空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 49

 

一人三千円ずつ集めて八人で二万四千円。
肉は杏子ちゃん桜子ちゃんの実家の食堂経由で安く用意してもらった。
その他のものを買いにファミレスを出てスーパーへ。
 
男子がそれぞれショッピングカートにカゴを乗せて押し、その周りに女子。
みんなでワイワイガラガラ進む。
 
「つうかこんなにカートいらねえだろ」
「いいんだよ真島、雰囲気雰囲気。よくあっちの映画であるじゃん。カートにバカバカ商品入れていくシーンが。桜子ちゃん、佐藤くんに欲しいもの言ってごらん」
 
シャーッ。佐藤がカートを走らせる。
 
「サティ、ふざけない!」
 
杏子ちゃんの声が飛ぶ。
 
「結衣ちゃん、なんかこうしてると新婚カップルみたいじゃない?オレたち」
「うん」
「結衣、今日の晩ごはん何にする?」
「ん?」
 
呼び捨てにされて結衣ちゃんが赤くなる。
 
「……あなた、今日は何食べたい?」
 
おっ、乗った!
 
「結衣が作るものならなんでもいいよ」
 
オレは結衣ちゃんの頬をつつく。
 
「は~い、先生ー、真島くんがまた結衣ちゃんとイチャイチャしていま~す」
「誰が先生だっ!」
「イタタ。中田くん、エルボでツッコむのやめて」
「はいサティと祐介、遊ばな~い。祐介、キャベツ。違う。そっちの身の詰まった方」
「こっち?」
「そう。あと玉ねぎピーマン……」
 
海でも思ったけど杏子ちゃんに祐介と呼ばれる中田は新鮮だ。
仲間内では苗字で呼び合ってるから。
安定した大人のカップルだよな。中田と杏子ちゃんは。
結婚して子供いて、日曜日に友達呼んで焼き肉パーティー開きそうな感じというか。
信じるとか信じないとか信頼とかそういうのが、もう当たり前にある感じとでも言おうか。
うん。夫婦感だ。互いに認め合ってる感じ。
それももう溶けて解けて当たり前になってる感とでも言おうか。
 
「ビール行っちゃう?チューハイか」
 
中田の声に杏子ちゃんが首を横に振る。
 
「女子たちいるからダメ~。今日は未成年らしくお茶とジュースでね」
「だな~。二本づつぐらいか三本?」
「あっ、ペプシ入れて」
「灰谷、オマエ、ペプシ好きだよな」
「おう」
 
「オレもペプシ派~。桜子ちゃんは?どっち派?」
「牛乳」
「牛乳?牛乳か~。似合うね牛乳」
「佐藤くん。ホモちゃんって知ってる?」
「え?ホモちゃん?」
「牛乳プリンのキャクターでね……」
 
んで、佐藤と桜子ちゃんは付き合いたての中学生カップル。
まだ互いの好みもよく知らないような。
初々しくてまぶしい感じ。
 
オレと結衣ちゃんはどう見えるんだろうな。
ラブラブカップル?
まあそう見えるように仕向けてるのオレだけど。
 
 
んで、灰谷は……灰谷と明日美ちゃんは……。

見るな見るな。
 
 
杏子ちゃんの的確な指示で野菜やらなんやら、カゴが埋まって行く。
 
 
「なんかさ~缶詰も缶ごと焼くと美味しいんだって~」と佐藤が言い出す。 
試してみようってことになり、アレコレとカゴに放りこむ。
ツナやら牡蠣のオイル漬けやらオイルサーディンやらサバやら。
 
 
「真島、これもこっそり入れちゃおうぜ」
 
オレにささやいて佐藤がお汁粉にみつ豆、みかんの缶詰もカートに忍ばせる。
 
「シャレシャレ。こういうのもあったほうがいいんだって」
 
佐藤はイタズラ好き。
 
 
 
「こんなもんかな~」
 
買い物リストをにらんでいた杏子ちゃんが言う。
 
「杏子ちゃ~ん。お菓子も買っていい?」
「お菓子~。いいよ~」
 
佐藤の発案でそれぞれおすすめのお菓子を持って集合ってことになる。
 
 
お菓子ねえ~。
結衣ちゃんとも離れて珍味のコーナーにさしかかる。
 
 
あ、チータラだ。
チータラ。
城島さんがいつも美味しそうに食べてたっけ。
 
城島さん……あれから連絡ないし。
こっちからするのもな。
 
 
瞬間、あの部屋を思い出した。
テーブルの上に用意された真新しい灰皿と封の切られていないタバコにライター。
部屋のカギ。
そしてテーブルの下に貼られていた写真。
 
 
城島さんの親友は、訪ねて来たのかな。
城島さんはあの部屋に帰ってるんだろうか。
もしかして……もう、オレ城島さんに会えないのかな。
その方がいいのかもしれないけど。
 
 
 
「あ、真島くん、チータラ?」
 
振り返ると明日美ちゃんだった。
 
「うん」
「それね、ネットで見たんだけど、レンジにかけるとカリカリになって美味しいんだって」
「そうなの?」
「うん。やってみたかったんだ」
「んじゃあ、いっぱい買おっか」
「うん」
 
オレはガサッと掴んでカートにぶちこむ。
ごく自然に話ができた。
灰谷と明日美ちゃんが付き合い始める前、三人で会ってた頃みたいに。
大体、オレが見たくないのは明日美ちゃんといる灰谷なだけで明日美ちゃん自体には、なんのあれも……。
 
 
灰谷くん、待って……」
 
前を歩いていた灰谷の腕に、ごくごくさりげなく当たり前に手を伸ばして明日美ちゃんがぶら下がった。
身長差がかなりあるから、そんな風に見える。
腕を組んで並んで歩く凸凹の二人の後ろ姿はそれこそ若い新婚夫婦みたいだった。
 
 
……なんてことない。
……なんてことない。
 
 
 
「真島くん。真島くんの好きないちごオーレあったよ。焼き肉には合わないけど」
 
結衣ちゃんがオレに向ける明るい笑顔。
 
「結衣ちゃ~ん、センキュ~」
 
オレは結衣ちゃんに抱きついた。
 
 
「なんだ真島、甘えんぼか?そういうのは二人っきりの時にしろよ」
 
目ざとく佐藤がツッコんできた。
 
「いいじゃねえか。ね~」
「ね~」
 
のぞきこんだ結衣ちゃんの顔は真っ赤だった。
結衣ちゃんはすぐに赤くなる。
もっとスゴイことイロイロしてんのに、いつまでもウブイ感じがカワイイ。
 
 
「そんなのオマエ、オレだってやりてえよ。桜子ちゃ~ん」
 
食玩の箱の裏を熱心に見つめている桜子ちゃんに佐藤が手を伸ばそうとすると、中田が鬼の形相で睨んでいた。
 
「失礼いたしました」
 
佐藤がすごすごと引き下がる。
かわいそうな佐藤。
 
「結衣ちゃん、結衣ちゃんの好きなプリンも買っとこうよ」
「うん」
 
結衣ちゃんと手をつないでカートを押す。
後ろから佐藤と杏子ちゃんがこんな風に話しているのが聞こえた。
 
 
「真島のやつ、女めんどくさいとか言ってたくせに一番デレデレじゃねえか」
「そんなこと言ってたの?」
「おう。オマエらといるほうが楽しいとか言ってたのに」
「マジーあいつ、意外と女たらしの素質があるね」
「そうなんだよ」
 
 
言われてるな。
まあオレも自分で自分の順応性にビックリっちゃビックリなんだけど。
 
自分のことを好きで、すぐに反応を返してくれる相手ってのはやっぱいいよ。
好きとも言えない。言っちゃいけないやつを思うより。
ラクだし、わかりやすい。
わかりやすいのは……いいよ。
 
 
*
 
 
「灰谷くん」
「ん?何?」
「真島くんと結衣、仲良さそうで良かったね」
 
デザート売り場で、はた目にもイチャイチャとしている二人を灰谷は横目でチラリと見た。
 
「うん。だね」
「ちょっとうらやましい」
「ん?」
「ラブラブで」
「ああ。あいつは一見わかりにくいけど、元々ああいう、わかりやすいやつなんだ。嬉しい楽しい悲しい、自分では隠せてるつもりだろうけど、顔見ればオレには丸わかり……」
 
だったはずだけど。
最近のあいつは……。
 
「灰谷くん?」
「いや、なんでもない」
「でも、ペアピアス、いいな。あたしも穴開けようかな。そしたら灰谷くんも、いつもしてるピアス片方くれる?」
「ん?いやこれは、ちょっと思い入れあるから……
「そっか」
「ごめん」
「ううん。行こう」
 
淋しそうな明日美の顔を見て、ウソでもあげるって言ったほうがよかったかなと灰谷は少し思った。
 
でも、やっぱこれはな。
 
真島と結衣ちゃんはラブラブか。
そうだな、ラブラブ。
わかりやすくラブラブ。
さっきのファミレスといい、今といい。
 
モヤモヤを通り越してイライラした。
 
あ~なんかもうめんどくせえ。
このループ止めてえ。
 
灰谷はため息を押し殺した。
 
 
 
 
 
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