空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 94

 

「真島、ちょっと話さねえ?眠い?」
「ううん。何?なんかあんの?」
「うちの母ちゃんなんだけどさ」
 
灰谷が布団の上であぐらをかいた。
 
「久子母ちゃん?」
「うん。なんか、急に会社辞めて自分で事業始めるとか言い出してさ」
「お!いいじゃん。仕事できるんだし。そういう道もあるよな」
「ん~。まあ、それは別にいいんだけどさ……」
 
中々に口が重い。
なんだろう。
 
「……それでな。結婚するとか言い出して」
「結婚!」
 
これはきちんと聞かないと、と、オレはベッドの上に起き上がった。
 
「まあ、パートナーっていうか。そういうのができたのは良いと思うんだけどさ」
「え~いいじゃんいいじゃん。オマエの母ちゃん、カッコイイし。あの母ちゃんが認めた男だろ。間違いないって」
「ん~それがさ……」
 
なんだか歯切れが悪い。
これはもしかしてのもしかして……。
 
「何、灰谷、オマエまさか、母ちゃん獲られちゃう、みたいな」
「違えよ」
 
灰谷は本当にイヤそうな顔をした。
違うんだな。
 
「じゃあ、いいじゃん」
「それがさ……はあ~」
「なんだよ。もったいぶるなよ」
「相手、会社の後輩とかで」
「おう、年下?やるね~」
「んでさ……」
「おう」
「…んな、なんだよね」
「ん?何?」
「だから、女、なんだよな」
「ほう?」
 
オレがわからなかったとわかったのだろう。
灰谷はハッキリ言った。
 
「母ちゃんの相手、女、なんだよ」
「ああ……え~~!マジか」
「マジだ」
 
え?え?え?
それって……えー?
だから、えー?
 
「まあ結婚とかなんかは、ゆくゆくはって感じだって言ってたけど。そのぐらいの気持ちってカミングアウト受けた」
「おう~。……スゲエな」
「うん」
「ん~。……ファンキー母ちゃんやるね~」
「いや、ファンキーにも程があるだろ」
 
ん、でも、あれあれ?灰谷の母ちゃんってそっちの人だったっけ。
いや、でも灰谷がいるし……。
ん?
自分の事もあるし、どっからツッコんでいいかわからなかった。
とりあえず……。
 
「会ったことあんの?美人?」
「一回、酔っ払った母ちゃんを送って来たことがあって。その時に挨拶ぐらい。まあ、美人って言えば美人」
「ほう~。ん~。なんて言っていいやら」
「うん。まあ、オレもだから、そう言ったんだけど」
「なんて言っていいかわからないって?」
「うん」
「まあ、正直なとこだよな」
「うん……」
 
灰谷は腕を組んで黙った。
オレは灰谷がまた話し始めるのを待った。
 
「まあその後、おめでとうとは言ったんだけど」
「うん」
「良い人が見つかって良かったって」
「ああ。よく言ったな」
「ん?」
 
灰谷が顔を上げてオレを見た。
 
「エライよ灰谷」
「…うん」
 
灰谷は、ほんの少しテレた顔をした。
 
「少し話してさ。オレの父親の事とか。普段ほとんどしないんだけどな」
「うん」
「女手一つで苦労してオレを育てて来たんだし、これからは母ちゃんの人生だしなとかも思ってさ」
「うん」
「でもやっぱ多少複雑な気持ちでは、ある。母ちゃんには言えねえけど」
「うん。そりゃあそうだ」
 
だよな。
……で、そこに持ってきてオレだろ。
なんか、申し訳ない気持ちになって来た。
 
「でもまあ、母ちゃん、ホントにその人の事好きみたいでさ」
「うん」
「それが一番かなって。……ってまあ、それだけなんだけど」
「うん」
「でもやっぱ。驚いたし」
「うん」
「なのに……真島はいねえしさ」
「ああ」
「もう…」
「うん。悪かった」
 
そんな時にそばにいなくて悪かったと思った。
 
オレたちは見つめ合った。
 
先に、なぜかちょっとまぶしそうな顔をして目をそらしたのは灰谷の方だった。
 
なんだ?
 
 
「で、母ちゃん、節子にさっそく話してさ」
「え?うちの母ちゃんに?」
「うん。で、節子がごちそう作るから、顔合わせも兼ねてみんなで食事しようって」
「お~。いいじゃん」
「いやいいけど。一人で会うよりはいいけど」
 
母ちゃん、灰谷とおばさんの事を思って言い出したんだろうな、と思った。
 
「オレどんな顔してればいいんだよ。母ちゃんとその彼女だぜ」
「あ~わかるわ~」
「それでなくても母ちゃん、頭がお花畑になってて、ミネミネ言ってんのに」
「ミネって言うの?相手」
「ああ。峰岸だからミネなんじゃね?聞かないけど」
「なるほど」
「この間もパスタ作ってやったら、ミネに食べさせた~い、だからな」
「ああ」
「しまいにはミネも料理ウマイから、オレと並んで作ってるのをつまみに飲んだら最高。嫁と息子~とか言ってたしな」
 
やっぱちょっとスネてるか?灰谷。
自分では気がついてないみたいだけど。
普段は、一人でもオレは平気、みたいな顔してるのに。
 
「……なんだよ」
 
マズイ。ニヤけていたのがバレてしまう。
 
「まあまあ。別に取り繕わなくても。そのまんまでいればいいじゃん」
「そのまんまって」
「いいんだよ。灰谷はそのまんま、いつもの灰谷でいれば。ちゃんと母ちゃんとその人に通じるよ」
「そうかな」
「そうだって」
「……うん」
 
言って灰谷は小さくうなずいた。
オレの言葉にうなずく灰谷。
うん、だって。うん、だって。
 
カ~ワイイ~。
 
あ~なんだこれ。
今まで見えてなかったカワイさが見えてきたぞ。
 
ヤバイ。
抱きしめてえ~。
 
けどそうするわけにもいかないんだよな。
 
まさにニュー地獄。
話変えよう。
 
「あ~パスタって、ナスとトマトとベーコンのやつ?ニンニクが効いた」
「うん」
「オレも食べたいわ」
「おう。今度つくってやるわ」
「大葉は…」
「多めにだろ」
 
このわかってる感…ヤバイ。
 
 
 
 
「あ、そう言えば、おいしいジャンボ餃子のお店見つけてさ」
「え?どこで?」
 
真島と話しながら灰谷は思った。
 
母ちゃんの事、誰かに聞いてもらいたかった。
いや、誰かじゃない。
真島に。
 
 
「場所はオレの頭の中にある。スマホ電源切ってたからさ」
 
 
考えてみれば真島に話す事じゃなかったのかもしれないけど。
色々絡んできちゃうから。
 
真島はちゃんと聞いてくれた。
エライなって。
そのまんま、いつものオレで会えばいいって言ってくれた。
 
 
「もう心の食べログに★四つ、つけたね」
「ジャンボってどんくらい?」
「え?こんくらい。それが五個プラス半チャーハン」
「デケエな。盛ってるだろ」
「盛ってねえわ。もうね、肉汁タップリ」
「ウマそー」
「ウマイよ。ただ食べた後はもう当分餃子は見たくないって感じになるけど。あ、今度行こう。バイクで。バイクならすぐだわ」
「おう。行こうぜ」
 
 
告白されて、つうか無理やりに近いけど、させて、真島の心のつっかえがとれて、オレたちは以前よりももっと腹を割って話しやすくなったのかもしれない。
オレもこいつ以上に気のおけない相手がいないってわかってたし。
 
 
「で、さ、紙だよ紙。あの部屋のトイレ入ったらさ、トレペがもう三センチくらいしかないわけよ」
「なんだよ突然」
「いや、もう誰かに言いたくて。急に腹が痛くなって飛びこんだらさ」
「ホントに危機一髪じゃん。んで、オマエどうしたの」
「オレは神に祈ったね。神様、紙ください。紙ぃ~」
 
真島は急に面白話をツッコんで来た。
 
「ないわけよ。天井付近の棚にも床にもさ」
「おう、マジで?」
「母ちゃーん。オレは心で叫んだね。でも、オレは一人。灰谷ああいう時どうしてんの?」
「オレ、オレは切らさないよトレペ。在庫チェック常にしてるから」
「だよな。エライわ」
「当たり前なんだけどな」
「その、日々当たり前だと、当たり前だとも何とも感じてない、あるのが当然だと思ってた事がすべて、全然当たり前じゃないって、この夏、気がついたよオレ」
 
バカ話に混じる真島の大事な気づきの話。
 
そうだった。
真島がいるのが当たり前。
それも当たり前じゃないんだ。
 
オレも気がついた。
 
「母ちゃん、オレにいつもトレペの在庫確認の存在を忘れさせてくれてありがとう。そして親父、働いてトレペ買ってくれてありがとう」
「トレペでお礼を言われても…。でも、成長したなマコ」
「マコ言うなケン」
「おーマコケンか」
「ケンマコじゃね?」
「マジハイに続く新たなネーミング」
「来ました~」
 
気づかせてくれてありがとう真島。
帰って来てくれて。
 
いやまあ、帰って来るだろうけど夏休み終わるし。
 
「んで、トレペどうしたの?」
「フフフフフ」
「オマエ……まさか……」
 
面と向かっては絶対言えねえけど。
その…とにかく……節子に親父さんに、サトナカに……オレの所に。
 
灰谷は心の中でつぶやいた。
 
 
 
 
 
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