空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 53

 

灰谷と離されて結衣ちゃんと二人、二階のオレの部屋。
 
「ヒックヒック」
 
結衣ちゃんが泣きながらオレの唇の端に消毒液をつける。
 
「ツっ……」
「痛いの真島くん」
「ん?ちょっと切れてるだけだし。大丈夫だよ。それより、泣かないで結衣ちゃん。大したことないし」
「ケンカしないで……」
「ごめんね」
 
バンソーコを貼ってくれる結衣ちゃんの頭を撫でる。
 
「他は?痛いとこない?」
 
最初に一発、頬に食らっただけで、後はつかみ合って何発かパンチやケリが入ったぐらいで止められたので、そうたいして痛くはなかった。
 
まあそれも酒が入ってるし、多少興奮しているせいなのかもしれない。
後から痛むかもしれないけど。
 
「大丈夫」
 
 
それにしても灰谷の顔。
 
――あの顔。
 
あいつ、マジで怒ってた。
オレに。
 
あの……目。
 
 
なんか……あ~ムラムラしてきた。
アドレナリン?
あ~なんかたまんねえ。
 
ああ~灰谷。
灰谷。
灰谷。
 
 
 
結衣ちゃんの頬にキスをした。
 
「真島くん?」
 
口にチュ。
 
結衣ちゃんをベッドに押し倒す。
 
「どうしたの?やめて」
「大丈夫」
「下に明日美と灰谷くんいるし」
「大丈夫だって。しばらく来ないよ」
 
Tシャツの中に手を入れる。
 
「やめて」
「オレのこと嫌い?」
 
目を見て言った。
 
「好きだよ」
「じゃあ、させて」
「ダメ」
「いいじゃん。ちょっとだけ……」
 
キスをしようとしたら、結衣ちゃんが首を振ってイヤイヤをする。
 
「どうしてもダメ?」
「ダメ」
 
オレはパッとカラダを離す。
 
「じゃあいいよ。一人でするから出てって」
 
オレは背を向けた。
 
「真島くん……いつもそんなこと言わないのに」
「ごめん、早く出てって」
 
困らせてるのはわかるけど、オレも余裕がない。
結衣ちゃんがモジモジしている気配がする。
 
「……真島くん」
 
結衣ちゃんがTシャツの裾を引っ張った。
 
 
 
 
居間では灰谷が明日美に手当てされていた。
憮然とした表情の灰谷に明日美が言う。
 
「はい、できた。何があったか知らないけど、最初に手を出した灰谷くんが悪いよ」
「……」
「服、濡れちゃってるね。真島くんに借りてこようか」
「いいよ。夏だしすぐ乾く」
「そうだね」
 
明日美はバケツの水をぶちまけて濡れてしまった床をタオルで拭きはじめた。
灰谷もいっしょに拭く。
 
一見ふわふわとして大人しそうに見え、ストーカーもどきは怖がる一方、その実、明日美にはどこか肝の座ったところがあることに灰谷は気がついていた。
 
結衣のようにただ泣いてオロオロしまうのではなく、水をかけてケンカを止め、タオルとクスリの場所を真島から聞き出すと、頭を冷やすように灰谷と真島を別の部屋に離す。
そして、後始末をする。
 
 
「灰谷くん、これ終わったら真島くんとちゃんと仲直りしてきて」
「……いいよ別に」
「よくない。きちんと謝った方がいいよ」
「……」
「どっちにしろ、このままじゃ帰れないでしょ」
「……」
 
 
「ほら、灰谷くん」
 
階段の下で明日美が灰谷をうながす。
 
「……」
「あたしも一緒に行く?」
「……いいよ」
 
明日美に背中を押されて階段を上がり、灰谷は一人、真島の部屋の前に来た。
 
 
謝るっていったってなあ。
小学生じゃないんだから。
 
 
ドアが少し開いている。
灰谷は何気なく、中をのぞきこんだ。
 
 
灰谷の目に飛びこんできたのは――。
 
 
「あっ……ん……結衣ちゃ……そこ……ん……」
 
ベッドに腰掛けた真島の股間に結衣が顔をうずめている。
 
「そ、うん……いい。もっと……しゃぶって……ん……」
 
結衣の頭に手を置き、目を閉じて快感を導き出そうとしている真島の顔だった。
 
 
真島!
 
 
立ち去らなければと思うのだが、灰谷はその場から動けなかった。
 
初めて見る真島の男の顔だった。
 
「んっ……んっ……んっ……あっ……んっ……」
 
 
その時、真島と目が合った
 
 
一瞬、驚いた顔をしたが、真島はそれでも灰谷から目をそらさなかった。
 
「……んっ……んっ……」
 
次第に満ちてきた快感に震える真島の顔。
結衣の頭を抱えて腰を振りはじめた。
 
「ふあっ……んっ……んっ……ん……ん~」
 
自分を見つめ続ける真島の目はまるで……まるで……。
 
 
瞬間、灰谷は我に返り、階段をかけ下りた。
 
心臓がバクバクしていた。
 
なんだあれは……。
あいつ、なんで……。
 
 
「灰谷くん?」
 
居間から明日美が顔を出した。
 
「ちゃんと謝れた?」
「行こう。帰ろう」
 
灰谷は明日美の手をつかんだ。
 
「え?でも、結衣が……」
「真島が送って行くだろ」
「え?じゃあ真島くんに挨拶」
「いいって」
 
灰谷は明日美の手を引いて、靴を履こうとする。
 
「灰谷くん、荷物」
 
灰谷は居間から明日美のカバンを持ってくると、明日美を急き立てて外へ出た。
 
 
 
 
「灰谷くん、待って。早い。手、痛い」
 
灰谷は明日美の手を引き、早足で歩いていた。
 
「灰谷くん。灰谷くん!」
 
明日美の声にハッと我に返った灰谷はやっと立ち止まり、強く掴んでいた明日美の手を離した。
 
「灰谷くんどうしたの大丈夫?真島くんとまたなんかあった?」
 
灰谷は明日美の顔をじっと見つめた。
 
「うち、来る?」
「……うん」
 
 
 
 
部屋へと上がるマンションのエレベーターの中で灰谷は明日美に言った。
 
「ごめん、せっかく来てもらったのに悪いけど。送ってくから帰ってもらっていい?」
「え?どうして?さっきからおかしいよ、灰谷くん。やっぱりなんか――」
 
灰谷は明日美の手を握った。
 
「したい」
「え?」
「ごめん。したい。抑えらんない」
「……」
「でも、してばっかりはイヤだろ。だから、送ってく」
 
灰谷は明日美の手を離すと一階のボタンを押した。
 
エレベーター内に重苦しい空気が満ちた。
 
 
「灰谷くん、あたしだよね?」
「?」
「あたしが、欲しいんだよね」
 
明日美が灰谷を見つめた。
 
「うん」

……多分。

灰谷は心の中でこう答えた。
 
 

ベッドの前で明日美は自分から服を脱いだ。
そして灰谷を見つめた。
 
灰谷は明日美をベッドに押し倒した。
 
抑えられない。
灰谷は自分でも引くほど興奮していた。
 
荒々しくキスをして、愛撫する。
 
早く早く。
早く突っこみたい。
 
灰谷の勢いに戸惑っている明日美のカラダは緊張して固い。
 
早く。
灰谷は明日美の足を開き、キスをして舌を這わせた。
 
「いや……」
 
恥ずかしがる明日美の足を抱えて、そこを舐める。
 
「いやっ……やめて……灰谷くん……」
 
 
欲望がふくれ上がる。
止まらない。止まらない。
挿れたい。挿れたい。
 
 
「灰谷くん……つけて……」
 
 
灰谷は、最後の理性で机の引き出しからゴムを取り出してつける。
 
痛い。はちきれそうだ。
 
明日美の中に一気に埋めこむ。
 
「んうっ…」
 
明日美が声を上げた。
 
 
止まらない。止まらない。
衝動に突き動かされて灰谷は腰を振った。
 
明日美が必死で灰谷にすがりつく。
 
明日美の声に混じって、真島の声が灰谷の頭の中で響く。
 
『んっ……んっ……んっ……あっ……んっ……』
 
快感にふるえる真島の顔が、自分を見つめる目が、浮かぶ。
 
「灰谷く……待っ……」
 
 
灰谷は明日美の中に自分の欲望をすべてぶちまけた。
 
荒ぶる息の中で灰谷はいままでの明日美とのセックスでは感じたことのない快感を感じていた。
 
 
 
「ごめん。本当にごめん」
 
背中を向けている明日美に灰谷は言った。
 
「……怖いよ灰谷くん。こういうの……ヤダ」
 
明日美の泣きそうな声。
 
「ごめん」
 
掛ける言葉がみつからなかった。
 
「シャワー借りるね」
 
脱いだ服を拾い集めると明日美が出ていった。
 
 
オレ、サイテー。
 
灰谷は枕に顔を押しつけた。
 
 
 
 
 
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