空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 73

 

ふわっ。
暗っ。
 
え?
ここ?
 
え?
 
目覚めたら真っ暗で、一瞬頭が混乱する。
 
暗すぎて自分の手も見えない。
ホントに真っ暗。
 
ここ?
え?
 
落ち着けオレ。
 
起き上がろうとしたら、あ~カラダが痛い。
ん?床で寝てた?
 
あ~そっか。
 
たしかあっちがベランダの方。
 
見当をつけて床を這い、手を伸ばす。
 
シャッ。
 
カーテンが開いて外の明かりが入ってくる。
 
遮光カーテンだったんだ。
 
あふぅ~。
 
オレはあくびをしながら立ち上がり、天井から吊り下がっている照明のヒモを引っ張った。
 
部屋が明るくなる。
 
 
そうだった。
ここは城島さんの部屋だったっけ。
 
あふぅ~。
オレはまた一つあくびをして、床に腰を下ろす。
 
いま、何時だろう。
外暗いから七時ぐらい?
 
この部屋には時計がない。
 
 
空っぽの部屋。
 
もともと物がほとんどなかったけど、今はホントに何もない。
荷物は全部処分したらしい。
電気は使えるままにしてくれていたから、エアコンは使えた。
ありがたいな。
この暑さで扇風機もエアコンもなしじゃ、多分また熱中症だ。
 
 
昨日、城島さんからもらったメッセージには追伸があった。
 
『もし君が、どこにも行くところがないのなら、あの部屋を使っていい。
実はあのアパートは近々取り壊されることになっている。
今月いっぱいまでは借りたままにしておくから。
オレにできるのはこんな事くらいだけど。
真島くん、元気で。』
 
 
一旦リセットしようと思っていた。
今までと違うところに一人で少しの間、身を置いてみたいと。
 
電車でどっか遠く、気が向いたところで降りて、なんて考えたりしてたけど、実際にはホテルに泊まるにもカラオケボックスに泊まるにも未成年だと厳しいことがネットで調べてわかっていた。
 
そこにまるでオレの行動を見透かしているみたいな城島さんのメッセージ。
ここはノッてみるしかない。
 
で、バイトのシフトの代わりを見つけて、店に電話して、その夜、親父が帰って来た時に話をした。
一人で少し旅に出たいと。
母ちゃんは反対したけど、案外あっさり親父は許してくれた。
 
翌日の昼、つまり今日だ。
城島さんの話に甘えて、オレはチャリで家を出るとそのままここに来た。
多分、自宅から五キロも離れてないと思う。
 
 
着いた途端、爆睡。
まあ断捨離とかで二日くらいまともに寝てなかったからな。
 
 
はあ~。
 
 
あらためて室内を見渡す。
 
フローリングのワンルーム
作り付けの小さなキッチン。
窓にはグレーの遮光カーテン。
ドアが開け放たれたままのクローゼットの中は空っぽ。
 
ガラ~ンって文字が空間に浮かんでそうだ。
 
なんの気配もしない。
 
オレは膝を抱えてカラダを揺らした。
 
なあんか、落ち着かねえ~。
 
考えてみればオレ、今までまるっきりの一人って、ほとんどなかったかもしれない。
いや、一人っ子だから部屋の中に一人っちゃあ一人だけど、家には母ちゃんや親父がいるわけだし。
この間みたいに年に何回か法事に行ったり旅行に行ったりで家を開けることはあったけど。
そんな時は必ず灰谷がいたし、佐藤や中田も遊びに来てたし。
 
逆に言えば、母ちゃんが仕事でほとんど家にいない灰谷はオレんちに来てる時以外は、ほぼ家に一人なんだよな。
こんな感じ?
 
 
ん~。
 
 
カタッ。
 
うお~。何何?
 
ちょっとした物音にもビクビクしてしまう。
 
きっとカラダがどっか緊張してるんだな。
 
 
 
グウ~。
 
腹が鳴った。
 
そう言えば朝メシ食ったきり。
腹減った~。
 
コンビニ……行くか。
 
背負ってきたリュックから財布を取り出す。
リュックの中身は最低限の着替えとタオルぐらいなもの。
 
今回、一つだけ自分にルールを決めた。
家に帰るまで誰とも連絡を取らない。
すなわちスマホの電源は落とす。
 
本当に一人に一時的になってみる……。
 
 
カギは……かけなくていいんだよな。
 
サイフ一つ持ってフラフラと城島さんの部屋を出た。
 
 
夏の宵。
 
夜風が気持ちいい。
 
住宅街を抜けて公園を通りコンビニへ。
あ、この間灰谷と、これと反対のルート歩いたな。
なんて思いつつ。
 
 
メシ……。
 
コンビニの弁当はどれも美味しそうに見えなかった。
ん~。
 
おにぎりとカップ麺?
あ、城島さんちってお湯沸かせたっけ?
水は出るだろうけどヤカンはなかったし。
鍋が一コあったはずだけど……もうないかな?
あ、つうかガスは止まってるのか?
ん~。
 
やめとくか。
 
結局アレコレ迷ってサンドイッチにいちごオーレ、アメリカンドッグっていう訳わかんない組み合わせに水のペットボトル、それからソーダ味のアイスを一本買ってコンビニを出た。
 
 
公園のベンチでアイスをかじる。
食後に食べようと思ってたけど、城島さんちには冷蔵庫がないんだった。
 
シャクシャクシャクシャク。
 
夜風が気持ちいい。
 
ぐ~。
 
腹が鳴った。
 
公園の時計は七時半だった。
 
 
今頃、灰谷は……。
バイトは十一時からだったから、もう終わってる。
黙って出ていったオレの事、どう思ってんだろ。
 
ふー。
 
ダメだダメだ。
一旦捨てなきゃ。
大事なものを捨てなきゃ。
 
とりあえずメシだ。
メシ喰おう。
 
 
城島さんの部屋に戻ってコンビニで買ってきたものを食べる。
 
モソモソモソ。
ん~なんか物悲しいなあ~。
 
動くものがないからか。
音出すものも。
 
取り壊しが決まってるせいか他の部屋はすでに空いてるっぽくて、建物全体に人の気配がない感じだった。
 
 
城島さんがテレビは捨てられないって言ってたのもわかるような気がするな。
映像だけでもチラチラしてたら、紛れそうな気がする。
 
紛れる?
 
ああ。
 
ん~。
 
スマホの電源も入れてない。
PCもない。
テレビもない。
話せる人もいない。
 
あるのは自分だけ。
 
そっか。自分と向き合うのか。
 
 
怖え~。
なんだか今一瞬ゾッとした。
 
 
城島さんは働きながらだけど、これを一人で何ヶ月かやってたんだもんな。
 
スゴイよ。
 
オレなんか家出てから数時間しか経ってないのに、もうすでに帰りたくなってる。
 
ふう~。
 
なんか、メシ食えない……。
 
 
今日が八月の二十五日。
三十日までに帰るとして、あと五日か……。
長えな~。
持つかなオレ。
何する?
 
ん~。
 
一つだけ、やってみようと思ってることがあった。
でもそれは昼間だ。
 
寝るか。
いや、さっき起きたばっかなのに眠れるか?
 
ん~。
 
なんとなく床をゴロゴロゴロ~。
障害物がないから部屋の隅から隅まで行けるね。
 
 
ってあら?急に腹が痛い。
 
トイレトイレ……。
 
「お借りしま~す」
 
ん?ドアを開けて何気なく見たら、あれ?トイレットペーパーが……ない?
残り五センチ位がペローン。
 
ストックは~ない……みたい。
 
一旦コンビニまで買いに……いや、この感じだとオレ……持たない。
 
 
ガーン!!
 
マジか~。五センチでイケる?
ムリだろう~。
つうか腹もムリ~。
とりあえず出すもの出してそれから考えよう。
 
 
ジャジャー。
 
はあ~スッキリ。
 
 
あ~でもこれどうするよ。
ケツどうするよ。
 
ギャー。
 
家だったら「母ちゃ~ん紙ないんだけど~」って呼べば済むのにな。
そうか、これが一人暮らし。
トレペの在庫にも気を配らないとならないわけか。
 
 
はあ~。
 
 
神よ~。紙よ~。紙下さ~い。
 
オレは手を合わせて上を見上げた。
 
天井付近に突っ張り式の棚が吊ってあった!
けど……何もない。
 
お~。どうする?
 
オレはぐるりとトイレ内を見渡す。
便器の下辺りに置いておいたりは……ないね。
 
ああ~。
これは~ええと~パンツ足首に引っ掛けたままお尻突き出してチョコチョコ歩きながらトイレから出て……。
 
え~どうすんだ。
んん~。
あ~風呂場のシャワーで流す?
それもな~。
 
あ~ピーンチ。
 
んん~。
 
 
振り向けば背後には窓。
カーテンがかかっている。
なんで窓にカーテン?
そっとカーテンを開けてみる。
あ~外の廊下に面しているからか。
電気つけるとシルエットが見えちゃうからだな。
――って、あった!!トレペ!
 
窓枠にトレペが一個、隠れるようにちょこんと載っていた。
 
あ~神よ。いや城島さん。
ありがとう。ありがとう。
 
事なきを得た。
 
はあ~。アホなことしてて疲れる。
 
 
 
オレはベランダの窓を開けて座りこんだ。
 
アパートの二階からは家の明かりがボツボツと見えた。
 
あの明かり一つ一つの下に人が住んでるんだよな、なんて事を思う。
そしてオレみたいに悩んだり、メシ食ったり、トレペがなくて困っていたりしてるんだろう。
 
その中には前に城島さんの言ったヒドイ事だって起こってるんだろうな。
 
昼の明るい明け透けさに比べて夜はなんて静かで懐が深いんだろう。
夜は昼のすべてを覆い隠す。
 
なんて事をつらつら考えていたら……。
 
ん?
 
カーテンの影に灰皿。
城島さんの机の上に用意してあった灰皿だ。
そしてあのタバコとライター。
灰皿には長さの違う吸い殻が二本……。
 
これって……。
 
今のオレみたいに窓を開けて城島さんとあの人、公園で会ったあの人がベランダで二人、タバコを吸っている姿が目に浮かぶ。
二人、ただ静かにタバコを吸っている姿が。
 
 
ちょっと迷ったけど、母ちゃんゴメンと心でつぶやいて、オレもタバコに火をつけた。
 
あの人に教わったように肺に煙を入れて吐く。
 
フー。
 
吸って吐く。
吸って吐く。
 
繰り返してから唇を舐めると甘い。
 
 
城島さんは大丈夫。
うん。大丈夫。
オレは確信した。
 
 
 
 
 
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