空々と漠々 くうくうとばくばく

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〈はじめて〉の話。 19

 

その日の放課後。
またまた家まで送っていくという中田と、なんか食ってこうぜという佐藤の誘いをふり切り、一人、部屋に帰る。
 
「ただいま~」
 
オレは言う。
空っぽの部屋に向かって。
 
あちぃ。
エアコンを入れて、シャツの前ボタンをゆるめ、首に貼っていた湿布を取ってゴミ箱へ投げ込み、冷蔵庫を開ける。
あ!残り一本だ。
 
ベッドに腰掛けてゴクゴクと半分くらい一気に飲み干す。
ぷは~。
 
部屋は、シンとしていた。
 
チョビチョビと残りを飲む。
プシュプシュシュワー。プシュプシュシュワー。
口の中で炭酸がはじける。
 
ゆっくり時間をかけて飲み終わると、途端に手持ちぶさたになった。
 
何しよう。
オレ、いままでこの時間、何してたっけ。
……わからない。
 
モヤリとしたものが胸の中にじわじわと広がっていく。
 
 
灰谷が…灰に…今頃は…もう…。
涙がじんわりとこみ上げてきた。
ダメだ!
 
オレは立ち上がる。
 
ペプシ。そうだペプシ買いに行こう!
シークレット、もう一回ミルハニのシークレット出そう。
それで灰谷にやろう。
そうだ、買いに行こう。
 
Tシャツとジーンズに着替えてサイフだけ引っつかみ、近くのコンビニへ向かう。
 
ペプシペプシ。ミルハニミルハニ。シークレットシークレット。赤TバックTバック
呪文のように頭の中で唱える。他のことを考えないように。
 
カゴを手にして冷蔵庫からガンガン、ペプシのペットボトルを投げ入れる。
あるだけ全部。
 
「すいません。このオマケ付きのペプシ、まだ在庫ありますか」
 
レジで店員に尋ねる。
在庫を調べてくれたら、出ているもので終わりとのことだった。
 
「じゃあ、これ、全部ください」
「ありがとうございます」
 
会計をすませて外に出ようとしたら店員の視線を感じる。
ああ。首の痕か。
 
かなりの重さになったギチギチのビニール袋を両手にさげて外へ出た時に気がついた。
店の前のガードレールが、ひしゃげていて、その近くに花束やらお菓子やら、それこそペプシやらが供えられていたこと。
 
オレは立ちつくす。
ここって灰谷が事故起こしたとこじゃねえの?
 
ガードレールのヘコミ方はハンパなく、衝突の激しさを物語っていた。
 
でも、なんでだろう。
灰谷の家は確か、うちとは反対側。
あっちにはコンビニだってちゃんとある。
なぜあの日、灰谷はここで事故にあったのか。
深夜。
しかも始業式の前日だっていうのに。
 
あっちから走ってきて……え?もしかして、オレに会いに来た?
 
アパートの前に原付バイクを停めて、オレの住む部屋のあかりを見つめている灰谷の姿が浮かぶ。
まさかね。まさか…。
 
ひたひたと、灰谷が死んだという現実が追いかけてくる。
オレは逃げるように部屋に戻った。
 
 
 

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