空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 39

 

数日後、結局断りきれずに海に行くことになってしまった。
駅で待ち合わせて電車に乗って海まで。
男4女4のカップリング。
 
その朝も灰谷はいつも通り、なんでもない顔をしてチャリでオレを家まで迎えに来た。
オレもなんてことない顔をして後ろにまたがる。
これも幼なじみのなせるワザってやつなのだろうか。
あれから灰谷とは話をしていない。
 
今日だってほとんど顔を見ずに「ウイッス」ぐらいのもん。
つうか、律儀すぎて涙が出るよ、与えられた役割はこなしますA型男灰谷。
 
家に来たタイミングもまさに絶妙だった。
 
用意を済ませ一階に降り、靴を履こうとしたしたところで母ちゃんに見つかった。
 
「早いじゃない。あんた出かけるの?」
「うん」
「どこ行くの?」
「海」
「海?海行くの?誰?灰谷くんたちと?おべんとうは?」
「いらねえよ」
「じゃ飲み物は?麦茶持ってく?何にも言わないから~」
「あっちで買うからいいよ」
 
小学生かオレは!
これで女の子達もいっしょなんてバレたら、きっとすんげえめんどくせえぞ。
 
「あっ、じゃあお菓子、お菓子持って行きなさい」
「いらないって~」
「なんでよ~」
 
お菓子の入った袋をを押しつけられたところでチャイムが鳴った。
 
 
「灰谷く~ん」
 
灰谷の顔を見て顔がパッと明るくなり、声のトーンが高くなった。
助かった。
お菓子の袋を灰谷に押しつけた。
 
 
 
暑い。
ギラギラ太陽。
こりゃ海、暑いぞ……。
 
 
自転車を漕ぐ灰谷の背中。
Tシャツにはもう汗が滲んでいる。
 
 
灰谷……あくまでもいつも通りってわけか。
 
 
いつも通りなわけない。
あれから色々考えてみたけど……。
結局オレ、どうしたかったんだろう。
どうして欲しかったんだろう。
 
受け入れて欲しかったのかな。
 
男と寝るオレも。
そして……オマエのことを好きでいるオレも。
丸ごと全部。
 
 
望みすぎなんだきっと。
望みすぎて、壊した。
いや、まだ壊れてはいないか。
ヒビが入った。
それはまだ小さな亀裂で。
 
どうにかなるかもしれない。
 
どちらにせよ灰谷は悪くない。
悪くない。
わかっちゃいるけど……。
 
 
「ふう~」
 
 
深いため息が出た。
 
 
 
真島のため息を背中で聞きながら、灰谷は思う。
 
迎えに行った方がいいのか行かない方がいいのか、今まで通りに接していいのか悪いのか、これでも逡巡した。
 
 
口から出てしまった言葉は取り消せない。
真島がオレの言葉をどう受け止めたにせよ。
 
 
オレの嫉妬心。
情けないオレの嫉妬心。
それをオレは真島にだけは知られたくない。
 
そんなやつだったのかと思われたくない。
 
「はあ~」
 
もう~。
暑い~。
 
なんも考えらんねえ。
なんも考えたくねえ~。
 
 
海。海か。
 
 
海でちょっとは気分が変わればいい。
真島もオレも……。
 
 
 
 
駐輪場に自転車をとめて駅に着くと、すでに中田と中田の彼女の杏子ちゃん、そしてたぶん、杏子ちゃんの妹の桜子ようこちゃんだろう、が来ていた。
 
 
中田と杏子ちゃんは中学の時から付き合っているという貫禄のカップル。
高校二年にしてすでに色々出来上がっている中田の彼女、杏子ちゃん。
今時茶髪に日焼け、バッチリメイク。
90年代に生まれてコギャルとかをやりたかったと言う。
コギャルというよりヤクザの女とか元ヤン感の方が強い気がするけど……。
学校で伝説の不良と言われた兄を持つコワモテの中田とお似合いだった。
 
 
「マジーひさしぶりぃ~」
「いや、マジーとか呼ぶの杏子ちゃんだけだから」
「そう?ハイターも久しぶりぃ~」
「いや漂白剤じゃねえから」
「彼女できたんだって?ハイターやるじゃん。マジーとハイターってデキてるのかと思ってたわ」
「は?何それ」
「BLBL。桜子、あんた描けるんじゃないこのカップリング」
 
桜子ちゃんは杏子ちゃんと真反対に黒髪オカッパロング色白の日本人形みたいな子だった。
座敷わらし……。
すんげえなあ、この姉妹真反対にふり切ってんな。
 
「灰谷さんが攻め。真島さんが受け。リバでもいいかも」
 
何々なんだってリバ?何それ。
 
 
そこに佐藤が走って来た。
 
「みんなウイーッス」
「サティ遅い!」
「いや、オレのことサティって言うの杏子ちゃんだけだから」
「いいじゃん、サティ。マジーにハイターにサティ。カッコよくない?」
「それを言うならマジハイサトナカ」
「何その呪文」
「真島と灰谷でマジハイ。佐藤と中田でサトナカ」
「オラ、ナカサトだろう。オレのが前だろ」
「ナカサトはゴロが悪いよ。それより桜子ちゃ~ん。今日もカワイイね」
「佐藤さんもカワイイよ」
「オレらカワイイって中田」
「んなことあるかバカサト」
「うるせえな。バカナカ」
 
 
ワイワイ話していると少し遅れて明日美ちゃんと友達がやって来た。
 
「お~明日美ちゃ~ん。ひさしぶりぃ~」
 
佐藤が嬉しそうに明日美ちゃんに声をかける。
 
それからひとしきりはじめましての紹介し合いが続き。
 
 
 
「真島くん、この子が結衣。真島くん、覚えてないかな?」
「ん?」
 
明日美ちゃんの後ろに隠れるように、なんか恥ずかしそうにしている結衣ちゃんはスラっとしてスレンダーでショートカットのそこそこカワイイ女の子……って。
 
「あ……」
 
明日美ちゃんのストーカーもどき事件の時にいっしょにいた子だった。
オレ、家まで送って行ったんだった。
 
「こんちは」
「こんにちは。この前はありがとうございました」
「ああ、別に。大したことじゃないし。結衣ちゃんも大変だったね」
「ううん、明日美に比べればあたしなんか全然」
 
そうか、あの時の子……。
結衣ちゃん。そう言えばそんな名前だったような……。
なんだかモジモジしている。
オレのこと気になってるんだっけ?
きっとなんかすんげえいいようにイメージされてんだろうな。
まあいいけど。
 
 
と、こんな感じで引き合わされた。
灰谷はと言えば自分の彼女の友達だってのに、まったくフォローなし。
 
ああそうか何も聞かねえんだったっけか。
もしかして、暗に女と付き合ってみろってことかなあ。
そういう……。
ん~。
 
 
 
熟年夫婦のフルムーンみたいな中田と杏子ちゃん。
その向かいに付き合いたての中学生みたいな佐藤と桜子ちゃん。
 
すんげえ対比。
 
一方こっちはと言えば、そこそこ落ち着いた美男美女カップルの灰谷と明日美ちゃん。
んで、即席カップルのオレと結衣ちゃん。
 
 
電車の中では、もうめんどくさい話のオンパレード。
 
「真島くん彼女いないんだよね」
「うん」
 
だから明日美ちゃんその子連れてきたんじゃねえの?
 
「なんで~理想が高いとか」
「べつに~。ないよ理想なんて。人間関係なんて現実じゃん。いっしょにいて楽しい子なら」
「あとは?」
「あ~料理できるとありがたいかも」
「真島くんしないの?」
「ん~うち母ちゃんがそういうの得意だから」
「結衣も料理得意だよね」
「得意じゃないよ。普通だよ」
「へえ~得意料理って何?」
「ええとお菓子とかは得意かな」
 
タルい。
退屈で死ぬわ。
んでも、一応ヘラヘラと話はする。
社交性はあるからね、オレ。
 
それに比べて灰谷、窓の外をムスッと見つめて、ほぼしゃべんねえ。
オレに女を紹介するならオマエが盛り上げろっつうんだよ。
 
しかしエライもんでそんな灰谷を気にした様子もなく、時々話しかけ、結衣ちゃんとオレに話題を振りつつ話をすすめる明日美ちゃん。
相変わらず頭の回転が早いし、センスも良い。
 
逆に言えば明日美ちゃんだから灰谷と付き合えてんだなきっと。
いや、灰谷だって明日美ちゃんと二人でいる時は違うんだろう。
街中でキスとかしちゃうんだし……。
 
自分の傷を自分でエグる。
Mっ気あんのかな、オレ。
 
 
 
 
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