空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 79

 

雨宿りしていたコインランドリーを出てから多分、一時間位。
やっとたどり着いた海は……オレの頭で思い描いていた海とは……まるっきり違った!
 
ザザーン。
海ぃ~。
ままならないオレの心のバカヤロー。
 
と叫べるような(叫ばないけど)海ではまるでなく。
こういうの何て言うの?
人口の入江?湾?
わからん。
 
申し訳程度の砂浜にゴツゴツした人工的な岩場、静かな波がチャプチャプしている……のを柵ごしに見る感じ?
いや、こういうんじゃなくて、ほら、湘南みたいな?江ノ島みたいな?
あれ?そうすると前にみんなで行った海水浴場みたいになっちゃうのか。
ここは遊泳禁止みたいだし。
こんなんでいいのか?
 
まあでも、どんなんでも、海は海だよな。
 
どっかから浜に下りれないかなと自転車を押す。
 
陽はあるけど時間的には多分もう夕方近いし、人もまばらだった。
 
キャンプ場?がある。
 
あ~もしかしたら海浜公園のどっか一部なのかもしれない。
 
砂浜に降りて腰を下ろす。
うん。
潮風。海のニオイ。
 
地平線。
穏やかな、穏やかすぎる海……。
 
 
 
はあ~。
暑~い。
 
足がダルい。
太ももパンパン。
何気に腕も痛い。
つうか汗ダク。
ダクダク汁ダク。
 
ペットボトルの水をグビグビ。
買ってからしばらく経つからもうヌルかった。
 
 
海。
灰谷と二人で来たかった海。
あの日、たどり着けなかった海。
 
空は青い。
 
 
暑さと疲労感で頭が空っぽになる。
 
 
波の音が聞こえる。
寄せては返す。
 
息吸って吐いて。
静かに呼吸しているオレのカラダ。
 
目を閉じる。
 
 
息吸って吐いて。
息吸って吐いて。
 
 
目を開ける。
 
青い空を白い雲がゆっくりと流れて行く。
 
 
 
 
たとえ……。
 
たとえそれが地獄でも、城島さんの言う新しい地獄だったとしても。
 
オレは、あいつが……灰谷がいる世界が、灰谷がいる地獄がいいから。
 
 
オレは……ちゃんと……伝えたい。
 
もし、これで、あいつとダメになっても。
ダメになっても……。
今までみたいにそばにいられなくなったとしても。
 
 
 
うん。
 
そういう事だ。
 
うん。
 
始めからわかっていた。
 
うん。
 
 
 
「だああああ~っ」
 
オレは手足を伸ばした。
 
 
飛ぶぜマジマッティ!
違うか。
 
 
 
グーッ。
 
腹が鳴った。
 
さて、帰るか。
 
オレは立ち上がり、ケツについた砂を払った。
 
 
 
「じ~ごく、地獄、楽しい地獄~じ~ごく地獄~」
 
オレは小さな声で歌いながら自転車を漕ぐ。
心が決まったせいか、ペダルも軽い。
あっという間に商店街にたどり着き、吉牛で牛丼大盛り卵キムチ付きをモリモリ食べた。
うまかった!
 
またチャリチャリ漕ぎ続けてあの坂。
 
あの夏、中学生のあの日、ケンカした灰谷と二人、自転車を押しながら上ったあの坂。
緩やかな長い坂にたどり着く。
さっきまでのペダルの軽さはどこへやら。
ズシリと疲労が押し寄せる。
途中から自転車を下り、押しながらゆっくりゆっくりと上る。
 
 
「灰谷……あのな」
 
『なんだよ』
 
オレの中にいる中学生の灰谷がオレを見つめる。
 
「オレ、オマエとこうして二人、ヘロヘロで坂を上ってるのが楽しい」
『ヘンなやつ』
「そう、オレ、ヘンなんだよ」
『まあ、真島がヘンなのは今に始まった事じゃないからな』
「そんな事ねえわ」
『あるわ』
「ないわ」
 
中学生のあいつならこう言うだろう。
そして、こんな風に続けたかも知れない。
 
『まあオレも……楽しいわ』
「オマエもヘンだからな」
『まあ、そうだな』
「納得すんのかよ」
『まあ、ヘン同士。がんばろうぜ」
「おう。もうちょっとだぜ。がんばろう」
『おう』
 
 
日が暮れてきた。
 
「あっちぃ~」
 
汗ダラダラ。
でも、この坂を上れば、上りきれば、そこは……。
 
そう。
急な長い下り坂。
 
「下までブレーキをかけずに行こうぜ」
『おう』
 
オレはサドルに腰掛けて息を吸いこむ。
目には見えない灰谷と一瞬目を合わせ、せーの。
そりゃっ。
 
 
景色が流れ始める。
耳元で風がヒューヒューと音をたてる。
ガタガタと揺れる自転車の振動がカラダに伝わって来る。
 
次第に加速して行く自転車。
 
怖え~。
 
心臓がバクバクする。
 
ブレーキに手が伸びそうになるけどグッと耐える。
スピードはマックス。
心臓がむき出しになったみたいでピリピリする。
 
怖え~。
 
「行けるか灰谷」
『行くぞ真島』
 
オレはスピードに身を任せた。
 
ヒューッ。
風を切り裂いて進む。
 
速い怖い速い怖い。
 
 
うお~。
 
 
ふう~。
 
どうにかこうにかブレーキをかけずに駆け下りる事ができた。
 
加速にのってペダルに足を置いたまま進む。
しばらくして自転車を止めると振り返り、坂を見た。
 
「坂すんげえ~。怖え~」
 
中学生のあの日と変わらずワクワクしてドキドキした。
 
 
ここに灰谷がいたらな。
またいつかあいつと、この坂をブレーキをかけずに駆け下りてえな、とオレは思った。
 
 
 
 
 
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