空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 45

 

カラオケボックスに結衣ちゃんと二人。
シブる結衣ちゃんを引っ張って連れてきた。
歌ってりゃ間が持つし、オレ、カラオケはキライじゃない。
 
オンチだから歌えないという結衣ちゃんは、「真島くんの歌聞きたいな」と言う。
 
「じゃあまずはオレが一曲歌ってみよっか」
「うん」
「何がいいかな~」
「真島くんがよく歌ってるの聞かせて」
「よく歌ってるの~?」
 
 
う~ん。何がいいかな。
 
母の節子はミスチルが好きで子供の頃から子守唄みたいに聞かされてきた。
 
 
あ、「しるし」か。
この曲、大きくなって何気なく耳に入ってきた歌詞に衝撃をうけた。
この歌はホントに歌詞がヤバイ。
特に灰谷への思いを自覚してからはヤバイ。
 
って、そうじゃなくて。
 
なんか早くてノリがいいやつ。
よし、これだ。
 
 
「じゃあミスチルの『シーソーゲーム』」
「あっ、その曲知ってる」
 
 
♪愛想なしの君が笑った そんな単純なことで遂に 肝心な物が何かって気付く~
 
久々だったけど声はちゃんと出た。
オレは頭を空っぽにしてノリノリで歌った。
カラオケは酔ったもん勝ち!
 
 
♪勇敢な戦士みたいに愛したいな FU~
 
 
終わると結衣ちゃんがパチパチと拍手をした。
 
 
「真島くん歌うま~い。ノリノリ~」
「ほぼノリでカバーするなオレは」
「そんなことないよ。歌もちゃんとうまかったよ」
「普通っしょ。じゃあ結衣ちゃんは~何歌う?」
「ん~もうちょっと真島くんの歌聞きたい」
「そ?」
 
あんまりムリに歌わせてもな。
オレはテキトーに曲を突っこんで何曲か歌った。
 
結衣ちゃんは本当に嬉しそうに聞いているが、自分の歌う曲を選ばない。
 
 
「結衣ちゃん、そろそろどう?」
 
結衣ちゃんはモジモジした。
 
「真島くん、あたしね、本当に本当にオンチなの」
「別にいいよ。歌うのって気持よくない?」
「そうだけど」
「気にしなくていいよ。佐藤とかもムチャクチャ下手だけど気にしないで気持ちよさそうに歌ってるよ」
「う~ん。佐藤くんのレベルがわからないけど、あたしのは相当にヤバイレベルなの」
「とりあえず、1曲歌ってみ?」
「ゴメン、ちょっとお手洗い行ってくる」
 
と、出ていってしまった。
逃げたな。
 
こんだけシブるってどんななんだか逆に興味をそそる。
自分で思ってるだけで意外とそうでもないと思うんだけど。
高音が出ないとかだろきっと。
 
結衣ちゃんは中々帰ってこない。
とりあえずなんか流しとくか。
 
あ、そうだ。
 
さっき目についたミスチルの「しるし」を入れてみよう。
 
そうそうピアノから始まる。
 
♪最初からこうなることが 決まっていたみたいに
 違うテンポで刻む鼓動を互いが聞いてる
 
画面に流れる歌詞を目で追った。
うん。ほら頭から歌詞がヤバイ。
 
♪どんな言葉を選んでも どこか嘘っぽいんだ
 左脳に書いた手紙 ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる
 心の声は君に届くのかな? 沈黙の歌に乗って
 ダーリンダーリン
 
 
 
その感情は突然押し寄せた。
 
 
余計なこと考えないようにバイト目一杯入れたり、城島さんと寝たり、結衣ちゃんとデートしたり。
それなのに……。
 
一人でカラオケボックスにいる時に。
 
 
灰谷。
灰谷。
灰谷。
 
顔、見たい。
声、聞きたい。
 
灰谷!
 
なんでオマエ、今オレといないんだよ。
オレ、なんで今、灰谷といっしょにいないんだよ。
 
なんだ?この理不尽なまでの怒り。
つうか淋しさ?
 
 
はあ~。
オレは拳を握りしめて机に顔を伏せた。
 
 
オレはこれから何度、心の中でこの名前を呼ぶんだろう。
こんな思いにとらわれるんだろう。
心臓イタイ。
 
 
 
メロディーラインを強調したボーカルのない安っぽい演奏が流れ続けている。
 
曲に合わせて歌詞が頭の中で流れる。
 
あ、ここ好き。
オレはつぶやくように声を出す。
 
♪泣いたり笑ったり不安定な思いだけど
それが君と僕のしるし
 
♪ダーリンダーリン
いろんな角度から君を見てきた
共に生きれない日が来たって
どうせ愛してしまうと思うんだ
ダーリンダーリン Oh My darling
狂おしく鮮明に僕の記憶を埋めつくす
 
♪ダーリンダーリン
 
 
泣きそうになる。
 
そう。
どうあらがっても、オレは灰谷の事をどうせ好きになってしまったと思うんだ。
そして今、狂おしく鮮明にオレの記憶を埋めつくすのは灰谷の姿なんだ。
 
 
切なさに打ちのめされて、なんだか甘い気持ちすらこみ上げる。
灰谷を思う時に付きまとうその胸の痛みがオレの感じる超リアルだったりもする。
 
 
同じようなこと、城島さんが言ってなかったか?
 
 
「これはだからさ、痛みと恐怖が結びついて快感に、生きてる実感をもたらしてくれるってやつだね、きっと」。
 
 
ああ。こういうことか。
もしかしたらオレと城島さんは根っこが似ているのかもしれない。
 
二人とも究極のロマンティストで狂ったマゾヒストなのかも。
マゾ……。
いやどっちかっつうと究極のナルシストか。
 
切な痛いラブソング聞いて自分の胸をえぐって酔っ払うバカ一人。
 
曲が終わった。
 
はあ~もう……イヤんなる。
 
 
それにしても……結衣ちゃん遅いな。
帰っちゃったとか?
電話する?
 
 
その時、ガチャッとドアを開けて結衣ちゃんが帰ってきた。
 
「遅かったね」
「あたし、歌うね」
「うん」
 
結衣ちゃんは覚悟を決めたみたいな顔をしていた。
 
「何歌うの?」
「あのね、少しはマシに歌えるかなってやつにするね。YUIの『CHE.RR.Y』って曲知ってる?」
「あ、知ってる」
 
結衣ちゃんだけにYUI……ね?
 
「がんばってみる」
 
いやいや、別にがんばらなくても。
 
イントロが流れ出した。
オレは結衣ちゃんにマイクを渡す。
結衣ちゃんは不安そうな顔でマイクを受け取ると緊張した顔で両手でマイクを掴み、カラダでリズムをとる。
大きく息を吸って歌い始めた。
 
♪手のひらで震えた それが小さな勇気になっていたんだ
 
!!!
なんだこの棒読み。
 
♪絵文字は苦手だった だけど君からだったら ワクワクしちゃう
 
す……すげえ!お経?
 
♪返事はすぐにしちゃダメだって 誰かに聞いたことあるけど
 
結衣ちゃんは眉間にシワをよせて一生懸命歌っている。
顔に似合わず絶品にオンチな結衣ちゃんの歌声だった。
 
 
♪かけひきなんて できないの
 
オレは地を這うような低音と絞め殺された鳥のような高音のコンボににふつふつと、こみ上げる笑いをこらえた。
しかし、それは次の瞬間はじけとんだ。
 
 
♪好きなのよ~ah ah ah ah
 
なっ何?オットセイ?発情期のオットセイ?
 
♪恋しちゃったんだ たぶん 気づいてないでしょう?
 
オレはとうとう吹き出した。
必死で歌い続ける結衣ちゃんを尻目にオレは笑いが止まらなかった。
 
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
 
好きなのよ~ah ah ah ah
顔を真っ赤にしたオットセイがオウオウ前ヒレを叩く絵が浮かぶともうダメだ。
ダメだ。耐えられない。
痛い。腹が痛い。
ヤバイ。ツボに……ツボに入った。
 
オレの笑いが止まらないので結衣ちゃんは歌うのをやめてカラオケを切った。
 
「何~なんでそんなに笑うの~」
「いや、結衣ちゃん、すんげえわ。ハハ。腹筋痛え」
「ひど~い。これでもよくなったほうなんだけど~」
「これで?くくく。あ~腹痛え。それってマジだよね。ウケ狙いとかじゃないよね」
 
オレは涙を流す。
 
「正真正銘マジ歌いだよ~」
「すげえ。最高。ハハハハ。佐藤だってここまでひどくないよ。原曲全然ないじゃん。はじめはお経……くくく……で、最後にオットセイ出た。オウオウオウって……。痛い痛い腹痛い」
「ひど~い。だからオンチだって言ったのにぃ~歌わせたの真島くんじゃん」
 
結衣ちゃんがむくれた。
 
「ハハハハハ。悪い悪いツボに入っちゃって……。ハハハハハ」
 
気がつけば結衣ちゃんがオレを見つめていた。
ありゃ、笑いすぎたか?
 
「ごめんごめん。怒った?」
「怒った。でも、真島くんがそんなに笑ってくれて……ちょっと、嬉しい」
 
あ、ホントに嬉しそうな顔。
オレのこと、そんなに好き?
自分に向けられる好きという感情。
わかりやすいね。
そんなにわかりやすいと、つけこまれちゃうよ。
オレみたいなのに。
 
 
手を伸ばして結衣ちゃんの頬にそっと触れた。
ピクリとカラダが震えた。
オレは目を見ながら顔をゆっくりと近づける。
逃げない。
 
チュッ。ついばむようにキスをした。
チュッチュッ。
結衣ちゃんは目を閉じて身を固くしている。
 
顔を両手で挟みこむ。
小さいな。
小さい顔小さいアゴ
 
城島さんとは、男とは……違う。
なんだろうふんわりって感じ?
そう、なんだか全体に壊れそうなんだ。
 
上唇下唇全体と包みこむように口づけた。
結衣ちゃんの唇は柔らかい。
夢中で受け止めている結衣ちゃんの顔。
 
スカートの上でキュッと握られた小さな手を上から包み、口の脇を親指と中指でキュッとはさむ。
口が少し開くから舌を滑りこませた。
 
とまどって後ろに引く頭を優しく抱えこみながらカラダを引きよせる。
奥へ逃げる結衣ちゃんの舌を追いかける。
されるがままだった結衣ちゃんの舌が、次第にオレの動きに応えてくる。
腕がオレの背中に回された。
 
体温のあがったカラダ。
バクバクしている心臓の鼓動。
柔らかいカラダの感触。
 
男とは違う。
互いの力をぶつけ合うようなガッシリとした骨も筋肉も力強さもなかった。
 
そう、まるでマシュマロだ。
 
なんだっけ?
女の子はなんでできてるんだっけ?
 
授業で習ったマザーグース
 
”砂糖とスパイスとステキな何もかも
女の子って、それらでできてる”
 
 
唇を離すと結衣ちゃんがゆっくり目を開けた。
その頬は赤く染まり目がうるんでいる。
 
 
あれ?これ、もう少し押せるかな?
 
「もっとくっつける場所、行く?」
「え?」
 
結衣ちゃんは、うつ向いた。
早かったか。まあいいけど。
 
「ごめん……なんか……」
「うん、行く」
 
結衣ちゃんは小さな声で言った。
 
あらら。
 
 
 
 
 
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