける」
 
中田が言い出す。
 
「何それ?」
「お遊びだよ。つまんねえんだろ。おもしれえじゃん」
 
秘密……。
 
「ほいじゃあオレからね」
「中田早いって~」
「聞いちゃったら言わなきゃダメだぞ。つうか、オレらが知らなくて自分が秘密だと思ってりゃなんでもいいんだよ。実は童貞です、とかでもさ」
 
中田は佐藤の背中を叩いた。
 
「バッバカ」
「ああ、みんな知ってるから秘密じゃねえわな」
「もう~中田のイジメっ子」
「じゃあ、オレからな。あのな、杏子がさ、浮気してる」
 
!!
 
マジハイサトは固まった。
 
「え?まさか、あの杏子ちゃんが」
 
佐藤が言うと中田は涼しい顔で言った。
 
「それがホントなんだな。オレが夏休みバイトばっかしてただろ。その間、実家の食堂のお客さんと浮気してた。多分まだ続いてる」
 
「な…中田…オマエ……」
 
さすがの佐藤も二の句が継げなかったようだ。
オレもなんて言っていいかわからなかった。
 
 
「ほい、じゃあ次佐藤」
「…っておい。なんでそんなに軽いんだよ」
「あ~まあ。しょうがねえかなと」
「何それ?どういう事?」
 
中田は淡々と話し始めた。
 
「オレと杏子さ、長いじゃん。まあそういう時期もあるかなって。オレだけじゃなくて他の男に目を向ける時もあるかもなってさ」
「ふ、ふざけんな。中田を裏切ってそんな事。オレは杏子ちゃん許さねえぞ」
 
佐藤が拳を握った。
 
「佐藤、オマエが許さないとか関係ないじゃん。オレと杏子の問題だし」
「そうだけどよ」
 
ああ。そういう事なのかも、と少しだけ思う。
オレと灰谷が結衣ちゃん明日美ちゃんと別れた時、杏子ちゃんは何も言って来なかった。
杏子ちゃんの性格上、『女の子泣かせやがってマジーティー』と一発食らってもおかしくないと思っていた。
中田が自分の所で止めてるんだと思ってたけど、さすがの杏子ちゃんも自分の事を棚上げにして、オレ達に色々言えなかったのかも知れない。
 
「まあさ、もう、実はハラワタ煮えくり返る思いもあるけど。他の男とヤッてんのかな、とか思うと。でも、燃えるのも確かなんだよね」
 
マジハイサトは黙りこんだ。
 
「ああ、そんな顔すんなオマエら。だから秘密だったんだけど」
「でも、ひでえよ、杏子ちゃん。中田もなんでそんなに淡々と言えるんだよ」
 
佐藤が言った。
 
「オレ別れる気ないから。オレにとってあんなイイ女いないし。あいつにとってオレみたいにイイ男もいないと思うからね。幼なじみ同士、お手てつないでお花畑を歩いてるだけってわけにもいかないじゃん。こういうのもあっていいんじゃないかと思って」
「中田……」
「まあ言ってみれば、オレの男が上がるチャンスでもあるじゃん」
 
中田は不敵に笑った。
 
「いゃあ~スッキリした。オレ、誰かに言いたかったんだわ」
 
 
 
「オ、オレ、好きなやつに告白した」
 
中田の秘密を聞いて、オレは思わず口走っていた。
 
「相手は言えねえけど。ずっと好きだったやつに告白した。これからは自分に正直になる。自分にウソはつかねえって決めた」
 
あ、言っちゃった。
さすがに灰谷の方はちょっと見れなかった。
 
「がんばれ真島」
「おう。オマエもがんばれ中田」
 
オレと中田はガシっと手を握りあった。
 
ハッと我に返ったような顔をして佐藤が言った。
 
「真島、相手誰だよ」
「だから言えねえって言ってんだろ」
「オレも知ってるやつ?」
「だから~言えねえって…」
「あ、知らないやつなら知らないって言うよな。そう言わないって事は知ってるやつか?」
 
佐藤は中々鋭い所を突いてきた。
 
 
ふう~。
 
灰谷が息を吐いた。
 
「うちの母ちゃん、結婚する」
「え?ホントに?」
「おう」
「つうかそれって別に秘密じゃなくねえ?」
 
佐藤がツッコんだ。
 
 
「相手、女だ」
 
・・・。
 
サトナカがポカーンとした。
まあ、そうなるよな。
 
「え?」
「え?」
 
「会社の後輩と同性婚するんだと」
 
灰谷はわかりやすく言った。
 
「え~!!何それ何それ」
 
一気に佐藤のテンションが上がった。
 
 
「ス、スゴイな、オマエの母ちゃん」
 
中田が控えめに言った。
 
「おお」
「スゲエな。スゲエな。でも、知らねえおっさんがお父さんになるより、キレイな……その人美人?灰谷」
「ああ。まあ」
「キレイなお父さん……ん?お父さんか?え?お母さんが二人?その方がいいじゃん」
「……佐藤、その発想はなかった」
「そうか?」
 
「まあでも、おめでたいじゃん。よかったな灰谷」
「まあな」
「あ~でも、そんなのブチこまれちまうとオレにはそういう秘密みたいなのないんだよ~」
 
佐藤が言い出す。
まあ、佐藤はそうだろうな、と思う。
秘密にできないタチ。
 
「ねえんならいいよ別に。無理やり探さなくても」
 
中田が言った。
 
「いやいや、みんなそこそこスゲエのをブチこんでんだからオレもなんか……う~ん」
 
佐藤は唸った。
 
「つうか、みんな、手が止まってね?」
「お~」
「ワリぃ、オレ、トイレ」
 
オレは立ち上がる。
 
 
用を足しながら考える。
 
あの杏子ちゃんが……。
それにしても中田のやつ、男前。
達観さ加減ときたらハンパねえな。
なんでだろう。
燃える?
まるで倦怠期の夫婦みたいな発想。
 
つうかオレ、告白したなんて言って良かったのか?
相手灰谷なのに。
中田辺りにすぐバレるんじゃね?
 
なんかついつい……。
 
 
トイレから出ると灰谷と鉢合わせた。
 
「どした?」
「あ、小腹空いて」
「そういえばオレも。母ちゃ~ん」
「あ、節子買い物行くって、今、出て行った」
「そっか。なんかあるかな」
「そうだ真島、あのパスタ、作ってやろうか」
「え?ホント?うん」
 
 
台所に立つ灰谷。
見るの久々。
いや、焼き肉の時以来か。
 
「灰谷、驚いたな中田の話」
「ああ」
 
灰谷が水を入れた鍋を火にかける。
 
「杏子ちゃんがな~」
「うん」
「倦怠期ってあるのかな」
「ん~そこまで付き合ったことねえからわかんねえな」
「うん」
 
オレもそうだった。
 
もし、もしも、もし、も、オレと灰谷がが付き合うようになったとして。
いや、仮定だけど。
だとして、そういう時期も来るのかな、なんてチラリと思ってみたりもする。
まあ、まだ返事貰ってねえし、仮に付き合えたとしても先の先の話だろうけど。
 
灰谷が冷蔵庫から野菜を取り出す。
 
「真島、トマト缶、どこにあるかわかるか」
「トマト缶。どこかな」
 
オレは戸棚を開けて探す。
 
「あ、ゴメンな」
「何が」
「オレ、好きなやつに告ったとか言っちゃって」
「別にオレは……」
「まあ、オマエの名前出したわけじゃねえけどな」
「ああ」
「なんか、中田のあんな事言われちゃうと、なんだかさ」
「ああ」
「まあでも灰谷も母ちゃんの事、あんな感じであいつらに話せて良かったじゃん」
「おう」
「あ、あった。一個でいい?」
「おう」
「ほい」
 
麺を茹でている間に灰谷が野菜を刻む。
 
明日美ちゃんに、すんげえ優しく教えてたな包丁の使い方。
ムムム。
 
「オレも手伝う」
「は?そんなやることねえよ?」
「なんか切るわ」
「いや、そんなに切るもんねえし」
「なんかあるだろ」
 
オレは手を洗い包丁を出した。
 
「んじゃあ、切りやすいナスでも切るか?」
「おう」
「こんぐらいの厚さな」
 
灰谷が何枚か切ってくれた。
 
「包丁はこう握って」
「うん」
「指切るなよ」
「わかってるよ」
 
ナス……。
う~ん。
刃物ちょっと怖い。
厚さ揃えるのがムズイ。
 
オレが悪戦苦闘している間に灰谷は玉ねぎを薄くスライスしてベーコン切ってニンニクも細かく刻んだ。
 
「あとは大葉だな」
「大葉ってどうやって切るの」
「まず茎を切って横半分に切るだろ。で、こうやって端から丸めて、こう」
「お~なるほど~」
 
丸めて切るのか。知らなかった。
灰谷手際いいな。
 
「ナスできた」
「お、サンキュー」
 
自分でやったほうが早いだろうにオレに手伝わせてくれる灰谷。
 
フライパンで野菜を炒め始めた。
 
「皿用意しといて」
「ほ~い」
 
オレは大皿と取り皿、フォークを四人分、お盆の上に用意する。
 
タイマーが鳴った。
 
「真島、麺、ザルに上げて」
「おう」
「したら、こっち入れて」
「ほ~い。うおっ湯気が」
 
灰谷がジャッジャッとフライパンをふるう。
 
 
「ジャカジャーン」
 
ナスとベーコンのトマトパスタが出来上がった。
 
「うまそう!メッチャうまそう!つうかウマい」
「まだ食ってねえじゃん」
「いや、ウマイ。絶対ウマイ。先に一口一口」
 
オレはフォークに巻きつけて口に入れる。
 
「おい、フライイング」
「うま~い。なんだこれ。メッチャうま。止まんねえ~」
 
オレは夢中になってほおばった。
 
 
「真島」
「ん?」
「口元、ついてんぞ」
 
灰谷がオレの口元についたトマトソースを中指でぬぐうとその指をペロリと舐めた。
 
その目、その指、その舌、その口。
 
……エロい。
 
ズキューン。
 
オレ……死んだ……。
 
「オマエそれ持って先、上に上がって。オレ、飲み物持って行くわ」
「おう」
 
灰谷がいなくなった途端にオレは身悶えた。
 
なんなのあいつ。
なんなのあいつ。
あんな事した事今までなかったじゃん。
 
距離感距離感距離感~。
自分の事好きだって男にする事じゃねえから~。
 
なんなんだあいつ。
天然のたらしなの?
 
母ちゃんや女の子達の気持ちがわかった気がした。
つうかそれをオレに発動してどうするんだよ~。
しかも無意識で。
タチ悪いぞ。
 
 
乙女ちゃん爆死……。
 
 
フラフラになって二階に上がった。
 
「遅いよ真島、何してたの?無くなるよ」
 
え?皿の上のパスタはすでに残り少なかった。
 
「早いよオマエら。後はオレによこせ」
「なんだよ真島、オマエがモタモタしてっからだろ。何してたんだよ」
「あ~?なんもしてねえわ。もう~」
「まあまあ、今度はオマエだけに作ってやるから」
 
チュドーン。
 
助けて~。
 
乙女ちゃん、心臓が持たねえよ~。
 
 
 
 
 
 
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