空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 75

 

うおっ、涼しっ。
 
灰谷は図書館にいた。
 
午後からのバイトの前に夏休みの課題である『宇宙人はいるか』という物理のレポートの資料本を探しに来た。
 
ネットからテキトーに情報を拾って書き上げればいいや、と思っていたのだが意外とネタが少なく、四人分のページ数が稼げない。
読み易いジュニア向けや科学エッセイみたいなものをパラパラ読んで、それらしき話で埋めようと思った。
 
 
夏休みの図書館はなかなか賑わっていて、二台ある検索機はふさがっていた。
 
とりあえず子供の本コーナーにでも……あ!
 
何気なく見た返却本のコーナーにまさしく宇宙人関係の本がまとめて並んでいた。
同じような事を考えた誰かが丁度返した所だったのだろう。
 
ラッキー。このまんま借りていこう。
 
ん?
 
<原付>という文字が目に入った。
原付免許の取得本も並んでいた。
 
 
原付免許か。
そういえば真島、夏休み前からバイクを欲しがっていた。
 
ククク。
ホントはあいつ一回落ちてるからな。
中田と佐藤には恥ずかしいからって内緒にしてるけど。
 
「すんげえショック、マジショック。テキトーにやれば受かるんだと思ってた。つうか引っ掛け問題がさ~」って必死で弁解してたけど。
あいつあれでプレッシャーに弱いというか。
頭固い所があるからな。
 
二回目の時には灰谷も誘われて一緒に免許を取った。
 
バイクな、特に興味なかったけど……。
 
バイクか……。
 
 
灰谷は本を借りて外に出るとすぐに電話を掛けた。
 
「もしもし中田。オマエの兄貴にさ……」
 
 
 
 
「あっちい~~~」
 
自転車を漕ぎながらオレは叫んだ。
 
もうかれこれ何十分、ペダルを踏み続けているんだろう?
時計はしてこなかったし、スマホの電源は切ってるしで、どれ位経ってるのか時間がわからない……。
 
海に行こう、中学生のあの夏、灰谷とたどり着けなかった海に行ってみよう、なんてセンチメンタルな事を思ったオレがバカだった。
夏の暑さをナメていた。
 
ジリジリ皮膚を焼く日差し。
ダラダラ流れる汗。
アスファルトの照り返しでムンムンする。
熱風。熱風だ。
 
暑い!暑すぎる!
地球温暖化は着実に進んでる。
あの頃より絶対暑い。
 
うお~頭の中まで暑~い。
 
 
それに車道、怖え~。
スピード上げた車がブンブン横を通る。
 
こんなだったっけ?あの時?
 
中学生のマジハイよ。
オマエらすごいな。
いや、アホなのか?
 
 
きっと……二人だったからだな。
二人だったから、どこまでも行けたんだ。
励まし合いながら、でも、こいつだけには負けたくないと思いながら。
 
 
信号待ちで自転車を止める。
う~いっ。
止まってるのも暑い。
つうか暑い。
 
 
「あっちいな灰谷」
『ああ』
「もうやめねえ?」
『まだ出たばっかだろ』
「暑いって~」
『もうちょっと行ってみようって』
「え~」
『じゃあ次にコンビニ見つけたら休もう』
「え~。うん」
 
オレは空想の灰谷と会話をする。
いや、中学生の灰谷とか?
大丈夫か?オレ。
メンヘラって来てる?
まあいいや。
あいつだったらこんな風に返しそうだからな。
 
 
コンビニコンビニ。
 
さっきまで何軒も見てきたのに、いざ探すと見つからないコンビニ。
 
暑い~。
あ~のど乾いた~。
つうか、うお~。
日焼け止めも塗るの忘れてたし。赤くなるんじゃねえの。
ヤベエって~。
心なしか風も無くなってきた。
 
 
おっ!そうだ!
 
オレは作業服なんかを売っているお店の前にチャリを止めた。
 
 
ジャーン!日避けハット、ゲットだぜ!
 
釣りなんかで使うやつみたいだけど、つばもあるし、飛ばないようにアゴ紐もついていた。
さっそくかぶってみる。
 
いいね~。
マジママコトは日除けのための帽子を手に入れた!
 
あ~こりゃあ、全然違うわ~。
 
こうやってアイテムをゲットして、海へGO!
マジママコトGO~!
 
うん。アホみたいだな。
でもこうやって自分を盛り上げていかないとな……。
 
 
と走り出してすぐにコンビニ発見。
 
キキーッ。退避~。
 
 
 
はあ~。涼しい~。
トイレ借りて顔ザバザバ洗ってから店内の休憩スペースに座ってスポーツドリンクをゴキュゴキュ。
 
ふう~。生き返った~。
 
今、何時?
店内の時計は十一時半をすぎた所だった。
朝メシ買いに寄ったコンビニで確か十時。
走り始めて一時間半ぐらい?ってとこか。
この時間は暑いわそりゃ。
もうちょっと早く出るつもりだったんだけどな。
 
 
 
海は……まだまだだな……。
 
こうして休憩しながら行かないとまた、倒れちまう。
 
つうかこの暑さにわざわざ自転車で海までなんて、ある意味自殺行為だ。
 
自殺か……。
 
 
ぼんやりと窓の外を眺める。
 
夏の日差し。
通りを歩く人達はみんな暑そうだ。
 
Yシャツにネクタイ締めて、スーツ姿のサラリーマン。
汗ダクダク。立ち止まってカバンを脇に挟みハンカチで顔を拭く。
 
……ご苦労さまで~す。
 
城島さんも、働いてんのかな。
本当の城島さんも。
って……うちの親父だってそうだよな。
 
買い物袋下げた主婦。
自転車の後ろに子供乗せたお母さん。
 
母ちゃんはパート行ったのかな。
 
カート押してゆっくりゆっくり進むおじいさん。
 
 
初めて来た場所で、多分、もう二度とは来ない場所で、オレは見知らぬ人たちを見つめている。
 
色んな人、いるなあ。
同じ人間は二人といない。
 
 
ここに今、オレはいる。
ここに今、灰谷はいない。
 
それだって、この世界なんだよな。
 
スマホの電源を切ってしまっているから、誰とも連絡がつかない。
オレの居場所を誰も知らない。
オレは今、誰ともつながっていない。
 
オレが今この瞬間、ここからジワッと音を立てて消え失せてしまっても、誰もわからない。
 
ないないないない……。
 
まるで自分が透明人間にでもなってしまったように感じた。
 
オレのいない世界で灰谷は。
灰谷は平気だろうか。
 
逆に灰谷がいない世界でオレは……平気だろうか。
 
 
灰谷がいない世界を、城島さんの部屋を借りて、『借りぐらしのマジマッティ』。
 
……下らねえ。
マジマッティってなんだよマジマッティって。
 
 
まあでも、そういうことか。
 
その割には海に向かってチャリ漕ぎ出しちゃってるけども。
 
 
 
バカになれ!
 
不意にそんな言葉が浮かぶ。
 
どこで聞いたんだろう。
 
バカになれ!
 
なんてシンプルで力強い言葉。
 
 
そう、もう、ここまで来たら、うだうだ考えてもしょうがない。
あれこれあれこれ考えて、考えすぎて、わからなくなってる。
バカになるしかねえんだわ。
 
 
カラダ動かして、動かして、海まで行く。
とりあえず、それだけだ。
 
 
おっとその前に。
オレはコンビニで購入した日焼け止めクリームを塗りたくる。
 
バカにはなるけど、肌はケア。
 
おっしゃ行くぞ海!
 
わかわかんない気合いを入れて、オレはまた走り出した。
 
 
 
 
 
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