空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 55

 

城島さんの部屋の前にオレは立っていた。
 
インターホンを鳴らして、しばらく待つ。
応答はない。
 
ドアノブをそっと回してみる。
――開いた。
やっぱりカギはかかっていない。
中をのぞきこむ。
 
暗い。
 
城島さんはいない。
 
コンビニなら電気はつけたままだろうし。
出張からまだ帰らないのかな。
 
電気をつける。
 
城島さんの留守だけどまた勝手に上がりこむ。
 
「おじゃましま~す」
 
 
オレはテーブルの下に潜りこみ、貼ってある写真を確認する。
 
さっき公園で会った人、やっぱこの人だ。
城島さんと写ってる人。
この頃より多少歳をとっているけど、笑顔はそのままだった。
 
明るくて大っきくて、あったかい人だったな。
城島さんが惹かれたのもわかる気がする。
 
 
城島さんの部屋は最後に来た時と同じ。
ガランとして生活感のない、人の住んでいる気配がほとんどしない部屋。
 
 
机の上もこの間と変わりなかった。
真新しい灰皿と封を切られていないインドネシアのタバコとライター。
そして部屋のカギ。
 
城島さん、多分一度も帰っていないんだ。
 
さっきの人、様子を見に来ただけだったのかな。
でも、アパートまで来たのなら、ポストに貼られた「城島」の名前は見ただろうし。
もし部屋に入ったのならわかったはずだ。
城島さんが誰を待っていたのかを。
 
それでも、この部屋をそのままにしていったんだとしたら。
 
 
あの人は「愛しい」と言った。
『生きるってことが愛しい』と。
『あいつも、そう思ってくれるといいんだけどな』と。
 
 
愛しい。
愛しい。
生きることが愛しい。
 
朝メシがウマいとか、吉牛がウマいとか、仕事の成長とか。
そういうのはわかる気がしたけど。
自分が生きてるから感じること――それが愛しいかどうかってのはオレにはわからなかった。
歳を取ったらわかるのかな。
 
ふー。
 
部屋の主人も待ち人もいない空っぽの部屋は蒸し暑くて、そして――とても淋しかった。
 
淋しいな。
淋しい。
とても淋しい。
 
 
 
 
気がついたら眠っていた。
 
カラダのあちこちが地味に痛い。
灰谷と殴り合ったところだ。
見ればちょっとした青アザになっている。
 
今頃灰谷も同じ痛みを抱えているのかな、と思う。
 
……トイレ行きたい。
城島さんの留守だけどちょっと借りちゃおう。
 
 
用を足して手を洗っていたら、バターンと玄関のドアが乱暴に開く音がした。
 
「城島!城島!」
 
叫ぶ男の声がする。
もしかしてさっきの人が戻ってきたとか?
でも、この声――。
 
 
オレはゆっくりとドアを開け、顔を出す。
 
そこには城島さんが立っていた。
 
 
その時の、城島さんの顔が目に焼きついて離れない。
 
オレを見た時のガッカリした顔。
みるみる城島さんの顔は曇って行き、うつむいた。
そして床にヒザをつき頭を抱えこんだ。
 
 
「城島さん……」
 
何も言わないでくれとでもいうように、オレに手のひらを向けた。
 
 
飛びこんできた城島さんの顔を見て確信した。
何もかも捨ててきたと言った城島さんは、この部屋であの人を待っていた。
 
カギをいつでも開けっ放しにして、仕事に行く時もコンビニに行く時も出張中でさえ。
いつ探しに来てもいいように。
出張中に来たら、来たことがわかるように、また来てくれるように合カギを。
そして、その人が来たら一服できるようにタバコとライターと灰皿を置いた。
 
 
「城島」と言って飛びこんできたということは、さっきの人の名前が城島で。
オレが城島さんと呼んでいたこの人は城島ではない、という事になる。
 
あの人の名前をオレに告げて、呼ばせることで、いつもあの人のことを思い出していたのかもしれない。
 
 
なんて……なんて……。
 
 
オレは城島さんの背中に抱きついた。
 
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 
謝ることしかできなかった。
二人の大事な場所にオレが勝手に入りこんだ。
オレが城島さんを傷つけた。
 
 
「……ごめん、真島くん。オレ……」
 
オレは城島さんを、自らを城島と名乗っていた人をさらに強く抱きしめた。
 
 
 
 
少し落ち着きを取り戻した城島さんが……ああ、城島さんじゃないんだっけ。
まあ、でも、オレには城島さんだ。
 
城島さんが静かに話し始めた。
 
 
「真島くん。オレ、何もかも捨ててきたって言ったよね」
「うん」
「でもね、生きてるとまた、持ってしまうんだよ。君との出会い。君との関係。君をカワイイと思う気持ち。これはオレが所有していていいものなのかなって。君に会わない間、ずっと考えていた」
「それって……もう会えないってこと?」
「それを、決めかねてる。決めかねてるってことは、君のことを大事に思い始めたって事だと思う。最初は危なっかしくて見てられなかっただけだったけど。昔の自分を見るようで」
 
城島さんがオレを見つめた。
 
「オレもね、これでもずいぶん酷い目に遭ったんだ。遭いたかったのもあるんだけど。あいつに執着し続ける自分を痛めつけてやりたいって。でも、世の中、今の真島くんが想像もつかないような酷い人間もいるし、酷い世界もあるんだよ。君にはそっちには落ちて欲しくないなって。オレがギリギリ踏みとどまったのだって、たまたま少し運が良かっただけなんだ」
「……」
「わからないよね」
「わからない」
 
オレは正直に答えた。
 
「うん。それでいいんだよ」
 
オレは城島さんの横顔を見つめ続けた。
 
「城島を思う痛みが快楽なら、真島くんは僕にとってたぶん癒しなんだ。でもね、癒されていいのかな。癒されているオレはあいつと向き合っていることになるのかな。そんな風に思ってしまうんだよ」
「オレは……城島さんに癒やされてる。城島さんに甘えてる」
 
城島さんはオレを見て軽く微笑んで頭を撫でた。
 
「うん。いいんだよ。オレが望んでそうしたんだから。真島くんは何も悪くない。悪いのは君に容易に踏みこんでしまった、踏みこませてしまったオレ自身だ。――結局のところ、カタチはどうあれ、人は人を想わずに、人と触れ合わずに生きては行けないものなのかもしれないね」
 
 
オレの中で不安だけが膨らんだ。
そして、言うまいと思っていた言葉があふれだしてしまった。
 
 
「城島さん、オレとはもう会ってくれないの?」
「お互いのために、その方がいいと思うんだ」
 
城島さんはオレの顔を真正面から見つめた。
オレも見つめ返した。
――城島さんの顔がゆがんだ。
 
口を塞がれた。
激しいキスだった。
荒々しいキスだった。
オレも必死で応えた。
 
長い長いキスが終わり、唇が離れると息が上がった。
 
 
城島さんは苦しんでいた。
報われない恋をして、すべてを投げ出してその想いに賭けようとしているのに、オレのせいでさらに苦しんでる。
 
――これ以上オレがすがりついちゃいけない。
 
 
「城島さん、もうここには来ない。連絡もしない。だから、最後にオレを抱いて。いや、オレを犯して。……オレに、痛みをちょうだい」
「真島くん」
 
 
もともとそうされたかったんだ。
城島さんが言ったようにオレも、灰谷に執着する自分を罰したかったんだ。
痛い目にあって、こんなことやめなきゃいけないって思いたかったんだ。
でも出会ったのは城島さんで。
 
城島さんはオレを甘やかす。
灰谷へのこの想いや執着はしょうがないのだと思わせる。
 
 
城島さんのズボンのチャックに手をかける。
 
「ちょっと真島くん」
 
オレは城島さんのモノを取り出し、こする。
先をくわえて舌を這わせて吸う。
深くくわえて唾液を絡めてしゃぶる。

オレは何度も何度もくり返す。
なかなか反応しない。
 
城島さんはそうしているオレの髪をずっと撫でてくれていた。
 
 
 
「真島くん。もういいから」
 
くわえたまま目を上げれば城島さんが言う。
 
「わかったから」
 
その顔はとても悲しそうな顔だった。
 
 
 
城島さんは床に膝をついて立ち、オレの頭を股間に持ってきた。
オレが城島さんのモノをくわえると、オレの頭を持ち、グイッと腰を押しつけてきた。
喉の奥まで突っこまれる。
城島さんはオレの舌に、こすりつけるようにしながら乱暴に腰を振る。
 
苦しいし、顎が外れそうだし、吐きそうだった。
目から涙がポロポロと落ちた。
 
しばらくして、城島さんが止まった。
オレと城島さんは見つめ合う。
 
城島さんは「はぁ」と小さくため息をついて言った。
 
「後ろ、自分で用意して」
 
そして、目を閉じて集中するように腰を振った。
オレはパンツの間から手を入れて自分のそれをほぐす。
 
ニチニチニチニチ。
 
涙が頬を伝い、口の周りが唾液でベタベタになった。
くり返しているうちに口の中のソレが少しづつ大きく固くなってきた。
 
口の中から引き抜かれた。
オレのカラダはクルリと向きを返され床に手をつかさせられた。
尻をぐいっと上げさせられたと思ったら、いきなり城島さんが入ってきた。
 
二週間も使っておらず、開ききっていないそこは十分に広がっていない。
激しい痛みが突き上げた。
 
 
「あっ、い、痛ッ……イタッ……あ……」
 
痛い。
つま先から頭のてっぺんまで痺れるように痛い。
痛みで頭が真っ白になる。
 
痛い。痛い。痛い。
あるのはそれだけ。
 
 
一番奥まで無理やり突っこむと城島さんはオレの腰を持ち、前後に動き始めた。
また違う痛みが、かけ抜ける。
 
痛い。痛い。
 
痛みでカラダを起こそうとするオレの頭を城島さんの手が床に強く押しつける。
オレはうめき声を押し殺す。
押さえつけられる首の付け根にも痛みが走る。
 
痛い痛い痛い。
 
痛みが頂点に達した時、城島さんがイった。 
 
城島さんはしばらくそのまま、オレの上に乗ったまま動かなかった。
はあはあと息遣いだけが部屋に響く。
 
オレの中からペニスが引き抜かれた。
また痛みが、かけ上る。
 
 
視線を感じる。
多分、城島さんがオレを見つめている。
でも痛みで目を開けることができない。
 
 
そうこうするうちに、しばらく気を失ったようだった。
目を開けるとカラダの上に布団がかけられていて、城島さんの姿はなかった。
 
 
シャワー。
とりあえずシャワーを浴びないと帰れない。
立ち上がろうとするけれど、膝がカクカクして足がプルプル震える。
オレはハイハイしたままバスルームに向かう。
腿を精液が伝った。
 
 
肛門が痛い。
血が出ているかもしれない。
 
シャワーのお湯が染みる。
 
痛みの感覚。
生きている感覚?
 
 
乱暴にされてはじめて、今までどんなに大事に扱ってもらっていたかを知る。
城島さんはオレが嫌がることを一度もしなかった。
いつでもじっくり時間をかけてくれた。
 
 
なんとかシャワーを浴びて出てくると机の上に水のペットボトルと軟膏のチューブと痛み止めだろう、錠剤が置いてあるのに気がついた。
城島さんが用意してくれたのだろう。
 
オレは薬を飲んで、軟膏を塗った。
 
 
城島さんは優しかった。
それなのに、最後にヒドイ事をさせてしまった。
 
 
でも、こうでもしないと、オレも城島さんも、きっとお互いから離れられない。
そんな気がした。
 
 
オレは泣いた。
そして思った。
 
 
城島さんの想いが、どんな形であれ、成就しますように。
城島さんが心から笑える日が。
あの人、本物の城島さんが言ったように、生きてることが愛しいと思える日が来ますように。
 
 
オレは初めて、他人のために心から、本当に心から祈った。
 
 
 
 
 
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