空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 88

 

城島さんの部屋のマットレスの上でオレは冷えたアメリカンドッグをかじった。
 
公園のベンチで食べようと思ったけど、なんだか食欲が沸かず。
無理やりサンドイッチを水で流しこんで帰って来た。
 
腹はグゥ~って鳴るんだけど、なんだかね。
 
あそこのアメリカンドッグはウマイけど……。
さすがに食べすぎて飽きてきた。
置いといてもしょうがないんで惰性で食べる。
 
 
コンビニのメシ、どうもなあ~。
オムライスもそうだけど、母ちゃんの料理が食べたいと思った。
 
あったかい物食べたいなあ。
 
炊きたてのご飯に甘い卵焼きとか。
あ~目玉焼きでもいいやこの際。
 
 
はあ~。
つまんねえなあ。
 
 
一人でやれる事はやったような気がしている。
実際なんにもしてないんだけど。
海行って城島さんの部屋でダラダラしてまた色々グチャグチャ考えてただけじゃん。
 
 
ところでオレ、何日、人と話してないんだろう。
コンビニやラーメン屋をのぞいて。
 
……三日?四日?
スゴイな。初めてじゃね?
 
まあ自分で選んだんだけど……。
 
一人の時間は楽しい。
でもな……。
 
昼間はまだいいんだけど夜がな。
なんか淋しいなあって思う。
 
人のいる安心感。
同じ建物に人がいる安心感って確かにあるよな。
母ちゃんに親父。
心配してるかな。
 
中田や佐藤はどうしてるだろう。
あ~課題やってるかもしれないな。
オレ、バックレちゃったからな。
早く合流しねえと。
 
 
結衣ちゃんは……。
いや、オレにそんな事考える資格はない。
 
 
大事なものを捨ててみて。
いや、まあ仮にだけど。
一人になって、感じたのは、いつもの当たり前は全然当たり前なんかじゃないんだって事だ。
 
住むところがあるのも、エアコンが使えるのも、冷蔵庫があるのも。
美味しいメシが出てくるのも。カゴに突っ込んでおけば洗濯物が畳まれて置いてあるのも。
家に人がいる安心感も。
みんな親父と母ちゃんが与えてくれていたものだった。
 
オレが一人でいて淋しいと思った事がないのや、一人が楽しいと思うのは、淋しいと少しでも思えば遊んでくれる灰谷や中田や佐藤がいたからで。
 
 
人を想う。
 
本当だね城島さん、人は人を想わずにはいられない生き物だね。
一人でいても、オレはオレの大切な人たちのことを想う。
出会った人達を想う。
そうしないと生きていられないからだ、きっと。
 
この広い世界に一人いても、誰かを想っていられるなら生きていける。
実際に生きている人間でも生きていた人間でも、キャラでも夢の中の人物でも。
多分なんでもいい。
誰かを想う事で生きられる。
 
 
決して当たり前じゃない事を当たり前だと思わせていてくれた事をありがたいなって思った。
 
 
 
話したいな。
人の声が聞きたい。
ありがとうって言いたい。
いやまあ、急にありがとうって意味不明だろうから。
心の中でもいいんだ。
 
とりあえず母ちゃんに、親父に、中田と佐藤に。
 
結衣ちゃんに明日美ちゃんに杏子ちゃんに桜子ちゃんに。
 
バイト先の店長に、多田さんはじめ一緒に働いている人たちに。
 
中学時代の小学時代のそしてあんま覚えてないけど幼稚園の時の、友達に。
 
いや、今のオレをカタチ作っているすべての人に。
そしてこれから出会うかもしれないすべての人に。
ありがとう。
あなたが生きていてくれて想うことができて、オレは嬉しい。
 
 
そして、何より灰谷に。
 
もし、最悪、灰谷からこれ以上無いくらい拒絶されて、嫌悪されて、もう二度と会うことが叶わなくなったとしても、オレは、出会わなかった方がよかったなんて思わないだろう。
 
灰谷との思い出があればオレは生きていけるだろうから。
それくらいのものをあいつに、灰谷にもらったから。
あいつと出会わなかったらオレのこれまでの人生はどんなにつまらなかっただろう。
 
オレも灰谷に何かあげられているのかな。
あいつも同じように思っていてくれたなら嬉しいんだけど。
 
オレと出会ってくれてありがとう。
オレに想わせてくれてありがとう。
 
 
 
オレはリュックから三日ぶりにスマホを取り出し、電源を入れてみた。
立ち上がるのに時間がかかる。
真っ暗な画面に光が満ちる。
通知のプレビューが画面にズラリと並んだ。
 
 
一番始めに目に飛びこんで来たのは灰谷からのメッセージだった。
 
『真島、会いてえ』
 
え?会いたい?
 
 
『オマエ、どこにいる真島。つうか電源入れろ!』
 
 
スクロールして行くと『ジョーカー二台ゲット。オマエどっちにする?』というメッセージに続いて灰谷がバイクにまたがっている写真。
 
え?
ホンダジョーカーじゃね?
ブラックとシルバー二台?
どっちって。
 
え?え?
ゲット?
もしかしてオレの?
 
 
オレは画面をスクロールする。
 
『月はキレイだ。ドッグはウマイ。いっしょに食おうぜ。真島、帰ってこい』
 
アメリカンドッグをかじる灰谷の自撮り。
なんで眉間にシワ寄ってんだ。
 
 
それから月。月の写真。
 
あれ、これって昨日。
オレが見てたのと一緒じゃね?
え?通じてた?
 
 
さらに画面をスクロールする。
 
母ちゃん親父やサトナカからの安否確認がチョコチョコ間に入っている。
 
でも、そのほとんどが灰谷からだった。
 
ほぼ『真島、おい』とか『真島、ふざけんな』とかの短いものなんだけど。
 
 
あ、オレは指を止める。
 
二日前。海に行った日だ。
 
虹。
虹の写真。
今にも消えそうな、空に半円を描く虹だった。
 
灰谷も見たんだな。
んで、オレに、オレに見せたいから写真撮ってくれたんだ。
 
月といい虹といい……。
 
そんな事今までだって何度かあったのに、今、スゲー嬉しい。
 
 
灰谷、灰谷、虹、見たぜ。
オレも一番にオマエに見せたいって思ったんだぜ。
 
聞こえるか?灰谷。
 
灰谷。
灰谷。。
灰谷。。。
 
 
ガキかっつうの!
聞こえるわけない…。
 
 
 
ブブッツ。
 
「うおっ」
 
バイブにしてたスマホが突然震えてビックリした。
 
そして画面には<灰谷>の文字。
 
ウソだろ。電源入れた途端。
 
 
ブブッブブッ。
ブブッブブッ。
 
スマホは震え続けた。
 
 
どうしよう。
でも……。
オレは出れずにいた。
 
切れた。
 
と思ったら画面にメッセージが流れる。
 
 
『真島、電話に出ろ!』
 
そしてまた、スマホが震え始める。
 
<灰谷>
<灰谷>
 
名前が点滅する。
 
どうしよう。
オレ、オレ……。
 
 
また電話が切れたと思ったら、メッセージが流れる。
 
『どこだ真島。どこだ』
 
メッセージを開いてないから既読にはなっていないはずだった。
灰谷がわかってるのはオレがスマホの電源を入れたって事だけだ。
 
 
オレ……。
 
 
そうこうしているうちにまたメッセージが来た。
 
『わかった。そこで待ってろ』
 
 
え?そこでって。
オレがここに、城島さんの部屋にいる事、わかるわけがない。
ウソだろ?
 
心がザワザワした。
 
 
いやいやオレ、来るわけない。
闇雲に灰谷を走らせて、いいのかよオレ。
 
 
あいつが会いたいって言ってくれてるのに応えなくてどうするよ。
 
オレ……。
 
 
どのくらいの時間がたったのだろうか。
 
 
ガチャッ。
 
玄関のドアノブが回される音がした。
 
 
 
 
 
 
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