空々と漠々 くうくうとばくばく

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〈はじめて〉の話。 22

 

「家まで送ってく」
 
またはじまった。中田の過保護。
 
「いいよ」
「送ってく」
「一人で帰れるって」
「いいから」
 
もう、そのオカン気質なんとかならないか。
めんどくせえ。歩き出したオレの後ろを中田がついてくる。
 
「真島、腹減らない?なんか食って帰ろうぜ」
「腹減ってない」
「オレは減った~」
 
中田の後ろをひょこひょこついて来る佐藤が言う。
 
「んじゃ、なんか甘いものでも食べるか?暑いし、アイスとか?」
「いいねえ~」
「お前に言ってねえよ、佐藤」
「なんでだよう~。オカンのクセに差別すんなよ」
「差別って。つうかオカンじゃねえし」
「それより真島、お前ちゃんとメシ食ってる?ちょっと痩せたんじゃねえ」
「痩せてねえし、食ってるよ」
 
ホントは中田が持ってきてくれる朝メシぐらいしか食ってねえけど。
不思議と食欲がわかない。
 
「なあ今日、マジックリンち、行っていい?見たいDVDあんだけど」
「ダメだよ」
「なんでさ~」
「なんでも」
「チェ」
 
三人、黙って歩く。
中田と佐藤と三人で帰るいつもの、日常。
 
 
しばらくして佐藤がポツリと言った。
 
「夏休みさあ~楽しかったよな。オレら、遊び倒したもんな」
 
そうか。そんなこともあったっけ。
一日中オレんちでゲームして、海行って、お好みやき作って食べて、それから…。
まるで遠い昔のことみたいな気がするけど。
 
「十七歳の夏って人生に一度きりじゃん。彼女はできなかったけどさ~。お前らといれて、すんげえ楽しかったわオレ」
 
人生に一度きり…。
 
「あっ、やべ、オレ今日早く帰んなきゃだった。ワリぃ、じゃ行くわ。つうか真島、お前ちゃんとメシ食えよ」
「ああ」
「それと中田はもうちょっとオレにも優しくしろ」
「するか」
「しろよ~。じゃあな、また明日~」
 
佐藤が行く。
 
人生で一度きりの十七歳の夏休み……。
佐藤は時々、ああして天然に人の心を突く。
 
 
黙々と家まで歩く。中田はついてくる。
大体中田は、なんでここんとこ毎日朝、迎えにくるんだろう。
オレの顔を見れば大丈夫かと聞くんだろう。
放課後、家まで送っていこうとするんだろう。
 
ああ…そうか。そうだっけ。
 
アパートに着いて、部屋のカギを開ける。
中田はまるで見守るようにまだ後ろにくっついてきていた。
オレはふり返り、中田の目を見て言った。
 
「中田…オレ、お前のこと今、考えらんない」
 
突然のオレの言葉に中田はビックリした顔をした。
でもすぐにこう言った。
 
「ああ。わかってる。オレのことはオマケみたいなもんだから気にすんな」
 
気にすんなって…オマケって…。そんな…忠犬みたいな顔で笑うなよ。
 
「…じゃあな」
 
いたたまれなくなったオレが部屋に入り、ドアを閉めようとすると、中田がそれを押しとどめた。
 
「何?」
「真島、また明日な。迎えに来るから」
「…いいよ」
「いや、オレ、来るから」
 
中田がオレを見る視線が強い。
 
「…好きにすれば」
 
ちょっとホッとしたような顔をして中田は帰っていった。
 
 
 

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