空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 16

 

ゲームセンターから一転、灰谷はホテルの一室にいた。
 
ホテル。いわゆるラブホテル。
入るのは初めてだった。
 
あれから、「今日は帰りたくない」と言った明日美は、灰谷が何を言っても聞き入れなかった。
「結衣に電話する」といい、友達の家に泊まると家に連絡してしまった。
 
灰谷は気が変わってくれないかなと思いつつホテル街を歩いて、冷静になる時間を与えるために先にゆっくりとシャワーを使い、バスローブ姿でバスルームから出ていった。
 
だが、それもムダだった。
明日美の意志は固いようだった。
恥ずかしいのだろう灰谷とは目を合わさずに明日美はバスルームに消えていった。
 
 
灰谷は知っていた。
好きでもない女の子と寝ると後々めんどくさい事になる事を。
 
中学時代に付き合っていた彼女がそうだった。
自分から誘ったくせに一度でもカラダをつなげると「あたしの事好き?」だのなんだの言い始め、まるでそれを確かめるようにイロイロとワガママを聞かされた。
はては「灰谷くんって何考えてるかわからない」と言われてフラれたのだった。
 
 
でも、ああまで言ってくれてるのに断るってのも。
……真島にはヤらないとか言ったのにな。
まあ、なるようになれと思いながら一方で真島の事も気になっていた。
 
 
明日美が見たのは本当に真島だろうか。
だとしたら?
フラフラしてた?
大丈夫かなあ。
 
とりあえずLINE、いや、電話だ。
 
 
 
 
本当にあのおっさんとヤっちゃうのかな。
 
オレはバスローブ姿でベッドに横たわっていた。
 
ホテルに入ると先にシャワーを浴びておいでと言われ、入る前に薬局で買った浣腸の箱を渡された。
中をよく洗うんだよ、とも。
 
浣腸なんて子供の時以来だった。
よく洗うってどうやって?
とりあえず指を突っこんでシャワーのお湯を入れて洗う。
なんだか生々しい。
酔いもすっかり醒めてしまった。
 
 
入れ違いに男がシャワーを浴びている。
 
ベッドの上に置かれたビニール袋から携帯用のローションがのぞいている。
枕元にはコンドーム。
 
生々しい。
 
そういえばオレ、あんまり男同士のセックスについて考えたことなかったな。
灰谷のことはオカズにしてたけど、挿れるとか挿れないとか、ケツ使うとかは考えてなったかもしれない。
 
そもそも、オレは灰谷が好きなだけで男が好きってわけでもないし。
こういうのホモって言うの?ゲイ?バイ?わかんねえや。
 
 
何やってんだろう。
本当に何やってんだろう。
 
 
♪~♪~
 
ビビった。
スマホの着信音か。
そう言えばタクシーの中でも何回も鳴っていたっけ。
手に取れば画面に"灰谷“の文字。
 
灰谷 灰谷 灰谷 灰谷 灰谷。
 
オレ……オレ……灰谷、オマエいまどこに誰といる?
 
 
オレは……灰谷 灰谷 灰谷っ。
 
 
電話が切れたと思ったらすぐにLINEが来た。
画面にメッセージが流れる。
 
『大丈夫か』
 
大丈夫って何が大丈夫だよ。ちっとも大丈夫じゃねえよ。
 
『うち帰れたか』
 
なんで家にいないってわかんだあいつ。
 
帰れてない。帰れてねえんだよ灰谷。
 
オレ、帰った方がいいのか……。
 
 
――帰れねえよ。
帰ってもそこにオマエはいないじゃん。
オレ、一人でいられねえ。
 
 
スマホの電源を切った。
 
 
 
その時、シャワーの音が止まった。
オレは起き上がって、ベッドのフチに腰掛ける。
 
バスローブを着て男が出てきた。
 
「大丈夫?」
 
灰谷と同じこと聞くな。
 
「大丈夫です」
 
男は横に座って、ふう~と息を吐いた。
 
「本当に、いいの」
「いいです」
 
男はオレの頬を撫でた。優しい目だった。
男相手にこんな表情されたのは、生まれて初めてだった。
女の子ってこういう時、いつもこんな顔で見られて
――灰谷も明日美ちゃんに、こんな顔してんのかな。
 
 
男は言った。
 
「思えるならオレを君の好きなやつだと思ってもいいよ。目を閉じててもいいし、名前を呼んでもいい。イヤだと思ったらすぐに言って、やめれるうちはやめるから。君のトラウマになりたくないし。ただ、これはセックスだよ。ただのセックスだ。それ以上でもないし、それ以下でもない」
 
ただの……セックス……。
 
「……なんでそんなに優しいんですか」
「優しくなんてないよ。これは優しさなんかじゃないんだ。……君はたぶんオレだから。何年か前のオレだから」
 
 
男はオレにキスをした。
ふわりと優しかった。
ベッドに押し倒された。
ふわりふわりとしたキスは首から胸に降りてくる。
 
 
灰谷。灰谷。灰谷。
 
 
オレは目をぎゅっと閉じた。
 
 
灰谷はやきもきしていた。
真島は電話に出ないし、LINEに既読もつかない。
もう一度電話するかと思った時、シャワーの音が止んだ。
 
明日美がカラダにバスタオルを巻いて出てきた。
恥ずかしいのだろう。
頬は赤く染まり目を伏せ、泣きそうな顔をしている。
 
そんなに頑張らなくてもいいのに……。
 
 
灰谷の前まで歩いてくると、明日美は震える声で言った。
 
「灰谷くん、やさしくして」
 
灰谷が腕にふれるとピクリとカラダを震わせた。
 
カワイイな。
オレなんかにそんなに緊張して。
 
灰谷は思った。
 
そっと抱き寄せるとプルプルと全身が震えた。
 
小さなアゴに手をかける。
見上げる目が赤く潤んでいた。
小さなぽってりした唇に口づける。
柔らかい唇。
 
 
そのあとは衝動が灰谷を突き動かした。
一瞬、真島の顔が頭をかすめたが、すぐにそれは消えた。
 
 
 
 
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