空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 7

 

灰谷の彼女になった高梨明日美に会ったのは、付き合う事になったと聞いたその日の夕方の事だった。
 
放課後、学校から家まで自転車で送ってくれた灰谷がそのままバイト先まで送ってくれるという。
その日はオレと明日美ちゃんだけがシフトの日で灰谷は入っていなかった。
 
オレは断った。
歩いて行くのはダルいけど、学校と違ってそう遠くはないし。
何より彼氏彼女の灰谷と明日美ちゃんを見たくなかったってのが本音だ。
 
今朝のこと(タンデム中、灰谷がフザケてオレの腰に手を回してカラダをくっつけてきたたのに耐えられず、オレが少しキレた)があったからか、オレが断ると灰谷は案外あっさりと引き下がった。
 
 
はあ~。ヤダヤダ。
ため息つきながら重い足取りでオレはバイト先のコンビニに向かった。
 
 
ロッカールームで顔を合わせると明日美ちゃんはこう言った。
 
「なんか……ごめんね真島くん」
 
何がごめんなのだろう。
 
<あたしに気があるのはわかってたけど、あたしが好きなのはあんたじゃなくて灰谷くんなのよごめんね>だろうか。
それとも<アテ馬にしてごめんね>だろうか。
それとも<二人の間に割りこんじゃってごめんね>だろうか。
 
ああ……ネガティブが止まらない。
だからわざと聞いてやる。
 
「何が?」
 
明日美ちゃんは白い顔を耳まで赤く染めて言った。
 
「あの……なんかこんなことになっちゃって」
 
ハニかむ明日美ちゃん。
 
……カワイイ。
男だったらみんなそう思う。
ズルい。女ってだけで……。
いやいや、オレ、考え方ヤバイ。
 
「別にぃ。お似合いじゃん」
「ありがとう」
 
嬉しそうに彼女は微笑んだ。
灰谷の事が本当に好きなんだな。
その笑顔でわかる。
 
「それで、あのね……」
「あっ、オレ、ちょっとトイレ」
「うん」
 
このうえノロケ話なんか聞きたくなかった。
 
 
コンビニのバイトってのは意外とやることが多い。
レジはもちろん公共料金の振込、宅配の受付、フードの調理、商品補充。
十七時には勤め帰りや学校帰りのお客様によるレジのピークも来る。
ムダ話なんかする時間もなくて助かる。
 
 
明日美ちゃんはオレの顔を見る度に何か言いたそうな顔をするけど、気がつかないフリをした。
 
あ~めんどくせえ。
つうかオレってなんて器が小さいんだろう……。
はあ~。
早く終わんねえかなあ~。帰りて~。
 
ボヤいてみても始まらない。いや、終わらない。
 
 
レジのピークも落ち着いた。
オレは商品補充をしながら、レジに立つ明日美ちゃんを改めて観察する。
 
 
高梨明日美。
 
明るくて感じのいいカワイイ子だ。
そう。カワイイ。誰がどこから見てもカワイイ。
胸もデケえしな。
って佐藤か!
 
制服や私服の時は気にしているのか、あまり目立たないけど、店の制服になると、前がパンパンで(たぶん店長の趣味)ついつい視線が行く。
彼女自身もわかってるんだろう。
時折、あ、見られてる、ヤダな、でもしょうがないかみたいな顔をする。
 
子供みたいなロリ顔に巨乳。
仕事はテキパキ。
笑顔を絶やさない。
よく働く。
 
オレと灰谷は彼女に仕事を教えてもらった。
その教え方も丁寧でわかりやすかった。
バイト初心者のオレのバイト道の基礎を作ったと言っても過言ではない。
 
 
――ってまたか。
明日美ちゃんがサエないニート風の男に捕まっていた。
 
「いやあ~近くにコンビニあって、しかもこんなにカワイイ店員さんがいてラッキーだな。最近越してきたんですよ~。高梨さんって言うの?カワイイすね~」
 
 
バイトしてみてわかった事の一つはカワイイ女の子と隙あらばおしゃべりしたいって男どもがたくさんいるんだなって事だ。
それが明日美ちゃん級にカワイければその人数も増えるってもんで。
 
今まさに明日美ちゃんが接客しているような、聞いてもいないのに自分のことをペラペラ話しては相づちをうたせて中々お金を出そうとしない客もいるし。
聞きようによってはセクハラまがいの事を話しかけるオッサンや、わかりきったことをクドクド聞いてわざと困らせる客もいる。
カワイイ女の子と何らかの接点を作りたいんだろう。
 
 
もともとオレたちが彼女と親しくなったのも、仕事終わりに店の前をウロウロしてるやつがいて、店長に頼まれて駅まで送って行ったのがキッカケだった。
そんなことが続いてたまにいっしょにメシ食って帰るようになったり。
 
でも、いつもオレと灰谷と三人だった。
三人でいる時もおもにオレと彼女がしゃべって、灰谷はたまにオレにツッコミいれるくらいで、彼女とはあんまりしゃべっている感じはなかった。
 
トイレなんかで席を外して戻ってくると、二人ともそれぞれスマホをいじってたりして、オレがいないと間が持たないのかなあとは思っていたんだけど。
 
灰谷は話すことがなければムリに話さない。
でも、明日美ちゃんはそうじゃない。オレと同じ。
つまりどんな人にでも話題を振って、間が持つように気を使うタイプだ。
今考えて見れば、そんな彼女が黙っていたというのなら、よっぽど怖がられてるか逆に好かれてるか。
つまり、最初から明日美ちゃんは灰谷の事が好きだったんだろう。
だから気楽なオレとばっかしゃべってたんだろうな。
 
 
他に客がいないのをいいことに明日美ちゃんが接客している客は中々お金を払おうとせず、身の上話を続けている。
お客様なんで明日美ちゃんはニコニコ聞いて相づちを打つ。
聞いてるこっちのほうがイライラしてオレは商品補充の手を止めて声をかけた。
 
「高梨さん、バックルームで店長呼んでる。時間かかるようだったらレジ替わるよ」
 
オレの言い方が気に触ったのか客がこっちを見てキッと睨んだ。
 
何だコイツ。やんのかコラ。
 
オレの表情を見て明日美ちゃんが声のトーンをいつもより少し上げて、ふんわりと声を出す。
 
「あ、真島くん大丈夫。お客様ありがとうございます五百六十円頂戴します」
 
そしてお客さんに向かってニッコリ微笑んだ。
 
「あ、はい!」
 
男はデレた声を出してテキパキとお金を出した。
 
 
スゴイ!
 
 
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
「また来ま~す」
 
来んなこの野郎!
 
客の姿が見えなくなると明日美ちゃんは言った。
 
「真島くん、店長呼んでないでしょ?」
「うん」
「ありがとね」
「いや、なんもしてないし」
「でも、ありがとう」
 
そして笑顔……。
カワイイ。
 
ってイヤイヤ、オレまでデレてどうする。
 
う~ん。本当にカワイイ子ってのは、こういうのに慣れてるんだよな。
受け流す方法を知っている。
男どもの妄想に絶えず晒されてることを意識しているに違いない。
っていや本当に大変だろうとは思うけど。
こうやって冷静に観察してるはずのオレまでデレさせるって相当だよな。
きっと男の遺伝子に刻みこまれてるに違いない優秀な遺伝子のメスを求める……ってまあどうでもいいけど。
 
 
「真島くんおはよう」
「あ、おはようございま~す」
 
パートの多田さんだ。
 
「明日美ちゃんおはよ~」
「おはようございま~す」
「伊豆のおみやげ買ってきたから二人とも食べてね。バックルームにあるから」
「ごちそうさまで~す」
 
「多田さん、旅行ですか?」
「違うのよ~実家の母が体調が悪くてね~」
「え~大変ですね」
「そうなのよ~。それがね……」
 
明日美ちゃんは多田さんの話を熱心に聞いている。
同性からも好かれてんだよな。
カワイイ子って、うまく立ち回らないと同性から嫌われたりするんだろ。
きっと頭もセンスもいいんだろう。
こういうの非の打ち所がないって言うんだろうか。
 
……そんな彼女だからこそ灰谷だってOKしたんだろう。
そう、灰谷の言うとおり、断る理由がないのだ。
 
 
 
その日の仕事終わり。
帰り支度をしているオレに彼女が声をかけた。
 
「真島くん、お疲れさま」
「お疲れ~」
 
とっとと帰ろう。
 
「あのね、真島くん、この後って時間ある?」
「え?何?」
 
♪~
明日美ちゃんのスマホが鳴った。
 
「あ、ちょっとごめんなさい」
 
イヤな予感がする。
 
画面を確認した明日美ちゃんが言う。
 
「灰谷くん、もう少しで着くって。でね、三人でいっしょにご飯食べて帰ろうって言われてたんだけど」
 
そう来たか。
 
「ワリぃ、オレ、家でメシ待ってるし」
「真島くんのお母さんには灰谷くんが連絡するって」
 
読まれてる。
 
「いや、オレ、金ないし」
「今日は灰谷くんがごちそうするって」
 
灰谷のやつ、三人じゃ会わねえつったのに。
ぜってえヤダ。
 
「ワリぃ、オレ今日寄るところあるんだわ」
「え?」
「明日美ちゃんも灰谷と二人のほうがいいだろ」
「え?そんなことないよ~」
 
と言っている顔に二人でいたいという本音がにじんでいるように見えた。
オレのやっかみか。
 
「んじゃ、オレ表から行くわ。灰谷にはテキトーに言っといて」
「え?真島くん……」
 
灰谷のやつ。ふざけやがって。
明日美ちゃんの返事も待たずにオレは店を飛び出した。
 
 
 
 
 
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