空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 36

 

♪ピンポーン
 
佐藤んちのインターホンを押す。
 
『は~い』
 
佐藤の声だ。
 
「オレ、オレオレ、バナナオーレ」
『カギ開いてる~』
「ウイーッス」
 
家に誰もいないっていうんで今日は佐藤のうちにマジハイサトナカ大集合。
 
勝手知ったるって感じであがりこむ。
トントントンと二階の佐藤の部屋へ。
 
 
ウイーッス。今日も外あちぃな」
「お~真島」
 
机の前に陣取って、なにやら製作している佐藤。
 
ウイーッス
 
ベッドに寄っかかってファッション雑誌見ている中田。
 
灰谷は……ベッドにうつぶせに寝っ転がってマンガ読んでる。
こっちから顔は見えない。
 
 
「ジュース買ってきた。相変わらずオマエんちってキレイだな」
「おう、サンキュー。ん~母ちゃんちょっと潔癖入ってるから」
 
そのせいだろうか、大雑把に見える佐藤だが、その実、部屋は几帳面に整えられている。
 
相変わらずのマニア部屋。
フィギュアコレクションでいっぱい。
最近じゃ、それらを使ってジオラマみたいなのを作るのにハマっているらしい。
 
「すんげえな。また増えたんじゃねえの。それ美少女フィギュア?」
「ん~。桜子ようこちゃんおすすめなんだよ。最近ハマってて。コッチ方面知らなかったから」
「あ~オタク同士だったっけ?」
「そうそう、同じフィギュアを買おうとして手と手が触れ合う。運命の出会い」
「こないだ聞いたって」
 
中田の向かいに腰を下ろす。
 
「灰谷には話してなかったろ」
「あ~人のそういうのいいわオレ」
「聞けよ、俺たちの運命の出会いを」
 
佐藤は嬉しそうに桜子ちゃんの話を始める。
ジュース飲んで菓子つまんで。
男四人集まって何するでもなくダラダラと。
いいねえ。
 
「中田、服屋のバイト、その後どう?」
「ん~、慣れてきた。いいよ。社販で服、安く買えるし」
「え?いいな、オレのも買ってよ」
「いいよ。今度遊びに来れば」
「行く行く。な、灰谷」
「あ~」
 
灰谷のやつの気のねえ返事。
 
「オレもオレも」
「佐藤オマエ、アニオタじゃん」
「いやいや、デート用にさ」
「オタク入店禁止!!」
「差別発言!いまやオタクがいるから日本経済は回ってるといっても過言ではないんだぞ」
「オレさ、高校卒業したら社員になんねえかって言われちった」
 
いつもは割とクールな中田が嬉しそうに話す。
 
「無視かよ」
「ウソ。いいじゃん。やった。これから服は中田んとこだな」
「いやまあ、まだ決めたわけじゃねえけど」
「中田のセンスと頑張りが認められたってことだろ。すげえじゃん」
「まあ、そういうことになるかな真島くん」
 
中田の鼻の穴が広がった。
 
「それよりさ~みんなで海行かねえ?」
 
突然佐藤がブッこむ。
斬込み隊長。
いきなりなんで海?
 
「やだよ」
「なんでだよ真島。夏だよ、海だよ、水着だよ」
「オマエ、彼女と順調なのな?」
「へへへへ。だからさ、桜子ちゃんみんなに紹介がてら、ね?」
「おい佐藤、言っとくけど。桜子ちゃんに手ぇ出したら殺すからな」
「つうか怖いわ中田~。なんでだよ」
「桜子ちゃんまだ高1だろ。ダメだ」
「中田、オマエは高1の時ヤってたろ?」
「あ?オレはいいんだよ。同意なんだから。つうか乗っかられたんだし」
「乗っかられたの?杏子ちゃんに?」
「あ、ヤベエ」
 
中田の失言はめずらしかった。
 
「なになに、どういうこと。中田、オマエ、杏子ちゃんに襲われちゃったの?」
「言わねえ」
「なんでだよ~。すんげえな杏子ちゃん、まさしく女豹。肉食女子
「おい佐藤、絶対に杏子に言うなよ。オレ、殺される」
 
ホント、怖いものなしの中田の唯一の弱点だよな、杏子ちゃん。
 
「言わねえよ~。だからさ、オレだって同意ならいいんだろ~」
「させるか同意」
「わかったよ~。で、中田と杏子ちゃんだろ。灰谷はアスミルク連れてきなよ」
「え~ああ、聞いてみるわ。つうかアスミルクやめろ」
「爆乳。くくく」
「オマエそれ目的だろ」
「ちがうって。なんかさ、うれし~んだよ。オマエらに彼女紹介できるのとかさ。ホントにいい子だから。オレ、好きなんだよね桜子ちゃんのこと」
 
佐藤は本当に嬉しそうだった。
好きな人を好きだと言える喜びに満ちあふれていた。
 
「んでも、真島があぶれちゃうな」
「だから、オレ行かねえって」
「なんだよ。付き合い悪いな。行こうぜ~真島~」
「海なんて暑いし、焼けるし、人多いし。なんの……」
 
 
♪~♪~
電話の着信音。
 
オレのだ。
スマホに飛びつく。
画面に『城島』の文字。
 
城島さん!
城島さんから電話かかってくるの初めてだ。
 
オレは立ち上がる。
 
「なんだよ真島、電話出ねえの?」
「んあ?ちょと……」
 
オレは廊下に出る。
佐藤が部屋のドアから顔を出す。
 
「おっ、なんだなんだ女からか?」
「ちがうよバカサト」
 
佐藤の顔をドアの向こうに押しこんで閉める。
呼吸を整えて電話に出る。
 
 
「もしもし?」
『真島くん、いま話しても大丈夫?』
「大丈夫です。どうぞ」
『あのね、急なんだけど、出張に行くことになったんだ』
「はい」
『一週間ぐらいかな。だからその間ちょっと会えなくなるし、連絡もつきにくいかもしれない』
 
そんなに?もしかして……。
声をひそめて聞く。
 
「このままフェードアウトとか?」
『ちがう。だったら連絡せずに消えるよ。そうだろ』
「そうですね」
『心配するといけないから電話した。帰ったらまた連絡するよ』
「うん」
『じゃ、夏を楽しんでね真島くん』
「はい。電話ありがとうございました」
『うん』
 
城島さんの声はいつもと同じあったかくて優しいトーンだった。
ウソはないように思った。
それにしても一週間か……。
長いな。
全然会えてないのにな。
って……そういう仲じゃないけどさ。
 
ドアを開けると佐藤が倒れこんできた。
 
「盗み聞きやめろ」
「何何?女女?」
「誰でもいいだろ」
「オレらに聞かせられない話って誰よ」
「親戚だよ」
「親戚~?あっ、この間のホテルの人?」
「ホテルの人じゃねえし。いいだろ別に。それよりオレ、行かねえからな海とか」
「なんでだよ~。桜子ちゃんに会いたくねえのかよ~」
 
 
ん?視線を感じる。
見れば灰谷。
あれ?やっぱこの間、中田が言ったみたいにオレって灰谷に見られてるの?
 
 
「なんだよ」
「なんでもねえよ」
 
怒ったような灰谷の顔。
 
「つうかなんだよ」
「なんにも言ってねえじゃん」
「ヘンなやつ。顔になんかついてっか?」
「なんもついてねえよ。自意識過剰」
「はあ~?」
 
「ジャレるなマジハイ」
 
中田が言う。
 
「ジャレてねえよ」
「そうだ佐藤、真島にイイ子いるわ」
 
灰谷がカラダを起こして、話し始めた。
 
「え?ホント?誰誰?」
「明日美の親友で結衣ちゃんって言うんだけど」
 
 
今なんでそんな話?
つうか、明日美って下の名前で呼び捨てにすんの初めて聞いた。
高梨さんって呼んでたのに。
あ、そのあとすぐに明日美ちゃんになったか。
で、今度は明日美か。
距離が縮まった感ハンパねえな。
胸がチクッとする。
 
「何それ。そんな子いんの。いいじゃん真島。一緒に行こうよ。明日美ちゃんも友達いたほうがいいだろうし。杏子ちゃんと桜子ちゃん姉妹だしね。女ってイロイロあんでしょ。女同士のやつが。それに真島、オマエにも出会いが必要だって」
「だから行かねえって。女めんどくせえし」
「真島~そこがいいんじゃないの。何考えてるかわかんなくて。もうカ~ワイイ。キュンキュンするわ」
「わかんねえ~」
 
「真島にはわかんねえだろうな」
 
灰谷が口をはさむ。
 
「は?」
 
なんだ?何絡んでんの?
 
 
「灰谷く~ん。童貞いじめないでよ~」
「童貞はオマエだろ佐藤」
「あら、灰谷くんたら、今日はキツイ。ご機嫌斜め?お義兄さん、お義兄んの許可さえ頂ければ佐藤」
「却下」
「彼女に乗っかられて童貞喪失した中田くん。みんなが知ってるのをお義姉さんにバラされくなかったら」
「佐藤、こんどそれ言ったらマジ殺す」
「お義兄さん、目がマジ怖い。まあなんだ、いっしょに頑張ろうぜ、真島。オレたちチェリーボーイズ
 
「チェリーはオマエだけみたいだけどな佐藤」
 
またしても灰谷が口を挟む。
 
「え?真島、オマエまさか」
「誰かさんは、ズビズバハメまくって、首の後ろにキスマークつけてたなんて言わねえし」
「言ってんじゃねえか」
 
さっきからホントなんなの灰谷のやつ。
 
「真島~マジか。いつ?誰?」
 
佐藤のテンションが上がる。
 
「言わねえ」
「言えよ~」
「それより灰谷オマエな~」
「あれ?セフレの話ってしちゃダメだったっけ」
 
シラッとした顔で灰谷は言う。
 
「セフレ!!」
「うるせえぞ佐藤。興奮しすぎ」
 
中田が佐藤をたしなめる。
 
「つうかなんなの灰谷オマエ」
「別にいいじゃん。なんかやましいことでもあんのか?」
「ねえよ!」
 
「うお~セフレか~。うらやましい~」
「佐藤、セフレ作って桜子ちゃん泣かせたら殺す!」
「うお~じゃあオレっていつまで童貞~」
「桜子ちゃんと別れるまでだ」
「オーマイゴッド!」
 
 
つうか灰谷こいつなんなの。
なんかオレのこと煽ってねえ?
 
 
「灰谷、オマエさ……」
 
 
 
 

 

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