ナツノヒカリ 68
「とりあえず、こんなもんかな」
片付けも一段落ついたので客間をのぞきこむ。
灰谷、寝てる。
電気点けっぱなしで……。
布団の片方で大の字になって寝ている灰谷。
あ~あ。布団から足はみ出してるし。
無防備に眠る姿。
長い手足。
上下する胸。
繰り返される呼吸。
オレは灰谷の横にしゃがみこんだ。
閉じたまぶた。
薄く閉じられた唇。
のど仏。
灰谷。
灰谷。
灰谷。
胸の中で名前をつぶやいた。
キスしたい。
オマエの口の中に舌を突っこみたい。
ドロドロにかき回してオマエの舌を吸いたい。
のど仏にキスしたい。
オマエの胸に手を這わせたい。
オマエの腹にキスしたい。
もっとその下も。
オマエの性器を愛撫したい。
口に入れたい。
舐めしゃぶって、オマエの出す声を聞きたい。
オレの中でみちみちになってはじけるのを全部飲みたい。
その手で長い指でオレを撫でてほしい。
オレの体中。どこもかしこも。
そして……オレの中に挿れてほしい。
オマエとつながりたい。
オマエをオレのカラダの中で感じたい。
オマエで満たされたい。
オマエでイキたい。
欲望が膨れ上がった。
ダメだ。
オレは部屋に戻る。
止まらない。
オレは自分の下をこすり上げる。
ダメだ。足りない。
ベッド下に隠していたローションを取り出す。
城島さんとするようになってから、時々自分でも使うようになっていた。
尻にこすりつけて指を入れる。
「ハッ……ハッ……灰……谷……んっ……んっ……」
ダメだ。声が出る。枕に顔を押しつける。
「んッ……フッ……」
前をこすって後ろを抜き差しする。
「灰谷……はあ……灰谷……灰谷……」
止まらない。
隣りの部屋に灰谷がいる。
ヤバイ。マズイ。
思うのに止まらない。
「んあッ……んあッ……ん……ん……ああっ……」
一人でサカってオレはイッた。
なんなのオレ。
サイテーか。
明日美ちゃんと別れたって聞いてすぐこれか。
サカッてる猿だ。
もう。もう。もう。も~う。
「オレなんか……消えちまえばいいのに……」
自己嫌悪で死にたくなった。
*
灰谷はノドの乾きを覚えて目を覚ました。
水……あ~真島の部屋か。
隣りの布団に真島の姿はなかった。
まだやってるのかなあいつ。
ついでに真島に声をかけようと思った。
ドアを開けようとして、灰谷は聞いた。
「ん……んっ……んっ……」
くぐもるような湿った声。
真島が……泣いてる?
いや……これは……というより……。
真島が一人でしてる?
結衣ちゃんにしゃぶられていた時の真島の姿が蘇る。
こりゃあまた……。
灰谷がそっと引き返そうと思った時だった。
「……はい……たに…」
え?
一瞬耳を疑った。
いま、なんて言った?
灰谷は耳をすます。
口を何かに押しつけているようでハッキリとは聞こえない。
でも……聞こえた。
でも……聞こえた。
『灰……谷……灰谷……灰谷……』
自分の名前だった。
真島がオレの名前呼びながらしてる?
それって?
え?え?
頭が混乱した灰谷は客間に戻り、布団に潜りこんだ。
心臓がバクバクしていた。
真島、オマエ、もしかしてオレのこと……。
いやいや違うだろ?
でも。
灰谷の中ですべての事がつながった気がした。
あの暑い夏の坂道の日から、さっきまで。
真島が何を思い、何を悩んできたのか。
明日美から告白されたと言った時。
『オレ、好きなやつと付き合いたい。断る理由がないとかヤなんだよな』
結衣ちゃんと付き合い始めた時。
『好きなやつと付き合えねえんだからしょうがないだろ』
城島との事も。
『付き合ってるっていうんじゃなくて、本当にセフレっつうか。カラダだけっつうか』
そうなのか?
そう……だよな?
あの夏の日も。
さっきも。
なんで気がつかなかったんだろうオレ。
真島、オマエの目はいつだってオレを見ていたのに。
で?オレはどうするんだ。
それ知ってオレはどうするんだ。
灰谷は布団の中でゴロゴロと転げ回った。
……なんだこれ。
……なんだこれ。
*
「灰谷、灰谷って」
「んあ?」
灰谷が目を開けると真島が見下ろしていた。
「うわっ」
「いつまで寝てんだよオマエ。ゴミ捨てるから手伝ってくれよ」
オレ……いつの間にか寝てた?
つうか真島!
「なんだよ。手伝ってくれるって言ったろ。いっぱいあんだから」
「……おお」
「とりあえずヨダレぬぐって顔洗ってこいよ。捨て終わったら母ちゃんが朝ごはん用意してっから」
「……」
「灰谷、起きたか」
真島が顔を近づけた。
「うわっ。起きたって」
「なんだよオマエ。寝ぼけてんの?回収車来ちまうから急げよ」
「おお」
あれ?昨日のあれって……夢?いや、夢じゃないだろう。
『灰谷……んっ……灰谷……』
真島の声を思い出した。
オレ……。
「灰谷ぃ~急げ~」
「わかったって」
*
「うお~」
何往復かして、ゴミを捨て終わると、真島の部屋は見違えるようにスッキリしていた。
というよりモノ自体がかなり少なくなっていた。
「オマエ、いくらなんでも捨てすぎじゃねえ?」
「かもね。なんかもう一日やってたら基準がわかんなくなって。一旦捨てちまえと思ってさ。いるものはまた買えばいいし。ときめかないものは捨てる」
「ふうん。そっか」
まるでリセットでもするみたいだな、と灰谷は思った。
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