空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 13

 

週末だっていうのに家で一人。
灰谷と中田はデートだし、来れるって言ってた佐藤は急に腹が痛いとか言い出して結局来ねえし。
 
オレは部屋でゴロゴロ。
 
 
♪~
 
おっ、佐藤からLINE。
 
『ワリィ真島』
 
返信する。
 
『いいよ。腹具合どう?薬飲めよ』
 
『うん。ごめんねダーリン。オレを愛さないで』
 
『愛さない愛さない』
 
『愛せよ~』
 
はい、コレは既読スルー。
 
 
ん~、こんなことならバイト入れたままにしておけば良かったな。
久々にサトナカハイ、いやハイサトナカ?まあどっちでもいいか、と遊ぼうと思って休ませてもらったのに。
つうかメシ、どうしよう。
佐藤がピザ食いたいとか言ってたからなんも買ってないや。
 
 
腹も減ってきたし、ヒマつぶしも兼ねて外に出た。
 
ブラブラ歩いて目についたファストフード店に入る。
 
 
席を探してキョロキョロしていると、あ!……明日美ちゃんだった。
マスクして、イヤホンでなんか聞きながら本を読んでいる。
 
今一番会いたくない女と……。
それにしても……。
マスクで顔半分隠れてもカワイイのがわかる。
隣りの隣りのテーブルにいる男がチラチラ見ながら、話しかける機会をうかがっているように見える。
危なっかしいなあ~と思った時、ふいに明日美ちゃんが顔を上げた。
 
オレに気がついて手を振ってきた
わからないとでも思ったのかマスクをとってニコリと笑った。
混じりけのない笑顔。
こういう笑顔が男達を勘違いさせるんだと思う。
まあどうでもいいけど。
 
しょうがないから明日美ちゃんのいるテーブルへ。
 
「真島くん久しぶり~。シフト代わっちゃったから全然会えないね」
「そうだね。今日デートだろ。灰谷と待ち合わせ?
 
近くの男に聞こえるように少し大きめの声で言っとく。
 
「うん。まだちょっと時間があって」
「そっか」
「あ、よかったら座って」
「うん」
 
オレたちの会話を聞いたであろう隣りの隣りの席の男がトレーを持って席を立った。
よかった……ってオレ何やってんの?
まあいいや。
 
灰谷が来るんならチャッチャと食べて出よう。
二人並んでる姿なんか見たくねえからな。
 
「この間はありがとう。灰谷くんと来てくれて。結衣も家まで送ってくれて」
「ああ。別に。大したことじゃないよ。あれから大丈夫そう?」
「うん。外にいる時はなるべく一人にならないようにしてるし。どうしても一人になる時は人目があるところにいるようにしてる。あとはマスクしたりイヤホンしたり。今日もさっきまで結衣がいてくれてたんだけど急用ができちゃって」
「そっか」
 
久しぶりに見る明日美ちゃん。
あれ?なんか感じが違うな。
なんでだ?
……そうかちょっと胸が目立つこの服。
ってああ、デートだからか。そうだよなカワイくしてくるよなもちろん。
なんかいつもよりカワイイ。キラキラしてんな。
 
「怖かったね」
「うん。っていうか、似たようなこと何度かあるし……でも、こういうのって慣れないね」
「オレが煽っちゃったかなあ、あの客」
「そんなことないよ。灰谷くんもそう言ってくれるんだけど」
 
そっか。やっぱ灰谷も気にしてるんだな。
 
 
「あ、あのね、あの……真島くんに聞きたいことあるんだけど、いい?」
 
聞きたいこと?明日美ちゃんがオレに?なんだろう。
でも早くしないと灰谷が来ちまう。
 
「え?何?あ、オレ、食いながらでもいい?
「うん。もちろん」
 
聞きたいことがあると言ったわりには明日美ちゃんはなんだかモジモジしながら、ストローでチューチューとアイスティーを吸うばかりで中々話さない。
 
めんどくせえ~。
つうか聞きたくねえ~。
から、あえて自分からは聞かない。
ガツガツハンバーガーに食いついてポテトを口に放りこむ。
 
明日美ちゃんはしばらくしてやっと口を開いた。
 
「あのね、真島くんは灰谷くんと一番仲がいいでしょ」
「さあどうだろう。子供の頃からいっしょにいるだけだけど。クサレ縁ってやつじゃない」
「でも、灰谷くんから真島くんの話がよく出るよ」
「ふうん」
 
灰谷あいつ、オレのどんな話してんだろう。
 
「灰谷くんはあたしの事、どう思ってるのかな」
 
は?オレに聞く?
 
「さあね。そういう話あんましないから」
「……あたしの話、出ないんだ」
「つうか、しないよ、あいつ。その辺は秘密主義っていうか。でもなんでそんなこと聞くの」
「なんかね、灰谷くんあたしといても、真島くんといる時みたいに楽しそうじゃないの」
 
ったりめーだろ。何年の付き合いだと思ってんだよ。
 
「そんなことないんじゃない」
 
一応言ってみる。
 
「そんなことある。無理に付き合ってくれてるのかなあって」
 
知らねえよ。つうかなんでオレがこんな話聞かなきゃなんねえんだろう。
 
「あの、この間の、あれがあってから、バイトの日は迎えに来てくれるし、送ってくれるし。すごく心強いし嬉しい。でも、だから、いっしょにいてくれるのかなって」
 
……そうかもな。
 
断る理由がないからなんて付き合い始めたわりには、灰谷は彼氏の役目をきちんと果たしていた。
そう、根がマジメな灰谷は役割を与えられるとそれをきちんとこなそうとする。
自分がちょっと強引にあの客を帰らせてしまったから明日美ちゃんが怖い目にあったのかもとか思ってるだろう。
だからきっと放っておけないのだ。
あんな事でもないと積極的に、自分からマメに連絡とか取らなさそうだし。
それこそ『灰谷くんって何考えてるかわからない』ってフラレそう。
 
 
「聞いてみれば灰谷に直接。あいつが明日美ちゃんをどう思ってるかは、あいつにしかわかんないし。オレがどうこう言う話じゃないと思うけど」
「……そっか。そうだよね」
 
わかりやすくしょげてる明日美ちゃんをいじめたくなってくる。
 
 
「つうか、『帰りたくない』とかって言ってみればいいんじゃない」
「え?」
「あいつも男だしさ。そんなこと言われればちょっとは盛り上がるかもよ。男友達と彼女の違いってそういうとこもあるでしょ」
 
つうかそういう部分の方が大きいじゃん。
 
明日美ちゃんがだまりこんだ。
もっと追いこむか。
 
「あいつああ見えて義理堅いから明日美ちゃんの初めてでももらったらすんげえ大事にしそうだけど。あ、初めてだよね?」
「……真島くんってそういうこと言う人だったっけ」
 
お、怒ったか?負けねえよ。
 
「そういうって何?」
「……」
「知ってると思うけどあいつかなりモテるし。ああいうやつって多分早いもの勝ちだよ」
 
それにきっとオレの知る限り灰谷も初めてだから、きっと一生忘れない。
それは言わないけど。
 
 
明日美ちゃんは少し泣きそうな顔になった。
ちょっとやり過ぎたかな。
 
しばらくして明日美ちゃんは小さな声でこう言った。
 
「……好きなの、灰谷くんが。灰谷くんにもあたしの事好きになって欲しい。それだけなの」
 
 
――それだけ。
それだけがどんなに難しいか。
 
女だって事だけでこんな事を言えるんだ。
自分の気持ちを。本人にも他人にも。
ぬけぬけと。
オレは誰にも言えないのに。
あいつが好きだって。灰谷が好きだって。
 
瞬間、彼女を憎み始めている自分に気がついた。
 
 
オレはハンバーガーとポテトの残りを口に放りこんだ。
 
「ワリぃ。オレもう帰んないと」
「あっ、ごめんね」
 
オレがトレーを持って立ち上がると明日美ちゃんは言った。
 
「今日話したこと、灰谷くんには言わないでくれる?」
 
上目遣い。オレが上から見下ろしているからそう思うのか?
灰谷はいつもこんな顔見てんのか?
それって言って欲しいってことなのかな。
『明日美ちゃんオマエがどう思ってるかって気にしてたぞ』とか?
橋渡し的な?
 
「言わないよ」
「話聞いてくれてありがとう。私なりにがんばってみる」
 
明日美ちゃんは微笑んだ。
 
 
店を出ながらオレは思う。
さっきので何がんばるんだよ。人の話聞いてねえな。オレ、はげましてないから。
え?もしかして『帰りたくない』とか言っちゃうってこと?まさかな。いや、でも……。
 
ふいにこないだ英語の授業でやったマザーグースのフレーズが浮かぶ。
 
“女の子って何で出来てる?
お砂糖とスパイスといろんなステキ”
 
それからなんだっけ。
 
“女の人って何で出来てる?
リボンとレースと甘い顔”
 
リボン・レース・甘い顔……。
あれ?オレってもしかして墓穴掘った?
自分で言った言葉を思い返す。
 
義理堅いから『初めて』をもらったら大事にしそう?
初めてだから一生忘れない?
 
その通りだった。
 
オレ、何やってんだ。何やったんだ。
いや、明日美ちゃんにそんな度胸ないだろう。
でも、今日のあの思いつめた様子だったらもしかして……。
後悔しても後の祭りで。
考えれば考えるほど、オレが後押ししたような気持ちになってきた。
 
 
居てもたっても居られずスマホを出し灰谷の名前を表示する。
今なら、今ならまだ間に合う。
明日美ちゃんに会う前に灰谷を捕まえれば……。
 
オレが……オレは……オマエを……。
 
なんて言う。なんて言えばいい。
 
オマエが好きだ。だから高梨明日美と寝ないでくれ?
 
言えるわけがない。言えたらとっくに言ってる。
言ってどうなる。
 
 
……痛い……胸が痛い。
痛えよ灰谷。
 
灰谷。灰谷。灰谷。
 
 
 
 
 
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