空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 5

 

変化は放課後にさっそく現れた。
 
「灰谷。帰ろうぜ」
 
いつものように声をかけると灰谷はちょっとすまなそうな顔でこう言った。
 
「ワリぃ、真島。オレ、今日ちょっと……」
「まっすぐ帰んねえの」
「ああ」
 
ニヤニヤした佐藤が口を出す。
 
「真島~。さとれよ~。灰谷くんは明日美ちゃんにお返事&デートなんですよね~」
「そうなの?」
「……まあ。会う約束はしてる」
 
気持ちが一気に底に沈む。
が、マズイ。気づかれてはいけない。
 
「はいはいいってらっしゃい。あっ、んじゃチャリ使わねえだろ。貸して」
 
灰谷からチャリのカギをぶん取る。
 
「……オマエも行く?」
 
灰谷の気づかい。
気づかい?オレに?
 
「行かねえよ。明日美ちゃんによろしく」
「ああ」
「いってらっしゃ~い。今度佐藤くんにも紹介してね。カワイイお友達もついでに紹介してね」
 
「オレもデートだ。行くわ~」
中田が涼しい顔で言う。
 
「中田、オマエもか。どうするよ真島、オレら」
「これはホモるしかねえな」
「やめろ。ケツの穴をつくな」
 
「じゃ、ワリぃ。お先ぃ~」
 
中田と灰谷が行く。
灰谷は教室を出る時にチラリとオレの顔を見る。
 
ああ、なんで見るんだよ。
だから、“おっぱいボイーン乳吸ってチュッチュッ”とやってやる。
灰谷が中指を突き上げる。
これもまたお決まりのパターンになるかもな。
 
「真島~。オレさびしぃ~」
二人の姿が見えなくなると佐藤が言う。
 
「バイト代入ったからマックならオゴってやる」
「ホント?やった~。アプリのクーポンに何あったっけ?ビッグマックLセット食っていい?」
 
マックでテンションマックス。
佐藤、ういやつ。
 
「いいよ」
「でも、ケツは掘らせねえよ」
「おう!」
「真島、オレを愛さないで」
「愛さない愛さない」
「それもどうかと思うけど。少しは愛せよ~」
 
そう、オレには灰谷だけじゃない。
慣れていけばいい。
たぶん大丈夫。
オレはやって行ける。
 
……行けるはず。
 
 
「なあ中田」
「ん~?」
 
同じく駅で待ち合わせだという中田と歩きながら灰谷は言った。
 
「真島すこしヘンじゃねえ」
「ん~?そっかぁ?そうでもないだろ」
 
真島の浮かない表情が、灰谷にはどうにも引っかかっていた。
 
「……やっぱ高梨さんのこと好きなのかな」
「さあねえ、オレは真島じゃねえからわかんねえな。聞いてみたら」
「聞いた」
「なんて?」
「おっぱいは、なくていいって」
「ハハッ。んじゃ、そうなんじゃねえの」
「ん~」
 
ひょうひょうと軽口を叩いていたように見えるが、あれは一種の真島のポーズなのだということが長い付き合いの灰谷にはわかっていた。
 
「真島がそう言ったんなら、そう思ってくれって事だろ。それでいんじゃね」
「ん~。あいつな~肝心なこと結構言わなかったりするからな」
「つうか仮にその高梨さんとやらを真島が好きだったとしてもオマエのほうが大事ってことだろ」
「は?」
「だから、言わねえんじゃないの」
「……」
 
「ほら、そんな顔すんな」
「どんな顔だよ」
「なんかしまったなあーみたいな顔」
「オレ、そんな顔してる?」
「ああ。真島と気まづくなんのはなあ~みたいな」
「う~ん」
「図星か!まあオマエらマジハイちょとベッタリすぎるから、ここらで、よその風入れてみろ」
 
中田は灰谷の肩をポンポンと叩いた。
 
「よその風?」
「女っつう世俗の風だよ」
 
そんなもん、なくてもいいような気がする――と灰谷はチラリと思った。
 
 
 
 
 
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