夢で逢えたら 1
『真島…真島…』
声がする。
この声は灰谷?
そんなはずない。
灰谷はもうこの世にいない。
『真島…』
耳元でささやくこの声は……。
『起きろ真島。キスするぞ』
目を開けたオレの前にいたのは…!
「よお久しぶりだな」
オレは自分の目が信じられない。
「なんだよ。せっかく会いに来たのに。喜んでくれないのか」
そのテレたような甘えたような顔は…。
「灰谷!」
オレは灰谷の首に飛びついた。
飛びつけた。
押し倒した。
「イテテ……お前、アセりすぎ」
灰谷がここにいる……。
死んだはずの灰谷が……。
顔を両手ではさんで見つめる。
濃い眉。一重で切れ長の目。尖って通った鼻。薄い唇。
そしてオレを見つめる優しい目。
灰谷だ。本当に灰谷だ。
「真島」
灰谷が微笑んだ。
オレは灰谷の唇を塞いだ。
チュッチュッと小さくキスをして灰谷の唇の感触を味わう。
いる。生きてる。ここにいる。
「真島、口開けろって教えただろ」
本当に灰谷だ!
「灰谷」
唇をくっつけて口を少し開けた。
灰谷の舌が入ってくる。
ぬるりてろり。
灰谷の舌がオレの舌を愛撫する。
うっとりとオレはそれを受け入れる。
「ふうぅ…ん…ん…」
口から甘い声がモレる。
ああ灰谷。灰谷。
自分からも絡めていく。
歯をたてて舌先を甘がみする。
厚さ。弾力。
そして灰谷の味。
「ん…んっ…んっ…んぁっ…」
自分からモレる声に交じる灰谷の低くて甘い声。
灰谷の腕がオレのカラダを抱きしめる。
その力強さ。体温。
合わせた胸から伝わる心臓の鼓動。
ゴロリとカラダを返され、下になる。
灰谷のカラダの重さ。
合わされた手のぬくもり。
灰谷。灰谷。灰谷。
口の中がトロトロに溶けていく。
長い長いキスをして唇が離れると息が上がった。
「なんて顔してんだ。ヤッちまうぞ」
目を開けて見る灰谷の顔はカッコよかった。
「灰谷。灰谷」
灰谷の顔がにじんだ。
「灰谷。灰谷。灰谷」
オレは灰谷のカラダに足をからめてガシッとしがみつく。
「なんだよ真島。泣くなよ」
灰谷はぎゅっと抱きしめてまるであやすようにオレのカラダを揺する。
「会いたかった。会いたかったよ」
「お~い、かわいすぎるだろ」
「う~」
涙が止まらない。
「こら、泣くな」
「止まらないよ」
「子供か!」
「んん~」
「女子か!」
「違うわ!」
「真島、よく顔を見せてくれ」
灰谷の手がオレの顔を包みこんだ。
灰谷だった。
まぎれもなく灰谷だった。
灰谷はニッと笑って言った。
「お前、泣き顔ブサイク」
両頬をギュムっとつままれた。
「はいはひほへいはほうは(灰谷のせいだろうが)」
「何言ってっかわかんねえ。おら、涙ふけ」
涙をぬぐってくれた手をオレはつかむ。
つかめた。
手の平にチュッチュッとキスをする。
できた。
「カワイイことするな」
オレたちはしばらく見つめあう。
「灰谷」
「おう」
「おかえり」
「…ただいま」
ギュッと抱き合った。
灰谷のカラダ。
灰谷の体温。
灰谷のニオイ。
灰谷の体温。
灰谷のニオイ。
オレは胸いっぱいに吸いこんだ。
「髪、伸びたな」
灰谷がオレの前髪を引っ張る。
「切ってないから」
「なんでだよ。切れ。ちょっと伸びすぎだろ」
灰谷がオレの前髪をもて遊ぶ。
切れないよ。だって灰谷が触ってくれた髪だもん。
「部屋、ずいぶんスッキリしたな」
灰谷が言う。
「え?うん」
もともと物は少なかったけど、今あるのは本当に必要最低限。
捨てる予定の冷蔵庫を除けば大きな家具や押入れの荷物は運びだしてしまったし、布団に制服、カバン、教科書、少しの衣類がダンボールに入っているくらいだ。
「灰谷、あのなオレ…」
灰谷はオレの前髪をつかんで持ち上げると額にキスをした。
な?何?恥ずかしい…。
チュッチュッと頬にもキスをふらせる。
「こうやってイチャイチャしてんのもいいけど…」
と言って起き上がるとオレの脇の下に手を入れてカラダを起こさせた。
「真島、デートしようぜ」
「え?」
「したことないからさ。しようぜ」
「うん!」
灰谷が左手を差し出した。
「え?」
これは…。
右手を灰谷の手のひらに乗せた。
灰谷がオレの手をギュッと握って笑い出す。
「オマエ~だからお手かっての。手をつなぎたいんだけどオレ」
「え?ああ…」
つい条件反射でグーを出してしまった。
「やっぱカワイイな、オマエ」
「!」
灰谷のキラキラ笑う顔にドキドキする。
カワイイ…オレが?さっきからカワイイ連発。
灰谷のツボ、おかしいと思う。
つうか恥ずかしい。
「んなことねえよ」
「テレんな。ほら」
指と指をからめて恋人つなぎをする。
うわ~。手、つないでる~。
「行くぞ」
オレたちは外に出る。