空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 27

 

城島さんと過ごしても泊まることはなく、必ず家に帰った。
 
外泊するならどこに泊まるのか、家に連絡しなきゃならなかったし。
中田あたりに頼めば全然大丈夫そうだったけど。
 
それよりも、バイトバイトで断るオレにシビレを切らせたのか、母ちゃんの手料理が恋しくなったのか、ここのところ、デートやバイト帰りに灰谷が押しかけて来るようになった。
バイトのシフトがいっしょの前の日なんかは特に。
迎えに来るの、めんどくせーとか言って。
 
そして泊まっていく。
まるで夏休み前みたいに。
嬉しくないと言えばウソになる。
 
灰谷の訪問を母ちゃんは喜んで夜食だと言ってはあれこれ作って食べさせようとする。
その日も夜食攻撃が落ち着いて、オレの部屋でゲームなんかして、で、明日もバイトだしもう寝ようぜってことになり……。
 
 
毎回「一緒のベッドでいいぜ」と、灰谷は言うけれど。
 
「灰谷デカくて窮屈だから」とベッドの脇に布団を敷いた。
 
灰谷がよくても、こっちが困る。
 
 
「なんか真島ともあんま遊んでねえな~」
 
布団の上で長い手足を伸ばして灰谷が言う。
 
「だからってあんま遅くに押しかけて来んなよ」
「そうでもしねえと遊べねえじゃん」
「アスミルクと遊べ」
アスミルクやめろ」
 
灰谷はオレたちが明日美ちゃんの事をアスミルクと言うと必ず律儀にツッコミを入れる。
 
つうか会ってるよ、明日美ちゃんとは」
 
そうか。会ってるんだ。
……つうか、いま灰谷、明日美ちゃんって言ったか?
高梨さんって言ってたのに?
まあオレは明日美ちゃんって呼んでたけど。
でも……呼び名が変わるって……。
 
「はあ~」
「なんだよ。なんのため息だよそれ」
 
あ、モレちゃってたか。
 
「なんでもねえよ。ところでその後、どうなのストーカーもどき」
「ん、今のところ大丈夫みたい。ただ明日美ちゃんはな。昼間はいいけど夜が。まだ一人になるのがちょっと怖いみたいだな」
「ふ~ん。カワイイと大変だよな」
「ん~。つうかオマエは?」
「何?」
「バイト少しは余裕出てきただろ。多田さんも帰ってきたし。それなのにいなかったり、帰るの遅かったりしてんじゃん」
「ああ~」
「今日だってそうじゃねえの。オレ、来る前にこれでもちゃんと電話したんだぜ。電源切れてるし。デートだろ?」
「ちげえよ。充電切れただけだし」
 
城島さんと会ってる時はスマホの電源を落とすようにしている。
オレだけが誰かとつながっているのが、何もかも捨てた城島さんに悪いような気がして。
 
 
「んじゃ、どこ行ってんだよ」
「どこだっていいだろ。オレの母ちゃんか」
「節子じゃねえわ」
「知ってるわ」
「怪しいなオマエ」
「怪しくねえわ」
「……まあいいけどさ」
 
 
少しスネた様な声。
ヤキモチ?……じゃねえか。
こうやってうちにまた来るようになったのも、ただ単に明日美ちゃんと落ち着いてきたって事だろうしな。
 
 
灰谷とオレの部屋で二人きり。
手を伸ばせば届くところにいる。
 
落ち着かねえ。
 
 
♪~
灰谷のスマホから通知音。
 
「何?明日美ちゃん?」
「ん~」
「毎日来んの?おやすみLINE」
「ん~まあ」
「おはようも?」
「ん~。めんどくせえけどな」
 
おはようからおやすみまで。
一日の始まりと一日の終りに言葉を交わす。
 
いいな。
なんか……いいな。
恋人同士っていいな。
はあ~。
 
遠いなあ。
カラダの距離は近いのに遠いよ。
 
 
 
 
「なあ昔さ~中学生の時、遠出したことあったじゃん」
「あ~?」
 
灰谷が急に話し始めた。
 
「チャリでどこまで遠くまで行けるか行ってみようって。海行こうって」
「ああ……そんなこともあったな」
「あれ、夏だったよな」
 
 
 
そう夏だった。
ミンミンと蝉しぐれの降る、暑い暑い夏だった。
夏の時間を持て余したオレたちはチャリで走り出した。
 
焼けつくようなアスファルト。車の排気ガス
照り返す日差しの中、ひたすら海を目指して自転車を漕いだ。
よく熱中症で倒れなかったもんだ。
 
 
「んでさ、海なんていつまでたっても見えてこなくて、結局はじめての商店街ブラブラしてさ」
「そうそう」
「腹減った~って吉牛食って」
「おう。マックじゃなくて吉牛のカウンターで食べてみようぜっつって」
「卵もつけちゃおうぜ、みたいな」
「そうそう」
 
 
次々と記憶が蘇ってきた。
 
「で、ゲーセンで高校生にカツアゲされそうになったじゃん」
ああ。あれはビビった。今だったら灰谷の方がデカイからなんてことないんだろうけど。中坊にはさ~」
「オレらすんげえ速かったよな、逃げ足」
「おお。心臓バクバク。で、逃げ切って笑ったよな」
「ああ。あれなんなの。なんか爆笑したな、二人で」
「おう。恐怖も度をこえるとウケるのな」
「あったあった」
 
オレたちは思い出して笑った。
 
「あのあとカツアゲ高校生ず~っとゲーセンにいるからチャリに近づけなくて全然帰れなかったな」
「おう。やっといなくなったと思ったらもう夕方、つうか夜で。帰り道でケンカしたじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ灰谷すんげえ機嫌悪くなってさ」
「だったかな~。オレの中では楽しいで終わってんだけど」
「記憶力ねえなあ」
「なんかさ、こないだ自転車漕いでたら急に思い出してさ。あの頃は楽しかったな~ってさ」
「ああ、だな~」
 
 
あの時はあれが永遠に続くもんだと、いや、そんなことさえ考えもしなかった。
未来も過去もなくて「今」しかなかった。
「今」を生きていた。
 
「今」を生きているはずのオレは、いつの間にか、過去を懐かしむことを知り、起こりうるかもしれない未来を想像して怖がっている。
いつから「今」以外に縛られるようになったんだろう。
 
 
 
城島さんの姿が浮かんだ。
過去を断ち切って「今」を生きる。
一番大事なものだけをつかんで。
 
いや、ある意味一番過去に縛られているとも言えるか?
縛られたいのかもしれない。
 
 
 
「明日美ちゃん、どうよ」
 
オレは一番聞きたかったことを灰谷にストレートに聞いてみた。
 
「どうって?」
「いや、彼女ってどうかなと思ってさ」
「めずらしいな、真島がそんなこと聞くの」
「で、どうよ」
 
灰谷は腕を組んで天井を見つめた。
 
「ん~カワイイよ。なんか一生懸命で。オレといると嬉しそうだし」
「で、灰谷オマエは、どうよ」
「オレ?んあ~。ん~、まあ、そうだな、ぶっちゃけ時々めんどくせえ。女って何考えてるかよくわかんねえし。それが面白いのかもしんないけど。中田とかよくやってるよ。中学からだろ」
 
オレが聞きたいのはそんなことじゃない。
 
 
「で……あっちはどうよ」
「あっち?」
「セックス」
「ああ……いいよ。慣れてきたし。気持いいし」
 
やっぱヤってんだ。まあ当然だな。
 
「ふうん」
「オマエは?本当はいるんだろ」
 
なんでわかるんだ。
 
「正直に言えよ。オレも言ったんだから」
「……いる」
「どうよ」
「いいよ。あっちがうまいし」
「年上?」
「うん」
「どこで知り合ったんだよ」
「コンビニ」
「バイト先の?」
「いや、ちがう」
「ナンパか?」
「みたいなもん?」
「もしかしてオマエがしたの?」
「まさか。されたようなもん……かな」
「ふうん」
 
オレたちはしばらく黙っていた。
お互いにいろいろ想像していたんだろう。
 
 
「いい女?」
 
しばらくしてポツリと灰谷が言った。
 
 
「うん。やさしい人だよ」
 
オレは答えた。
 
……女じゃないけど。
 
 
「へえ~。オマエとこういう話したの初めてじゃねえ」
「そうだな」
「今度オレに見せろよ、その人」
「やだ」
「なんでだよ」
「見せるようなもんじゃないし」
「なんだよその言い方。相手に失礼じゃん」
「いや、その……セフレみたいなもんだから」
「……そっか」
 
灰谷はしばらく黙っていた。
 
「……つうかオマエ、本当に好きなやつとしか付き合わないとか言ってなかったっけ」
「付き合いたいって言ったの。付き合えないんだからしょうがねえだろ」
「何、真島、オマエ好きなやつ、いんの?」
 
 
 
 
 
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