空々と漠々 くうくうとばくばく

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夢で逢えたら 6

 

手をつないで元来た道を帰る。
 
「あ~これで真島とやりたかったこといっぱいできたな」
「やりたかったことってなんだよ」
 
「手をつないで散歩して」
 
つないだ手をブンブンと大きく振った。
 
「イチャイチャして」
 
オレの手にチュッチュとキスをした。
 
「教室でキスしてケンカして」
 
鼻をグイッとつままれた。
 
「仲直りした」
 
チュッと唇にキスをした。
 
 
 
「ズルい」
「え?」
「オレもしたいことあったのに」
「なんだよ」
「……」
「言えよ」
「あ…つうか、灰谷オマエ、オレとの約束果たしてないからな」
「約束?」
「うち、帰ろう」
「え?」
「帰ろう」
 
 
 
部屋につくとオレは布団の上に灰谷を押し倒した。
 
「?」
「オレの好きにさせろ」
「へ?いいぜ」
「え?いいの」
「前にも言ったろ。来いよ。好きにしろ」
 
灰谷はカラダの力を抜いて手を広げた。
 
「おう」
 
ん~このためらいのなさ、ちょっとムカつく。
そうだ…。
 
「灰谷、多少ムチャしてもいいよな」
「多分…ってなんだよ、ムチャって」
 
オレはニヤリとした。
 
「灰谷。オレに挿れさせて」
「お~い。それは待て」
「好きにしていいんだろ」
「いいけど、それはちょっと…お~い」
 
オレは灰谷のジーンズのチャックに手をかけた。
 
「やめろ真島、それはダメだろ」
 
灰谷が抵抗する。
 
「なんだよ。オレにあれだけ突っこんどいてそれはないだろ」
「いや、待て真島。ストップ」
「はいはいおとなしくしなさいね」
「真島~」
 
必死な灰谷の顔。
オレは吹き出した。
 
「冗談だって灰谷。ハハッ」
「なんだオマエびっくりさせんなよ~」
「ハハハハハ。なんだよ灰谷そんなにイヤかよ。ハハハ」
 
笑いが止まらなかった。
灰谷はそんなオレの顔を見て本当にうれしそうに微笑んだ。
 
「ん?なんだよ」
「よかった。真島が笑った。いつもそうやって笑っててくれよ」
「うん」
 
「真島、セックスしようぜ」
「うん」
「テレねえの?」
「いまさら」
 
オレは灰谷の首を噛んだ。
 
「イテっ」
「オレにばっかつけたからな。今度はオレがつける」
 
灰谷の首筋を吸った。
 
「真島」
 
灰谷がここにくれというように自分の唇を指さした。
 
「灰谷」
 
オレは舌先で灰谷の上唇のカタチを筆で描くようにゆっくりとなぞった。
そしてジラすように下唇も。
 
「エロっ。どこで覚えたんだよそんなの」
「灰谷の唇がエロいからだよ」
「エロいの唇だけ?」
「ううん。どこもかしこも」
 
 
わかってる。
これは夢だ。
オレが自分自身で見せている夢だ。
そこに灰谷が来てくれたんだ。
 
オレがふがいないから。
オレが止まったままでいるから。
オレが悲しみに酔っているから。
 
 
オレは幸せだ。
こんなに灰谷に愛されて、こんなに灰谷を愛せて。
 
 
「灰谷っ…」
「うん?」
「オレ…オマエと出会えてよかった…本当によかった」
「オレもだ…真島…オレもだ」
 
 
口づけをかわす。カラダを合わせる。
 
「真島…真島…真島…」
「灰谷…灰谷…灰谷…」
 
カラダの輪郭は溶けて流れて一つになった。
 
愛しい感情だけがそこにはあった。
 
 
 
灰谷がオレを見つめている。
 
行くんだろう。
 
「灰谷。ありがとう。会いに来てくれて」
「おう」
「オレ、生きるから。おいしいもの食べて、キレイなもの見て、人とつながって、心を震わせて生きてくから。カワイイおじいちゃんのオレを待ってろ」
「おう!」
 
灰谷は笑った。
オレの大好きな灰谷の笑顔だった。
 
そして消えた。
月明かりの中に消えた。
 
 
 
次に目を覚ましたらもう朝だった。
 
オレは裸で一人眠っていた。
 
シャワーを浴びようとバスルームに入ると鏡の中に映ったオレの首筋にピンクのうっ血した痕。
 
オレは思わず微笑んでしまう。
 
灰谷のやつ……。
 
 
シャワーを浴びてさっぱりしたら腹がグーッと鳴った。
猛烈な空腹感がした。
 
冷蔵庫を開けると、プラスチックのケースに入った真っ赤なプチトマトが目に止まった。
 
オレが買うわけはないから、中田が入れておいてくれたんだろう。
 
ヘタを取って一つ口の中に放り込む。
歯をたてると薄い皮がプチッとはじけて青く甘い味が広がった。
 
美味しいな、心からそう思った。
 
久しぶりに食べ物を美味しいと感じた。
 
 
灰谷、美味しいよ。
 
 
「オレ、トマト食えないんだよ、知ってるだろ真島」
 
 
そう言う灰谷の声が聞こえた気がしてオレは微笑んだ。
 
 
 
~ 終 ~
 
 
 

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