空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 78

 

「あ~何してんだよ」
 
リビングのテーブルで課題をしていた灰谷がトイレに行って戻ってくると、母の久子が帰宅しており、結衣から真島宛に預かっていた小さな紙袋を開いている所だった。
 
「え?あ、ごめん。あたしにじゃないの?」
「違うよ。なんで母ちゃんになんだよ」
「いやあ、母ちゃんいつもありがとうかなと。テーブルの上に載せとくなんて、このシャイボーイ!と思って」
「誰がシャイボーイだよ。するかそんな事」
「あ、カワイイ。リンゴ型のジュエリーケース」
 
久子は止める間もなくフタを開けた。
 
「勝手に見るなよ」
「あれ?これ、あんたがいつもしてるやつ?」
「え?」
 
久子から取り上げたケースの中身には見覚えがあった。
真島が結衣にあげたクロムハーツのピアスだった。
 
「な~んだあたしにじゃないのか。勝手に開けてごめ~ん」
「ったく、なんで開けんだよ。オレのじゃねえんだぞ」
「元通りに入れとけばわからないわからない」
「そういう問題か」
「しょうがないじゃない、開けちゃったものは。思わせぶりにこんな所に置いておくあんたが悪い」
「帰り、早くねえ?」
「あ~後は有給消化して、ほぼ引き継ぎだけだから。退職前に最後のお努めで大口の契約バシッと取ったからね。メッチャしんどかったけど」
 
それでここ何ヶ月か忙しそうだったのかと灰谷は思った。
 
「それより健二~お腹空いた~シャワー浴びてくるからパスタ、パスタ作って~」
 
久子はさっさとバスルームに消えてしまった。
 
 
すぐに自室に持って行けば良かったと灰谷は思った。
中身を勝手に見てしまった。
 
カワイイケースにはピアスが一つ収められていた。
結衣が真島からもらったピアスを本当に大事にしていた事がわかる。
 
『多分、すごく大事なものだと思うから』と言った結衣の言葉を思い出す。
 
すごく大事なもの……。
 
バイトの初給料で真島と一緒に買ったピアス。
 
 
『あたしが言うことじゃないってわかってるんだけど……真島くんの事、よろしくね』
 
最後に見た結衣の顔。
 
真島、もしかしてあいつ、話したのかな、オレの事。
だから、あんな顔……。
だとしたら、真島の気持ちを知ってなお、返しに来てくれた結衣ちゃん……。
 
その、結衣の言う真島にとってすごく大事なものをあげた真島。
そうしたいと思わせた気持ち。
 
 
自分にはどうにもならなかった事とはいえ、なんだか……。
 
 
真島。
オマエ、オレの知らないところで、見てないところで、どんなツライ思いを抱えていたんだろう。
 
真島との距離はあまりにも近すぎて、時々見失う。
 
 
「健二~パスタできた~?」
 
カラスの行水。
久子の声がした。
 
 
 
 
灰谷は久子と食卓を囲む。
 
「あ~美味しい~。あんたのこのパスタ最高!」
「そうかよ」
 
久子はモリモリとパスタを食べ、ワインを飲んだ。
 
「あんたも飲む?」
「飲まねえよ。未成年」
「何よ~まだ怒ってるの。紙袋の中身見ちゃった事」
「怒ってねえよ」
「怒ってるじゃない」
「雑なんだよ母ちゃんは」
「あ~ミネにもよく言われる。後のフォローが大変だって」
「わかってんなら直せよ」
「すいませ~ん。で、なに何?あのリンゴ型のカワイイジュエリーケース。女の子でしょう?」
「知らねえよ。オレのじゃねえし」
「ふう~ん」
 
灰谷が発する、この話に触れてくるなオーラを察知してか、久子はそれ以上追求しなかった。
 
灰谷は黙々と食べる。
 
久々に作ったけどウマイ。
ナスとトマトとベーコンのパスタ。
ニンニクたっぷり効かせて、青じそをのせる。
ウスターソースが隠し味。
 
真島も好きなんだよな、コレ。
 
 
久子がテーブルに積んであった本を手にとった。
 
「『UFOと宇宙人の謎』『宇宙からのバイブレーション』。何この本?あんたこういうの興味あったっけ」
「夏休みの課題なんだよ。『宇宙人はいるか』のレポート」
「へえ~。僕らも宇宙から見れば宇宙人です。宇宙人は僕たちです。はい終わり」
「小学生の感想文か。物理なんだよ」
「理系わからな~い」
 
はあ~。
灰谷は心の中で小さくため息をついた。
会社辞めるんで頭が緩みきってるな母ちゃんは。
 
「あ、そうだ健二、あんた明日もバイト?」
「うん」
「そっか。あたし明日休みだから、真島くんちに行って節子さんに会ってくるね」
「うん」
「あんたも、ちょっとだけでも顔出す?」
「ああ」
 
母ちゃんを労ってくれよ、と言った真島の言葉を思い出した。
 
「久しぶりだなあ~。節子さんビックリするかしら。ミネの事話したら」
「だろうな」
「引いちゃうかしらね」
「それはないだろ」
 
きっと節子はビックリはしても、笑顔で受け入れてくれるだろう。
そう、それが、例え真島……息子の事であったとしても。
あるがままを受け入れてくれる。
そんな気がする……。
 
いや、息子の事となるとまた違うのか?
子離れ難しいとか言ってたしな。
 
「真島くん、一人旅だっけ。今どこにいるって?」
「…知らねえ」
「聞いてないの?」
「うん」
「そう」
 
真島のやつ。
あれからホントに連絡がつかない。
 
「フフフ」
「なんだよその笑い」
「いやあ、我が家の外面クールな坊っちゃんも、そんな顔するんだなあと思って」
「そんな顔?」
「スネてる顔」
「スネ……」
「真島くんに黙って置いていかれて一人で淋しいって顔」
「…してねえわ」
「してるって」
「してない」
 
そんな顔……してるかオレ。
 
灰谷は自分の顔を撫でた。
 
「あんたが子供の時はよく見たわね」
「知らねえって」
「……あんたにそんな顔させる事ができるの、あたしだけだと思ってた」
「ん?何?どういう意味?」
「大事にしなさいね、真島くんの事」
「……」
 
言われなくても。
大事に……は思ってる。
うん。
それは間違いなかった。
 
あ、そうだ。
 
「オレ、バイク買おうと思ってるんだけど」
「バイク~?何、免許取るの?」
「原チャリ」
「あ~真島くんと取りに行ったんだっけ」
「うん」
「別に良いけど。いくら?」
「ん、いいよ。バイトで貯めたのがあるし」
「何よ。それくらい買ってあげるわよ」
「いや、欲しいのあって。中古のやつ探してるから。多分、そんなに高くないし」
「そう?じゃあ足りなかったら言って。くれぐれも事故にだけは気をつけなさいよ」
「うん」
 
中田の兄に頼んで、バイクを探してもらっていた。
 
見つかるといいんだけどな。
条件が条件だし、ちょっと時間がかかるかも知れない。
 
 
♪~
 
灰谷のスマホが鳴った。
LINEの着信。
 
『灰谷~。課題どう?宇宙人の資料集まった?』
 
佐藤からだった。
 
『今、ネタまとめてる。数学はもう終わる』と返信する。
『わかった。あとは残りの古文・漢文な、できるとこまでよろしく』と返信が返って来た。
 
ついでに真島とのLINEも確認する。
相変わらず既読はついていなかった。
 
 
「ごちそうさま健二。すごく美味しかった」
「お粗末様」
 
灰谷は食べ終わった食器を流しに運ぶ。
 
「あ~あ~ミネにも食べさせてあげたいな~」
 
そう言って久子はチラリと真島を見た。
 
「…いいよ。今度連れてくれば」
「ホント?」
「うん」
「ミネもね、料理が上手なのよ。あ~あんたとミネが並んでキッチンに立っちゃったりして?で、それをつまみにビール飲んだりしちゃって?嫁と息子?うわー最高~」
「……」
 
母親の脳天気な妄想に少し呆れながら、灰谷は皿を洗った。
 
それにしても……。
黙って置いていかれて一人で淋しいか……。
そうかもな。
 
オレがムカついてるのは多分そこだ。
せめて何か言って行けってんだよ真島のヤツ。
心配させるんじゃねえよ。
 
今、どこにいるんだろうな。
この暑いのにチャリで。
またどっかで倒れたりしてなきゃいいけど……。
 
 
「健二~ミネ、いつ呼んだらいい~?」
 
まったく、我が母ながら恋する乙女は無邪気で困る……。
 
「いつでもいいよ」
 
灰谷はため息をついた。
 
 
 
 
 
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