ナツノヒカリ 51
部屋の中に肉の焼けるいいニオイがたちこめる。
煙もかなりスゴイけど。
窓開け放して、換気扇を回す。
あ~ウメェ。
やっぱ肉だよ肉。牛だ牛。
そんでまた杏子ちゃんの作ったタレがまた……。
「杏子ちゃん、タレ最高!」
「でしょでしょ。すりおろしたかいがあるでしょ」
「うんうんあるある」
肉、白米、最強。
ガツガツと喰らう。
「あ~佐藤、オレがせっかく育てた肉を~」
「中田は焼きすぎなんだって」
「オレは焼きすぎたぐらいがいいんだよ~」
「いただき!」
「杏子、オマエも~」
「あれ?桜子ちゃんは肉食べないの?」
さっきから見てると野菜とサラダばっかり食べている。
「あ。マジーは知らないっけ。桜子、肉食べれないの」
「え~じゃあ普段何食べてんの?」
「魚と野菜と豆腐」
「修行僧じゃん」
「あとは、お菓子」
「お菓子~。あ、お菓子あるじゃん。よかったら食べな。つうか缶詰。佐藤、缶詰どうした」
「あ~忘れてた~」
缶のフタを開けてホットプレートの端に並べて温める。
しばらくしたらグツグツいってきたから、みんなで味見する。
(ツナ。イケる)
(オイルサーディンとこれは……なんだ?)
(オイスター。牡蠣)
(うんまい。イケる)
(お酒のおつまみ系だね)
(うえ~なんだこれミカン?)
(ぬるいミカン。ゲー)
(うっげーこれなんだ?みつ豆?寒天ドロドロでうす甘い。キモー)
(あっ、お汁粉、おいし~)
などなど賛否両論。
ワイワイガヤガヤ。
にぎやかな食事会。
いいねえ~。
ん?灰谷?
灰谷は右手に箸を持ち、左手に白米の入った茶碗を持ち、鉄板の上の肉を見つめている。
え?何やってんの?
声は出てないけど口が動いてる。
ん?
そんでさっと肉をひっくり返したかと思うとまたブツブツ。
かと思うとさっと肉を箸でつまみ上げるとタレにくぐらせご飯にバウンドして口の中へ。
ハフハフ。
あっつい。肉汁~。
そして白米を一口。
肉と白米のマリアージュ最高!って感じか?
アテレコするなら。
ありゃ最近なんかテレビで見たな。
肉のウマイ焼き方とかなんとか。
片面7秒片面5秒で間髪入れず口に放りこめとかさ。
ああ見えて意外と、うんちくとか好きだからな。
灰谷はまた肉をプレートの上にのせた。
口が数字を形づくる。
「灰谷くんサラダ食べる?」
話しかけた明日美ちゃんを灰谷が手で制した。
肉から目を離さない。
何その真剣さ。
「4、5……はい」
明日美ちゃんの皿に肉をのせる。
「え?」
「早く早く」
慌てて明日美ちゃんが肉を口に入れる。
「どう?」
「……おっ、おいしい」
「だろ~。片面7秒裏5秒」
まるで自分で開発したみたいにドヤ顔で微笑む。
なんだか……ね。
料理評論家かっつうの。
ホントめんどくさいやつ。
あ~でもこういうとこ。
こういうアホみたいな顔で笑うとこ。
そこもオレ……。
ふいに灰谷と目が合ってしまった。
オレは慌てて目をそらす。
見てたのバレるって。
「真島くん、お肉焦げてるよ」
「え?ああ」
「お肉ばっかり食べてるよ。お野菜も食べなさい」
「オレのこと見てたの結衣ちゃん」
「え?うん」
「結衣ちゃんこそ、肉食べなさい。もうちっとカラダにもお肉つけてもいいよ」
言いながらオレは結衣ちゃんの腹の肉をつまんだ。
「キャー!」
キャーって。
結衣ちゃんの声の大きさにみんなの視線が集まった。
佐藤が呆れ顔で言う。
「真島、オマエ、もうホント控えろよ」
「ちがうって。ちょっとこうしただけだって」
腹の肉をつまむ。
「キャー」
「あれ?ツボ?」
「やめてやめて」
おもしろくなったオレは逃げる結衣ちゃんの腹をつまみまくる。
「明日美、助けて」
「よいではないか。よいではないか」
「キャー」
にぎやかな笑いに包まれる。
ちょっとやり過ぎかなとは思うけど。
つい調子に乗ってしまうオレ。
ふと灰谷はどんな顔してるかなと視線をやれば、オレを見ている。
その顔。
一人だけ笑ってないその顔で、オレのこと見ている。
オレの好きなその顔でオレのこと、見ている。
……見るなよ。見るな。
いや、見ろ。見て……そんで……。
あ……そらした。
「ほ~い。結衣ちゃんお肉。あ~ん」
「ん~」
「おいしい?」
「うん」
「あっ、タレついてる」
ティッシュで結衣ちゃんの口元をぬぐう。
「ラブラブカップルがいるよ~」
佐藤が囃し立てる。
「ほっとけ。結衣ちゃんラブラブ~」
「真島くんラブラブ~」
「キー!中田~」
「なんだよ。猿か」
「おう猿だ。キーキーキー」
「真島のラブラブに佐藤が野生化した」
「ウキキキキー」
佐藤が猿になって暴れ回った。
「桜子、サティにバナナ上げてみれば」
「ウホウホウホ」
「真島くん真島くん」
結衣ちゃんが耳元でささやいた。
「何?」
「真島くんの部屋、見てみたいな」
そういえば結衣ちゃんがうちに来たのは初めてだった。
母ちゃんにバレると色々うるさいからな。
オレは結衣ちゃんの耳にささやき返す。
「じゃあ、ちょっと見に行く?」
「うん」
*
「へえ~ここが真島くんの部屋なんだ」
男の部屋が初めてだという結衣ちゃんはあっちキョロキョロこっちキョロキョロ。
「うん。キタナイっしょ」
「う~うん」
「正直だな結衣ちゃん」
「でも、なんか落ち着くよ」
「そう~。ここ座れば」
オレはベッドに腰掛けて隣りをポンポンと叩く。
「うん」
「結衣ちゃんの部屋はキレイなの?」
「う~ん。それなりに」
「ふう~ん」
結衣ちゃんのドキドキが伝わってくる。
おもしれ~。
下にあいつらいるし、なんにもできないのに。
「あっ、この間一緒に買ったアザラシ」
ベッドの上に転がっていたアザラシの抱きぐるみ。
「結衣ちゃんだと思って毎日いっしょに寝てるよ」
「ホントに?」
「うん。こんな風に」
オレはぬいぐるみを抱きかかえてしっぽを足に挟んで寝転がった。
「ふふふ。しあわせね。この子は」
結衣ちゃんがぬいぐるみの頭を撫でる。
オレはぬいぐるみを放り投げた。
「え?」
そして結衣ちゃんの手をぐいっと引き、抱き寄せた。
「あ~。やっぱ本物のがいいわ」
「真島くん。恥ずかしいよ」
「恥ずかしい?いまさら?あんなことやこんなこともしてるのに?」
「もう~」
「あらら、恥ずかしいの?オレのゴマフちゃん」
「ん~」
結衣ちゃんがオレの胸に顔をこすりつけた。
ギュッとして結衣ちゃんの短くてやわらかい髪を撫でる。
女の子って抱き心地いい。
小さくて柔らかくて腕の中にすっぽりと収まる。
人のカラダ。
人肌とかって言うけど。
ホント、安心する。
――ぶわっ。
瞬間、カラダに蘇った感触は……。
ゴツリとした骨の、筋肉の、重さの、脛に当たる毛の、そして抱きしめられる力強さ。
城島さんだった。
オレ……ヤバイ……勃つ……。
その時、ガチャリと音がしてドアが開いた。
「真島~そろそろ花火しようって……うわあ、何してんだオマエ」
佐藤だった。
「キャッ」
結衣ちゃんが声を上げた。
「何ってイチャイチャしてんの。ジャマすんなよ」
「みんな~真島と結衣ちゃんがエッチしてる~」
佐藤が階段を駆け下りていく音がする。
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