空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 87

 

「ただいま~」
 
コピーの束を抱えて佐藤が帰ってきた。
 
「おう、お疲れ~」
「お疲れ佐藤」
「うん」
「遅かったな」
 
佐藤がドサリとシートに腰を下ろした。
 
「いやあ、そこのコンビニのコピー機が塞がっててさ。多分オレたちと同じ、課題?で、真島んちの方のコンビニまで行ってきた」
「あっちまで?大変だったな」
「オレ腹減ったよ~」
 
中田が首をぐるぐると回しながら言った。
 
「何時間いるオレら」
 
灰谷がスマホで時間を確認する。
 
「あ~四時間?五時間?」
「頑張ってんな~オレら」
 
灰谷は大きく伸びをして店内を見回した。
集中していたので気がつかなかったが、ファミレスの中は午後のガランとしたテーブルから一転、ディナータイムになったようで席が埋まり始めていた。
 
「ドリンクバーで粘るの限界じゃね?もうメシ食おうよ」
「だな、ちょっと休憩してメシにするか」
 
みんなでメニューを広げた。
 
「なんにしよっかなあ。あ、灰谷あのコンビニだっけ?アメリカンドッグがうまいって言ってたの」
「うん」
「何それ?」
「あ、中田知らないっけ?あそこな、アメリカンドッグが異常にウマイんだよ」
「オマエらのバイト先より?」
「うん」
「チェーン店だろ?」
「いや、なんだけどさ。あそこは違うんだよ。真島が一時期すんげえハマって毎日食べててさ。つられてオレも」
「へえ~。何が違うんだろうな」
「油かもな」
「油~?」
「あ、そうだ灰谷、真島のチャリの色って緑だったよな」
「え?黒だよ」
 
メニューから顔を上げて佐藤が言った。
 
「黒?あれ?蛍光っぽいグリーンじゃなかったっけ?」
「それはパクられる前だよ。この間買ったのは黒」
「黒?」
「男は黙ってブラックじゃねって言ってたわ」
「……」
「どうした佐藤」
「あのな、コンビニ入る時、チラッと見かけた黒いチャリの後ろ姿が真島にちょっと似ててさ」
 
灰谷が立ち上がった。
 
「どこだ。コンビニからどっちの方に行った?」
「え?ええと、だからあの先の…公園の方?」
「佐藤、カギ」
「え?」
「チャリのカギ」
「え?行くの?いやでも、コピーする前だからかなり時間経ってるぞ」
「落ち着け灰谷」
 
今にも飛び出しそうな灰谷に中田が声を掛けた。
 
「まずは連絡ないか確認してみろ。フツーに帰ってきてるのかもしれないだろ」
 
灰谷はスマホを手に取った。
 
「既読ついてる?」
「いや」
 
灰谷は真島に電話を掛けた。
 
『お客様のおかけになった電話番号は……』
おなじみのアナウンスが流れた。
 
「入ってねえの電源」 
「ああ」
 
灰谷は席に腰を下ろした。
 
「やっぱ見間違いかなあ」
「……」
 
中田が灰谷の背中をバシリと叩いた。
 
「イタッ。何すんだよ」
「灰谷、オマエ行って来い」
「え?」
「真島、探して来い」
「んなこと言ったって中田、電話にも出ないんだから、どこにいるかわかんないじゃん」
「いいから行け。迎えに行って来い」
「……わかった」
 
灰谷が立ち上がった。
 
「あ、灰谷、チャリのカギ。それとカバン、一応カバン持ってけ」
「おう」
「そんで後は、サトナカにまかせとけ」
 
 
灰谷は中田と佐藤を見ると、ニッと笑って飛び出して行った。
 
 
「……中田」
「ん~?何食う?」
「中田、オマエだけカッコよすぎねえ」
「何が?」
「『いいから行け。迎えに行って来い』とかさ」
「だな。背中押しちゃった。佐藤だって『サトナカにまかせとけ』とか言ってたじゃん」
「それぐらい言わせろよ~。つうか中田、ホントにマジハイ好きだよな」
「ん~尊いな」
 
腕組みをして小さくうなずきながら中田は言った。
 
「お、中田の口からそんな言葉が」
「桜子ちゃんに習ったんだよ」
「桜子ちゃんに!いつ?どこで?」
「こういうのを推しが尊いって言うんだろ」
「中田はあれだな」
「何?」
腐女子
「女子って」
「あ、腐男子?」
「あ~そうかもしんない。最近おもしろいんだわBL」
「マジか~。見た目とのギャップがハンパねえ~」
 
 
 
 
灰谷はコンビニまで自転車を飛ばした。
一応店内にも入り、真島の姿を探してみた。
 
いるわけない……か。
 
店を出ようとしてレジにあるアメリカンドッグが目に入った。
灰谷はドリンクの冷蔵庫まで戻るとペプシをつかみ、いちごオーレのパックをつかみ、レジに行った。
 
「あと、アメリカンドッグ二本下さい」
 
 
会計をすませて店を出るとそのまま公園へ向かった。
 
昨夜と同じベンチ。
真島の姿はなかった。
 
いないか……。
いたとしても時間が経ってるしな。
 
灰谷は腰を下ろすとスマホを取り出した。
そしてLINEのメッセージを打った。
 
『オマエ、どこにいる真島。つうか電源入れろ! 』
 
送信。
 
 
しばらく見つめていたが既読はつかない。
気になってしょうがないので通知音はなしに設定していた。
 
電話を掛ける。
おなじみのアナウンスがくり返された。
 
灰谷はため息をついた。
 
この付近を走ってみるか?
いや……。
 
 
灰谷は目を閉じた。
目を閉じて心で唱えた。
 
 
真島。
真島。。
真島。。。
 
 
真島、会いてえ。
オレなんだかオマエにすごく会いてえ。
 
 
そして、もう一度メッセージを打ち送信した。
 
『真島、会いてえ』
 
 
 
しばらく待ったが既読はつかない。
 
「ダメか……」
 
 
灰谷はもう一度、電話を掛けた。
 
 
トゥルルル トゥルルル。
 
つながった!
電源が入ってる。
 
真島、出ろ。
 
灰谷は電話を鳴らし続けた。
 
 
トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル。
 
かなり鳴らしたが出ない。
 
 
灰谷は電話を切りメッセージを打った。
 
『真島、電話に出ろ!』

送信。
 
 
そしてまた電話をかけた。
 
トゥルルル トゥルルル。
トゥルルル トゥルルル。
 
 
出ないか。
 
電話を切り、さらにメッセージを打つ。
 
 
『どこだ真島。どこだ』
 
送信。
 
 
 
電話を掛けずにしばらく待つが既読はつかない。
 
 
 
 
ふいに灰谷の脳裏によぎるものがあった。
 
もしかして。多分。
 
灰谷はもう一度メッセージを送ると立ち上がった。
 
 
 
 
 
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