空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 52

 

「んもう~みんな聞いて~。真島と結衣ちゃんがベッドでエッチしてる~」
 
佐藤が騒ぎ立てる中、真島は結衣と手をつないで堂々と居間に入ってきた。
 
「んもう~ヤらしいカップル来たぞ~」
「ふざけんな。エッチなんてしてねえわ。ちょっと抱っこしてただけじゃん」
「キャー不純異性交遊~。ハレンチ~。中田、ダメだよな」
「なんで?いいじゃん別に」
「オレにはダメって言うくせに~」
「オマエはな。童貞くん」
「ギャー。中田、桜子ちゃんの前でそういうこと言うな~」
「サティ騒ぎすぎ。結衣ちゃんが恥ずかしいじゃん。ね~」
「……うん」
 
結衣は真島の背中に隠れるようにしている。
 
まるで小学生のように騒ぎたてる佐藤の声が耳障りだと灰谷は思った。
 
「うるせえな佐藤。スキンシップだろ。それよか花火やるんじゃねえの?」
「そうそうそうだった。真島くんったら野獣なんだから」
「違うわ。で、どこでやんの?庭?」
「手持ちとちっちゃい打ち上げとかだから、オマエんちの庭でいいと思うけど。周りうるさい?」
「いや~たぶん大丈夫」
「マジー、バケツに水汲んどこうよ」
「そうだな」
 
ゾロゾロとみな、庭に出て行く。
 
灰谷は一人その気になれずに、トイレに入り、用を足し、時間をかけて手を洗った。
居間に戻ると庭では花火が始まっていて、ロケット花火を飛ばしてはワーキャー盛り上がっている。
灰谷は加わる気にもなれず、ソファに腰を下ろした。
 
 
「灰谷くん」
 
明日美が一人抜けてきて、灰谷の隣りに座った。
 
「花火、始まってるよ」
「うん」
「灰谷くん、今日、しゃべらないね」
「そうかな」
「そうだよ。自分で気づいてなかった?」
「でもまあオレ、元々あいつらみたいにしゃべる方じゃないし」
「わかってるけど。今日は特に。だから……なんかあったかなって」
「別に。なんもないよ」
 
 
「キャー。イヤー」
 
声のした方に目を向けると、庭ではまた、逃げる結衣を追いかけては真島がお腹の肉をつまもうとしてキャーキャー言わせている。
 
「結衣と真島くん、ホントに仲いいね」
「……」
あたし、この間言いすぎちゃったよね」
「え?」
 
――灰谷は明日美との会話を思い出した。
 
『灰谷くんはあたしといて楽しくない?嬉しくない?ホントは……いっしょにいたくない?
あたしといてくれるのは、あの事があったから……だよね』
『別にそんなんじゃ……。それだけじゃないよ』
『じゃあ……したいから?』
 
 
「そんな事ないよ」
 
まあある意味、事実だし。言えねえけど……。
 
「元はと言えばオレが言いすぎたんだ。ごめん」
「……謝って欲しい訳じゃなかったんだけどな」
 
明日美は聞こえるか聞こえないかの小さな声でつぶやいた。
 
 
「灰谷~花火花火ぃ~終わっちまうぞ~」
 
手持ち花火を両手に持ってグルグル回しながら、佐藤が呼んだ。
オレはいい、と言うように灰谷は首を振った。
 
「明日美~。花火なくなっちゃうよ~」
 
結衣が明日美を呼んだ。
明日美のそばには真島が貼りついている。
 
「行ってくれば?」
「灰谷くんも行こう」
 
明日美はいっしょに行って欲しそうに見えた。
 
「オレ、いいわ」
「そう?」
 
「明日美~」
「は~い」
 
明日美は一人、庭に出ていく。
 
ふー。
灰谷は息を吐いた。
明日美との駆け引きみたいなやりとりを面倒に感じた。
 
 
ん?視線を感じて灰谷は顔を上げた。
 
 
――真島が見つめていた。
 
その顔はどこか淋しそうで今にも泣き出しそうにも灰谷には見えた。
 
真島がオレを見ている……。
 
しばらくすると真島は視線を外した。
 
 
 
 
中学生の桜子ちゃんには門限があるって事で、佐藤と中田そして杏子桜子姉妹が先に帰るのを玄関先で見送る。
 
佐藤はニコニコしていた。
 
「楽しかった~。またやろうぜ~」
 
中田がオレと灰谷の肩を叩く。
 
「んじゃなマジハイ。それと彼女ちゃんズ」
 
彼女ちゃんズって……ダサい。
 
「マジーお母さんにマジリスペクトって言っといて」
 
杏子ちゃんが親指を立てる。
 
「それから明日美ちゃんと結衣ちゃん、マジハイがなんかしでかしたらすぐにLINEして。懲らしめるから」
「は~い」
 
結衣ちゃんと明日美ちゃんが笑って返事をする。
 
「杏子ちゃん、こえ~」
「オマエもだよ、サティ」
「オレはしねえよ~」
 
桜子ちゃんが丁寧に頭を下げた。
 
「おじゃましました。楽しかったです」
 
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
「またな~」
 
四人はにぎやかに帰って行った。
 
 
 
 
「はあ~静かになった。しかし、今日のMVPは杏子ちゃんだよな」
「うん。用意も片付けも段取りいいし。さすが食堂の看板娘だね」
 
花火が終わると、はい片付けとテキパキ指示を出しであっという間に片付けてしまった。
 
「さてと。オレらはどうする?結衣ちゃんはまだ大丈夫?」
「うん」
「オマエらは?DVDでも見る?」
「明日美もまだ大丈夫でしょ?」
「うん。灰谷くんも」
「ああ」
「つうかお菓子もいっぱい残ってるけど。アイス食べたくない?オレだけ?」
 
焼き肉の後ってアイスが食べたくなる。
 
「あっ。食べた~い」
「あたしも」
「んじゃオレ、ちょっと行ってコンビニで買ってくるよ」
「あ、いいよ。 明日美、二人で行こ」
「うん」
「ん?なんで?じゃあオレと結衣ちゃんで行こうよ」
「今日は真島くんちにお世話になったんだし。あたしと明日美で行ってくる」
「ちょっと待っててね」
 
彼女ちゃんズはキャッキャしながら行ってしまった。
女の子同士でなんかそう……あるんだな、きっと。
 
 
灰谷と二人、残される。
気まずいんですけど…。
 
――。
 
――。
 
 
灰谷はソファにドカリと腰を下ろしてテレビをつけた。
気まずいのはあっちも同じか。
 
 
「オレ、上からDVD持ってくるわ」
「ああ」
 
 
一応灰谷に声をかけて二階に上がり自分の部屋へ。
オレはベッドに腰を下ろす。
 
はあ~。
灰谷と二人。
いつ以来だ?
 
ああ、海からの帰り道以来だな。
 
結衣ちゃんたち早く帰って来ねえかな。
帰ってくるまで上に。
いや、それじゃまるで負けたみてえじゃねえか。
 
 
――さっき、灰谷と目が合ったな。
花火もやらないで明日美ちゃんと話してるから、すんごい気になっちゃって、つい。
 
やっぱ、どこからどう見てもお似合いなんだよな。
改めて確認したりして。
 
 
それにしても灰谷と二人。
ん~気まずい。
 
 
あ~酒?こういう時は酒だ。
親父のビール冷蔵庫にあったし。
買って戻しときゃ気がつかないだろう。
 
 
オレはテキトーに何枚かDVDを引っつかんで下に降りた。
 
「こんなんしかなかったけど」
 
灰谷の前にポイ。
 
「ん~」
 
灰谷はパッケージを手にとった。
 
 
冷蔵庫開けて缶ビールをプシュー。
ゴクゴク。
ビールはノドで飲む。
城島さんに教わった。
ウマイ。
プハー。
 
灰谷と目が合った。
 
 
「なんだよ」
「オマエ、ビールとか飲むなよ」
「なんでだよ」
「酒、弱いだろ」
「弱いけど。いいじゃん。オマエも飲めば」
 
冷蔵庫から一本取り出し灰谷に放る。
受け取った灰谷の顔は不機嫌だった。
 
 
「あ、灰谷オマエ知ってる?ビールはノドごし。味わうんじゃなくてさ。ノドん中に流しこむイメージでさ」
 
ゴクゴク。
オレは喉を鳴らして飲んでみせる。
 
「プハー。うめえ」
「知らねえよ」
 
灰谷がビールを投げ返してきた。
 
「危ねえ」
 
なんとかキャッチした。
 
「危ないだろ」
「……」
 
返事なしかよ。
 
「固いな~。そんなんじゃ明日美ちゃんに嫌われるぞ」
「……」
 
灰谷は見てもいないくせにテレビの画面を見つめている。
オレは灰谷の隣りに座り、ビールをぐびぐびと飲み干すと、缶をグシャリと手の中で潰し、テーブルの上に置いた。
 
 
「今日だってなんだよ。明日美ちゃん、せっかくエプロンつけてカワイイのにちゃんと見てやれよ。カワイイって言ってやればいいじゃん」
「んなの、人前でしなくてもいいだろ」
「あ~そうか、オマエはムッツリだから影でこっそりがいいんだよな」
「……」
 
また返事なしな。
オレは灰谷が投げ返したビールの缶を開けた。
プシュッと泡が飛び散った。
 
灰谷がオレを睨む。
 
「だからやめろってビール」
 
その言葉を無視してオレはグビグビと飲んで、プハーッと息を吐く。
 
「あ~ウマっ」
「オマエのほうこそ――」
「あ?」
 
オレの煽りにさすがの灰谷もムカついたらしい。
 
「どこでもかしこでもイチャイチャベタベタしやがって。目障りなんだよ」
「目障りだったら見なきゃいいだろ」
「いやでも目に入ってくんだろうが。わざとらしいんだよ」
「はあ~何が」
「まるで見せつけてるみたいによ」
 
見せつけてるんだよ。
 
「何が~?なんでオレが灰谷に見せつけなきゃなんないわけ?自分もアスミルクとよろしくやればいいじゃん」
「アスミルクって言うなや!」
「何キレてんの?意味わかんねえ。結衣ちゃん紹介したの灰谷じゃん。オレが結衣ちゃんと仲良くしてなんでお前がキレんだよ」
 
一瞬、灰谷が黙った。
 
「――オマエ、ホントにあの子のこと好きなの?」
「好きだよ。カワイイじゃん」
「オレにはそんな風に見えないけど」
「人の気持ちなんてそう簡単にわかんねえよ。オレがいつも何考えてるかだって灰谷にはわかんないだろ」
「最近のオマエはわからない」
「オレもオマエがわかんねえよ」
 
灰谷が黙りこんだ。
 
「そうだっけ。余計なことは聞きたくないだっけ。だったらオマエもオレに余計なこと言うなよ!」
 
黙るとか。なんでもいいからなんか言えよ。
 
オレは上を向いてビールを一気に飲み干した。
 
「プハー。ああうめえ。なんでもいい。誰でもいい。穴があいてりゃ男でも女でもいいよ」
「オマエふざけんなよ!」
 
 
突然灰谷がオレの胸ぐらをつかんだ。
そのまま睨み合う。
 
 
「ただいま~」
 
結衣ちゃんと明日美ちゃんが帰ってきた。
 
「買ってきたよ~」
「――どうしたの。なんかあった?ケンカやめて灰谷くん」
 
明日美ちゃんの声で灰谷が手を離した。
 
 
「真島くん、大丈夫?」
 
結衣ちゃんが駆け寄ってきた。
 
「大丈夫大丈夫。お~こわ。明日美ちゃん、灰谷、欲求不満みたいだよ。ちゃんと相手してやってよ」
「オマエ!」
 
灰谷に肩をつかまれたと思ったら、次の瞬間オレは床に転がっていた。
頬に痛みが走る。
 
「痛っ」
 
口の中に血の味が広がった。
 
「ふざけんなコラ」
 
一気に頭に血が上り、灰谷に飛びかかる。
 
「そっちこそふざけんな」
 
手と足が出る。
いろんな感情が噴出して止まらない。
 
人の気も知らないで。
何だコイツ。何だコイツ。
チクショー。
 
 
――バシャッ。
冷たっ。
何?水?
 
 
バケツを持った明日美ちゃんが立っていた。
 
 
「二人とも、やめて!」
 
 
 
 
 
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