〈はじめて〉の話。 10
オレたちはどのくらいこうしているのだろう。
灰谷は、そしてオレは、衰えるということを知らなかった。
何度も何度も交わった。
オレの名を呼ぶ灰谷の声、息づかい。
オレを撫でる手と口の中をかき回す舌の熱さ。
全身に波のように広がっては砕ける甘い官能。
オレの中でうごめく灰谷自身。
オレは何度も何度も快感の波を上がっては落ちる。
くりかえされる高まりと放出。
頭がおかしくなりそうだ。
「真島…真島…真島」
灰谷がオレの名を呼ぶ。低くかすれた声で。
「灰谷…灰谷…灰谷」
オレは灰谷の名を呼ぶ。
まるでその言葉しか知らないみたいに。
永遠にも感じられるし、一瞬にも感じられる。
夢だ。
これはきっと夢だ。
頬がぬるりとした。
灰谷がオレの頬を舐めている。
オレは泣いていたらしい。
「灰谷」
なぜだろう涙が止まらない。
「灰谷ぃ」
オレは灰谷に手を伸ばす。
夢なら醒めないでくれ。
「真島」
灰谷がオレを強く抱きしめる。
オレたちは互いの心とカラダをつなげて感じあった。
汗と涙と唾液と精液でドロドロのグチョグチョになるまで。
オレは心もカラダもさらけ出して明け渡した。
灰谷はまるごとオレをどこかにさらってしまった。
まさしくそれは、オレの〈はじめて〉とオレの〈全部〉だった。
*
長い長い夜が終わり、朝がやってきた。
カーテンのすき間から陽の光が差しこみはじめた。
「灰谷…ごめん…オレ…もう…」
「眠れよ真島」
灰谷はオレを腕の中に入れて抱きしめてくれた。
体中が甘く痺れ、痛み、強烈な疲労感が押しよせてきた。
そして眠い。眠くてたまらない。目を開けていられない。
「このまま眠って一緒に行こう」
灰谷が言った。
「…一緒に…どこに?…」
灰谷の返事はない。
「いいよ、灰谷が行くとこなら、どこにでも行く。オレを連れて行ってくれ」
目を開けば灰谷の顔。大好きな灰谷の顔が真ん前にある。
灰谷の大きな手が、オレの首を両側から優しく包みこんだ。
なんだ?
どうしてそんなに悲しそうな顔してるんだ。
なんで?
そういえばオレ、まだ言ってない。
言わなくちゃ…言いたい。
「灰谷…好きだ…好きだ、灰谷」
灰谷の顔がグチャリとゆがんだ。
灰谷はオレの胸に頭をつけてしばらくじっとしていた。
何かと戦っているようだった。
だが、首を上げ、オレの顔を見つめた。
「真島…ごめん…」
灰谷の手がオレの、まぶたをふわりと撫でた。
オレは目を閉じる。
チュッチュッ。
はじめてした時みたいに、優しいキスが降ってくる。
灰谷の顔が見たいけれど目を開けていられない。眠い。
チュッチュッ。
優しいキスは続く。
ああそうだ。口を開けるんだった。
オレは口を少し開ける。
灰谷の舌が入ってくる。
愛しい灰谷の舌。
何度も何度も味わった気持ちいい舌。
キスは深くなる。
応えたいけど、眠くてたまらない。
ん?苦しい…息ができない。
…息ができない。
苦しい…。苦しい…。
灰谷の指が喉に食いこんでくる。
息ができない。
息ができない。
「真島…真島…真島…」
遠くで灰谷の声がする。
オレは意識を手放した。