ナツノヒカリ 96
「真島~てめえ~ぶっ殺ーす」
佐藤に首を締められた。
「佐藤、ギブ。ギブ。ロープロープ」
「オマエ~課題丸投げしてったろ。確信犯だろー」
案の定、朝起きれなくて、灰谷と遅い朝メシを食べていた所にサトナカがやって来た。
「いやいや違うって」
「違わねえ」
「なんだよダーリン。許してくれよ。これからタカユキするからさ」
「よし、しろ。メッチャしろ。タカユキしまくれ」
「まあ、とりあえず卵焼き食え」
オレは佐藤の口に卵焼きをツッコんだ。
「うぐっ。……ウマイ!真島の母ちゃん最高」
「あら~ありがとう佐藤くん」
台所で大きな鍋の中をお玉でかき回しながら母ちゃんが言った。
「オッス真島」
中田がオレの頭をポンと叩いた。
「おう中田」
「遅いお帰りで」
「ワリぃ」
「気にすんな」
「あ、バイクも、ありがとな」
「オレは何にも。礼なら兄貴に言って」
「ああ。でも、ありがとう。中田も、佐藤も」
オレはサトナカの顔を見て言った。
「どしたの真島。素直じゃ~ん」
「オレは元々素直だよ」
「そいじゃ真島も帰った事だし。サトナカマジハイ、気合い入れて課題やっつけっかー」
中田が言った。
「ウーッス!!」
マジハイサトが声を揃えた。
*
オレの部屋に座卓を出してみんなで夏休みの課題開始。
灰谷の言った通り、課題はあらかた終わっていて、オレはみんながやってくれたものを写せばいいだけになっていた。
本当にありがたかった。
「つうか真島、ホントに断捨離したんだな。部屋空っぽじゃん」
「おう。佐藤もやってみな。スッキリすっから」
「いやあ、オレにはムリだよ。大事なものが多すぎる」
「それな、大事だと思ってるものも、一旦捨ててしまえば、そうでもなかったりすんだよ」
オレは一旦捨てろ説を話す。
「そんなもんかあ?」
「そうだよ中田。実際、あのクローゼットの中、何があったかもう思い出せねえもん」
「おお~」
「真島は元々、いらねえもん捨てなさすぎ」
「うるさいよ灰谷」
「つうか、あれ何?灰谷行きって書いてあるやつ」
窓際に積んであったダンボールに佐藤が目を留めた。
「あれはマン喫行き」
「マン喫?」
「オレんちだよ。オレんちを自分専用のマン喫にしようとしてんだよ、こいつは」
「お、それいい。ウチももうマンガ置ききれなくて、オレのも頼むよ灰谷」
「ざけんな」
「んもう~灰谷は真島にだけ甘いよな」
「そんな事ねえよ」
「甘えよ。真島の為に課題早く終わらせたいとかさ」
「え?」
佐藤の言葉に、オレは驚いて灰谷を見た。
「そんな事言ってねえ」
「言ったじゃん。この夏、真島と色々あって全然遊べてねえから、課題終わらせて一日でもいいからガツンと遊びたいって」
灰谷、オマエそんな事……。
見つめるオレと目が合うと灰谷が慌てた様子で言った。
「違えよ。オレは、みんなでガツンと遊びたいって言ったんだよ」
「つうか佐藤、真島と色々の下りは本人の前で言っちゃダメなやつな」
中田が佐藤を諭す。
そっか、それで昨夜、課題ダッシュとか言ってたのか。
そういえば、ガッツリ遊んでねえなあ今年の夏は。
まあ、そう。
色々あったからね。
「よっしゃ!じゃあダッシュで片付けてガツンと遊ぼうぜ!」
「って、真島が一番サボってたんじゃん」
「そうだな。ワリぃ」
「つうかみんな真島真島って真島ファンクラブか。ここは」
佐藤がスネ始めた。
「大体、現社の原子力の論文、四人分書いたのオレだぞ。すんげえ大変だったんだぞ。資料読みこんで、内容全部変えて、文体も変えてだな」
「あ~そうなんだ。ホントにありがとう佐藤。文体変えたの?さすが。芸が細かい」
「それとほれ。真島の古文のノート」
佐藤が新品のノートを放ってよこした。
「ん?」
「古文の教科書の予習、原文書くの時間かかるから、コピーしてノートに貼ってそこに書きこむという技を思いついたのオレだぞ。コピーもしたし」
「お~佐藤、オマエ、アイデアマンだな。いやあ頼りになるわ」
オレは佐藤を持ち上げる。
「ダーリンだけだよ。そんな風に言ってくれるのは」
「オレと佐藤の仲だろ」
「そうねダーリン。でもケツは掘らせないわよ」
「うん。我慢する」
「どういう会話だよ」
「ふわぁ~」
灰谷がツッコんで中田があくびをした。
「ほらあ、この二人はいつもこう。オレ、褒められて伸びるタイプなのに」
「褒められて調子に乗るタイプだろ」
「調子に乗って伸びるタイプなの!」
「口だけじゃなくて手も動かせ」
「まったく中田。腐男子のクセに」
「フダンシ?」
オレと灰谷がポカンとした。
「佐藤、それも言っちゃダメなやつな」
「なんでだよ~。マジハイが……」
中田が佐藤の口を塞いだ。
「ムグムグムグ」
「佐藤、そういうのは内緒にしといた方が面白いわけよ。バラしたら殺す」
「プハッ。暴力反対」
「中田、フダンシってなんだ?」
「あ?腹上死の……親戚~?」
「腹上死に親戚あんの?」
「いいからいいから。みんな手が止まってる。手を動かせ手を」
「なあ真島~。オマエ、どこ行って何してたんだよ~」
しばらくみんな無言でカリカリやっていたが、飽きて来たのだろう。
佐藤が話をフッて来た。
「あ~?色々?」
「色々ってなんだよ。その色々の一部を述べよ」
「んー、チャリで海行ったり」
「チャリで!」
「おう」
「こんの暑いのに?」
「うん」
「あらま、青春だねえ。中田、こういうの好きだろ」
「青春だな。いいねえ」
中田が目を細めた。
青春?青春かあ~。
青春かも。
オレは思った。
「つうかそもそもなんで一人旅とか出たわけ?しかもチャリで」
「え?いやあ~カッコよくねえ、一人旅」
ただ、一度色んな事をリセットしてみたかったなんて言うのもな。
「んー全国横断を目指す小学生のイメージ」
まあチャリって所はそうか。
「で、どうだった。行って良かったか?」
中田が言う。
行って良かったか?
「う~ん」
灰谷と目が合った。
そうだな。
「うん。行って良かったよ。忘れられない夏になった」
オレは灰谷の目を見て言った。
「良かったな」
灰谷が言った。
「うん」
オレは返事した。
「後は後は?」
オレは灰谷にも話したジャンボ餃子の話と、コインランドリー穴場説の話をする。
城島さんの部屋の話はちょっとできないんでしなかった。
「あ~なんか餃子食いたくなってきた。今度行こうぜ真島」
「おお。んでも場所がオレの頭の中にしかないんだよな」
「食べログに載ってね?」
「あ~店の名前……忘れた」
「ダメじゃ~ん」
「バイクならすぐだから、一回灰谷と行って、場所確認して来るわ」
「バイク~。やっぱオレらも免許取らねえ中田」
「そうすっか。んでも兄貴に頼むとまたナイト開催だぞ多分」
「わっ、そりゃダメだ」
「ナイトなあ~」
オレと佐藤はため息をついた。
「中田の兄貴、良い人なんだけどな~。歌がよ~」
「そうなんだよな~佐藤。うまくもなく、オンチでもなく」
「普通?ああいう熱い感情こめソングはさ~、シロートの聞くのツライよな」
「マジサト、オマエら、今のそのまま兄貴に報告すんぞ」
「中田!やめろ」
「一応オレ、弟だからさ。…ってまあ、実際オレもそう思うけど」
「だろ?」
「だろだろ?」
「もしもし中田の兄貴?」
灰谷がスマホを耳に当てている。
「やめろ灰谷!」
マジサトナカはワチャワチャした。
「ウッソ。オレ、兄貴の電話番号知らねえもん」
「なんだよ~」
「つうか、そういうのやめようぜ。世話になってるんだからさ。オレらは全力で中田の兄貴を気分良くさせるだけだって」
「でもさ~」
「つうかもう逆に楽しもうぜ。ホントに長渕ライブに行った気持ちでさ」
灰谷の提案にオレは閃いた。
「わかった。兄貴にベストファンを決めてもらおうぜ」
「あ、それいいかも、兄貴に賞金出してもらおうぜ。オレ、交渉するわ」
「それいい。頑張れ中田。よし、賞金ゲットだぜ」
「甘いな佐藤。今のオレは金欠だ。灰谷にバイク代返さなきゃならないしな。オレがベストファン賞頂きだ」
「何おう?真島、オレこそ金欠だ。この夏、どんだけフィギュア買ったと思ってんだ」
「どういう競い合いだよマジサト」
「中田、長渕かけろ。課題やりながら予習するぞ」
「OK」
中田のスマホから流れる曲にに合わせてオレと佐藤は声を上げる。
「オイ!オイ!オイ!」
「オイ!オイ!オイ!」
「♪勇次~あの時のエネルギッシュなお前が欲しい~」
「剛~」
「剛~」
「オイ!オイ!オイ!」
「オイ!オイ!オイ!」
賞金という目標ができたオレと佐藤は予習に余念がなかった。
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