空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 77

 

バカは……疲れる。
 
自分を追いこんでガンガン走っていた所を急な雨に降られ、雨宿りのために、どことも知れないコインランドリーに飛びこんだ。
 
汗ダクダク、カラダベトベトでおまけに雨に濡れている。
 
「気持ちワリぃ。あ~シャワー浴びてー」
 
誰もいないのをいいことにオレは一人、ブツブツとつぶやいた。
洗面台があったのでバシャバシャ顔や首、腕まで洗ってタオルで拭いた。
ちょっとスッキリ。
 
「だ~」
 
ベンチに倒れこむ。
 
それにしても疲れた~。
真夏のチャリ、ツレぇ~。
バカになるのツレぇ~。
つうかオレ体力ねえ~。
あ~~~。
 
利用者はいないようで、洗濯機はどれも止まっていた。
静かだしエアコン効いてて涼しいし。
意外と穴場かもコインランドリーって、とか思ってみたりする。
 
う~。
 
しばらく横になっていたがノドが乾いた。
店内に自販機があったんでペプシのペットボトルを買う。
ゴクゴクゴク。
喉を鳴らして飲んだ。
ウマイ!
あ~~生き返る~。
 
オレはしばらくぼ~っとする。
止まるとズンッと来るね。ズンッと。
疲労ってやつはさ。
 
 
コンビニを出てから、走りに走った。
 
途中、腹が空き過ぎて、クラクラしてきたから、目についたラーメン屋にテキトーに飛びこんだ。
そこにはジャンボ餃子セットなんてのがあり、ものは試しと頼んでみれば、デカイのデカくないのって、小さめなバナナ位ある餃子が五個ドーン。
セットのチャーハンが小さく見えるほど。
肉汁たっぷり油ギトギトの餃子は妙に美味くてぺろりと完食してしまった。
オレは心の食べログに★を四つ付けて、名前と場所を脳みそにメモした。
いやほら、スマホの電源切ってるから。
 
でも当分、餃子は食べたくない。
思い出しても……ウプッ……。
 
 
そしてまた走って、見えてきたあの坂。
 
灰谷との思い出の、ブレーキかけないで走り下りた急な下り坂。
こっちからだと急な上り坂だけど。やっぱ傾斜がハンパねえ。
夏の暑さと満腹で喉元までこみ上げてくる餃子のニオイに耐えながら、エッチラオッチラ、自転車を押して上った。
駆け下りるのは一瞬だけど、上るのはかなりの重労働。
この暑さじゃね。
ダラッダラ汗をかく。
 
そして続くのは思わず告っちゃいそうになったあの長くて緩~い上り坂。
こっちからだと下り坂なんで一気に走り下りた。
 
坂を越えると商店街の入口が見えて来た。
吉牛食べてゲーセンでカツアゲされかけた商店街は思い出の中よりもなんだか寂れてこじんまりとしていて、空き店舗が増えていた。
吉牛はあったけどゲーセンは無くなって更地になっていた。
たかだか二~三年しか経ってないのに。
 
すべては刻々と変わって行く。
変わらないものなんてない。
 
あの不良高校生達もきっと卒業して、今ではカツアゲなんてしないんだろう。
オレも灰谷もあの頃とは違う……。
 
 
ペプシをチビチビと飲む。
 
ふう~。
 
 
雨、止んだかな?
立ち上がって入口のドアから顔を出し、空を眺める。
止んでるな。
外蒸し暑っ。
雨上がりだからだな。
 
 
あ!
 
えっと……あれ……虹。
虹じゃね?
ビルとビルの谷間になんか薄い色つきの半円がかかっている。
 
 
お~虹~。虹だ~。
ヤバイ。
静かにテンションが上がる。
だってめったに見れねえじゃん。
 
なんだか今にも消えそうだった。
うぉ~儚え~。
 
早く早く。消えちまう。
 
オレは店内に戻り、急いでリュックからスマホを取り出す。
外に出て写真を撮ろうとして真っ暗な画面を見たところで気がついた。
 
ああ、そっか……オレ……電源切ってるんだった……。
 
あきらめて店内に戻る。
 
オレ、今何しようとした?
 
 
灰谷に。
写真撮って灰谷に……。
 
 
灰谷灰谷、そればっかりか!
 
オレはベンチにドサリと腰を下ろした。
 
 
……だって、しょうがねえよ。
今までそれで来たんだから。
 
ペットボトルのフタを開けてゴクゴクとペプシを流しこむ。
 
ペプシ……。
 
コーラといえばペプシ
いつから?
 
……ペプシは灰谷が好きなんだ。
 
目に映るものが次々と灰谷へつながってしまう。
 
ふう~。
 
深いため息がモレた。
 
 
虹……。
まあ…いいか。
 
 
小学生の頃にやった遊び。
あの頃はスマホなんて持ってなかったから。
まあ家電かけりゃあよかったのかもだけど。
 
たとえばテレビ見てて、すんげえおもしれー、灰谷にも見せてえって思ったら、心で念じるんだ。
 
『灰谷…テレビ見ろ…今すぐ見ろ…イルカ…すんげえカワイイ…灰谷…イルカ…イルカ』
 
次の日学校で灰谷に通じたかって聞くとあいつは必ずこう言った。
 
『ああ、真島だったのか。なんか誰かが話しかけてんなと思ってさ。見たよ』
『ホントに?スゲー。オレ、スゲー。つうか灰谷もスゲー。つうかオレたちすごくない?』
『あ~オレたちスゲエー』
 
今思えば、灰谷が話を合わせてくれただけだろうな。
通じるわけねえもんテレパシーなんて。
大体通じてんなら、こんだけオレがアイツの事、好き好き思ってるの伝わってるはずじゃん。
 
あ~アホなこと思い出したわ~。
やっぱ昔からアホなんだわオレ。
 
つうかカワイイなオレら。
オレと灰谷。
そんな時代もあったよ。
 
それが今じゃあ……。
そいつの事、思いながらオナってるなんてな。
サイテーだな、オレ。
 
 
灰谷、虹見た?見てない?ほら写真撮ったから見ろよ。キレイだよな。儚いってこういう事言うのかな。
 
聞いてくれよ。オレさ、昨日、トレペがなくて危機一髪だったんだよ。もう少しで泣きながら風呂場でケツ洗うところ。ウケるべ。
 
すんげえウマくてデカイジャンボ餃子なんだよ。しかも六百五十円でチャーハンまで付いてくるんだぜ。今度行こう。
 
 
 
オレ……。
 
キレイなものを見たら、一番に見せてえよ。
面白い事があったら、一番に話したい。
美味しいものを食べたら、食べさせてやりたいって、いや、いっしょに食べたいって思う。
オレにとってそれは灰谷で。
 
 
んで……いつも一緒にいたい……。
 
寝ても寝なくても。
親友でも恋人でも。
呼び名なんて、なんでもいいからいつも一緒にいてえ。
 
 
こんなことわかってもしょうがない。
オレだけが思っててもしょうがないのに。
何度も何度も何度も思い知らされるんだ。
 
 
……ダメだ。
捨てるんだマジマッティ。
 
いちばん大事なものを知るにはいま大事だと思ってるものを片っ端から捨ててみる事。
城島さんは言っていた。
 
 
それが……。
もう恋しいなんて。
まだ一日しか経ってないのに。
夏休み中だってお互いそれぞれデートやなんかで全然会ってなかったのに。
 
 
でも、別のオレがオレに言う。
 
待てよオレ。
自分にウソつくなよ。
もうウソつかないって決めただろ?
 
結衣ちゃんと別れた時に。
城島さんと別れた時に。
母ちゃんの土下座を見た時に。
城島さんがセフレって灰谷に告白した時に。
教室で男と寝てるってバラされた時に。
 
 
灰谷と寝たいんだろ?
寝たいし、親友で恋人になりたいんだろ?
そんでいつも一緒にいたいんだろ?
正直になれよ。
 
 
『やっぱ、オマエといんのが一番ラクで面白くて楽しいわ』
 
灰谷の声が頭の中に響く。
 
 
灰谷がそこまで望んでないのは知ってるけど。
オレは……。
 
 
欲しい。
全部欲しい。
灰谷の全部が欲しい。
 
 
この想いはどうあがいても断ち切れないだろう。
 
そしたら後は……やる事は一つしかない。
 
そう。
飛ぶんだ。
城島さんみたいに。
 
スカイダイビングだ。
首吊りだ。
 

だから、そうする力を得るために、あの日、行けなかった海に行く。
たいして意味なんかないのはわかってる。
きっとただの感傷だろうけど。
 
 
バカになれ!
とことんバカになれば……きっと……できる……はず……。
わかんねえけど。
 
 
怖いけど、呆れるけど、こんなにも自分の欲望をハッキリと自覚したことはない、ような気がする。
しかも、こんな、どことも知れないコインランドリーで。
 
ウケる。
 
 
雨も、上がった。
 
ペプシをグビグビっと飲み干して、オレはまた出発した。
 
 
 
 
 
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