ナツノヒカリ 67
断捨離を続けるオレのそばでマンガの山と山の間にデカイカラダをキレイにすっぽり収めて、灰谷はスナック菓子をつまみながらテレビを見ている。
「アハハ。日村ウケる」
バラエティ番組で笑う。
「ハハハハハ。ヒム子最高」
「灰谷、オマエうるさい」
明日美ちゃんとのことは、もういいのかよ。
意外とあっさりしてるんだなあ。
オレをあれだけ悩ませといて……って違うか。
それにしも、あ~片付かねえ。
「真島、シャワー借りていい?つうか着替え貸して」
「そっちの、ときめき山」
残す方の服の山を指す。
「ときめかないほうじゃなくていいの」
「ときめかない山のは明日捨てるから。ときめかないモノを残さない」
「ふ~ん。デカ目のデカ目のっと」
ときめき山から灰谷が服を漁る。
「信 ~母さんもう寝るけど……」
母ちゃんが顔を出した。
「灰谷くん、シャワー?」
「はい。お借りします」
「どうぞ~。っていうかどこに寝るのあんたたち」
昼間はかろうじてスペースのあったベッドも今やモノで占領されていた。
「う~」
「テキトーにどっかで」
「でもねえ、これじゃあ……客間に布団敷く?」
普段ほとんど使われない客間に客用の布団が二組敷かれた。
パッと見、まるで新婚初夜だ。
オレのはいいよって言ったのだが母ちゃんがはりきって、敷いてしまった。
だって……こんなに近くじゃドキドキして眠れねえし。多分。
*
「オマエまだやんの?」
シャワーを浴びてきた灰谷はベッドの縁に腰かけて濡れた髪をタオルでゴシゴシと拭く。
オレのときめきTシャツに少し丈の足りないジャージ姿。
熱のこもったカラダ。
うちのボディーソープとシャンプーの匂い。
清潔な肌。
うちのボディーソープとシャンプーの匂い。
清潔な肌。
その姿はひどく無防備でオレを落ち着かない気持ちにさせる。
なんでだろう。こんなの何度も見てるはずなのに。
なんだか見ていられない。
「オレ、もうちょっと片付けるから。灰谷、先寝てろよ」
「いや、オマエが寝るまで起きてるって。つうか手伝うって言ってんじゃん」
「手伝って貰うことがねえよ。オレのときめきはオレにしか測れないんだから」
「まあな」
「じゃあ、明日の朝、早起きしてゴミ捨てに付き合ってくれよ」
「おう。じゃあ先に寝るかな。お前もテキトーにしろよ」
「うん」
「んじゃ、おやすみ」
灰谷がオレの肩をポンと叩き、荷物を飛び越えて出て行った。
灰谷の触れたところが、熱を持ってジンジンする。
そう、オレのときめきはオレにしか測れない。
ときめき~。
はあ~。
オレってオレって……。
ダメだ。
断捨離断捨離。
いる。いらない。いる。いらない。
ときめく。ときめかない。
一日やってるとなんだかワケわかんなくなる。
なんもかんもいらない気になって来る。
何もかも捨てたいような気に……。
クローゼットの奥からは自分でもしまったことを忘れていたモノが次々と出てきた。
中学の時の教科書。
はじめて買ってもらったケータイ。
小学生の時のオモチャ。
……は、まあいいほうで。
他にはもう、なんで取っておいたんだってガラクタ。
これって、忘れてるってことは、ない事と同じじゃね?
つまり必要ないって事だろ。
新たなモノの見方を発見したオレはざっと目を通してゴミ袋に突っこむ事にした。
それにしても……オレ、さっき、灰谷に何言おうとした?
灰谷が明日美ちゃんと別れたって聞いて。
もう、限界かな。
いっそのこと告ってフラレて終わりにしたい気持ちもある。
このままだったら笑い話に……なんねえか。
いや、逆にオレがラクになるだけだろ。
灰谷に自分の気持ちだけ押しつけて。
いや、灰谷ならキッパリ、カタつけてくれるかも。
「真島、ハッキリ言う。オマエとはそういうの、ない。でも、今までどおり友達な」……とかね。
はあ~。
わかんねえ。なんかもうわかんねえ。
ふ~。
ガサガサガサガサ。
オレは自分の始末のつかない気持ちを詰めこむようにゴミ袋にモノを詰めた。
*
ガタガタバタン。
真島が片付けをする音が聞こえていた。
このウチの客間は初めてかもしれないと思いながら、灰谷は頭の下に手を組んで天井を眺める。
明日美と別れた。
本当は自分の方から別れを切り出さなければいけなかったのに、結果、明日美に言わせてしまった。
サイテーだなオレ。
そして、別れたその足で真島に会いに来た。
まだ数時間しかたってないのに、もうなんだか終わったことみたいな気がしている。
オレって本当に薄情だな。
なんだっけ。真島が昼間、言ってたやつ。
『自分にとって一番大事なものが何かを知るには、今大事だと思ってるものを片っ端から捨ててみること』……だっけ。
あいつも色々あったから、だから断捨離なんて始めたんだろうな。
大事なものか……大事なものを片っ端から……オレなら何を捨てる?
そしたら何が残る?
コンビニからの帰り道で、真島は何を言おうとしたんだろうか。
まぶしいあの夏。
あの時も、真島はオレに何か言いかけた。
そして、退院してオレがなんでも話せよって言った日も。
同じ顔をしていた気がする。
『灰谷……オレ……オレ』
あれは……。
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