空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 70

 

眠っ……けどもうひと頑張り。
 
オレは最後の力を振り絞って室内の隅々まで掃除機をかけた。
 
終わった!
 
はあ~疲れた~。
つうか眠っ。
 
掃除機抱えたまま床に倒れこんだら、階下から母の声がした。
 
「信~あたしパート行くわよ~」
 
「いってらっしゃ~い」
 
大きな声で返事する。
 
 
玄関にカギの掛かる音が聞こえて、オレは久しぶりに一人になった。
起き上がって、部屋を見渡した。
 
ベッド、テレビの載ったテレビ台、本棚、そして机。
家具の上やまわりに細々と置かれていたものがなくなり、すべてのものが収まるところに収まっていた。
ギュウギュウに詰まっていて開けにくかったクローゼットの中もスッキリ。
 
「ときめかないものはこの世の敵ですわ♥」
オレの心の中の断捨離乙女が、ときめきチェッカーに反応しないものをあぶりだし、大ナタ、いやときめきチェーンソーをバッサバッサと振リ回し、結果こうなった。
 
いやあ~捨てれば捨てられるもんだなあ。
っていうかすでに何がそんなにそこにあったのかすら思い出せなかったりする。
まあ、そのうち、あれがないこれがないって出てきそうな気もするけど……。
 
 
なんか……スッキリした!……な、うん。
 
 
大事なものなんて、そんなにはないんだよなあ。
 
 
ん~。
 
 
さて、これからどうしよう。
 
まあ夏休みの課題はやらなきゃな。
バイトのシフトも何日か残ってるし。
 
 
夏休みは後一週間。
この夏で、部屋だけじゃなくて灰谷への気持ちにも整理をつけようと思っていた。
……つくものなら。
 
でも……。
 
灰谷が明日美ちゃんと別れたと聞いて心が揺れ始めた。
 
また、灰谷と二人。
元に戻ったってことになるのかな?
 
 
いや、ダメだ。
夏の前にオレの心が戻れなくなっている。
 
 
大事なものをいったん捨てる……か。
 
城島さんの言葉をまた思い出す。
 
大事なもの……。
 
例えば今までのオレと灰谷の関係を捨てる?
捨てるったってどうすれば。
 
つうか昨日だって灰谷が隣りの部屋にいるのに我慢できずにあんなこと。
 
うああ~。
 
オレは居たたまれなくなり、床をゴロゴロ転げ回った。
 
 
 
♪~
 
スマホのメッセージの通知音が鳴った。
 
 
誰だ?
 
 
『真島くん、君の幸せを心から願っている。
また、いつかどこかで。
その時は二人、笑い合えたらいいなと思ってる。』
 
城島さんからだった。
胸がふわんと暖かくなった。
 
城島さん。
ヒドイ別れ方になってしまったけど。
城島さんには感謝してもしきれなかった。
 
今度会えたら言いたい。
 
したくない事、させちゃってごめんなさい。
オレの事、大事にしてくれてありがとう。
 
 
オレも……。
オレは……。
 
 
♪~
 
ん?また城島さん?
追伸……。
 
城島さんのくれたメッセージを読みながら、オレにある考えが浮かんだ。
 
 
 
真島の家に寄らずに来たので、灰谷は十分前にはバイト先のコンビニに着いた。
 
「おはようございます」
 
バックルームに入っていくと、店長が見慣れぬ顔と話している最中だった。
 
「ああ灰谷くん、紹介するよ。彼ね、今日から入ってもらう立花くん」
 
店長に紹介されてペコリと頭を下げた少年はひょろりとして手足が長く、キレイに整った顔をしていた。
 
モデルみたいだな。
灰谷はそう思った。
 
「立花友樹です。よろしくお願いします」
「友達の樹でトモキくんだって。友達いっぱいいそうだよね」
「いや、そんなことないです。ボク、人見知りなんで」
 
友樹は、はにかんだ笑顔を見せた。
 
「そうなの?そんな風には見えないけど。立花くん、こっちが灰谷くん」
「灰谷です」
 
灰谷も軽く頭を下げた。
 
「灰谷くんと真島くんはたしか西高だったよね」
「はい」
「じゃあ立花くんは二人の後輩になるんだよね」
「ボク、夏休み終わったら西高に編入するんです」
「一年?」
「はい」
「オレは二年。よろしく」
「よろしくお願いします」
「いろいろ教えてあげてね。っていうかうちの系列店で働いてたこともあるから、ほとんど教えることないと思うけど」
「いや、そんな事ないです。よろしくお願いします」
 
友樹は丁寧に頭を下げた。
 
 
「それより灰谷くん。明日美ちゃんとなんかあった?」
 
聞きにくそうに店長が言った。
 
「実はご両親からはね、後釜決まったら辞めさせたいってずっと言われてて。例のストーカー、あっ、立花くんは聞こえてても聞き流してね」
「ボク、何も聞こえません」
 
友樹はニコリと笑って言った。
 
「ありがとう。あれがあった後もね、明日美ちゃん自身は続けたいって言ってたんだよ。それが立花くん決まったって聞いたら急に辞めたいって。あの子、無責任な子じゃないし、灰谷くんとなんかあったって事かな?」
 
明日美が……。
まあそりゃそうか、オレの顔なんか見たくないよな。
 
「オレが個人的なこと色々言える立場じゃないんだけどさ。明日美ちゃんお客さんに人気あったしね」
「すいません。もしあれだったらオレ、辞めるんで明日美、いえ高梨さんに戻ってもらっても」
「いやあ、そういうんじゃないんだけど……ごめんごめん。まあ即戦力になりそうな立花くんも入ってくれたから、いいっちゃいいんだけどさ」
「すいません」
 
灰谷は頭を下げた。
 
「あ、違う違う。いいのいいの。ちょっと気になってさ。そっか~。まあねえ、若いうちは色々あるよねえ。ボクもあった。うんうん」
 
店長は物知り顔にうなづいた。
 
灰谷より明日美の方がここでのバイトは長かった。
 
オレが辞めさせちゃったようなもんだな。
 
しょうがないこととはいえ、後味は悪かった。
でもそれよりも明日美が辞めた事で真島がまた自分を責めるのではないかとそちらの方が気になる灰谷自身がいた。
 
 
「おはようございま~す」
 
多田さんが出勤して来た。
 
「おはようございます」
 
挨拶を返しながら灰谷は思った。
 
あれ?なんで多田さん?
 
「あ~多田さん、彼ね、今日から入ってもらう立花くん」
「立花友樹です。よろしくお願いします」
「あら~イケメンね~。色が白くてカワイイ~。スラッとして背も高いし。店長ホント面食いなんだから~」
「違いますよ。たまたまです」
「またまた~。ねー灰谷くん」
 
「あの、今日って多田さんシフトでしたっけ?」
「ん?真島くんの代わりだけど?」
「え?」
「あれ、灰谷くん聞いてない?昨日の夜電話が来て、八月中のシフト、全部代わったの。夏休みの課題が間に合わないからって」
「そう……ですか」
「灰谷くんは?課題、終わってる?」
「あ~もう少しなんですけど」
 
灰谷の納得できないような様子を見て、店長の目が好奇心に輝いた。
 
「あれ?何何?一番の親友が聞いてないって何よ?ケンカでもした?あれえ、それとも三角関係とか?」
「違いますよ」
 
昨日はそんなこと一言も言ってなかったんだけどな……。
 
 
ん?
灰谷が視線を感じて顔を上げると友樹と目が合った。
 
友樹は灰谷を見て、ふわりと笑った。
 
なんだ?人の痴話話が面白いとか?
そういう感じでもないか。
 
「ワケありだなあ~。まあとにかく立花くんは、これから灰谷くんと真島くんとシフトがいっしょになる事が多いと思うから、指導よろしくね」
「はあ」
「あっ、時間だ。多田さん灰谷くん、レジ替わってあげてオレ、立花くんにまだ色々説明あるから」
「は~い。行こう灰谷くん」
「はい」
 
 
その日、灰谷はモヤモヤしながら働いた。
 
バイト終わりにロッカー前で真島に電話をしてみた。
電源が切られている。
 
あいつ……ホントなんなの?
LINEを送る。
 
『おい。バイト休んで何してんだよ?』
 
 
「あの……灰谷先輩、お疲れ様です」
 
すでに帰り支度を済ませていた友樹は律儀にも灰谷が電話を終わるまで待っていたらしい。
 
「ああ。お疲れ」
「先輩、家は大通りの方ですか?」
「いや、反対側。立花くんちはあっちの方?」
「はい。あの、立花でいいですよ」
「そう?」
「真島先輩はこっちですよね」
「うん。あれ?真島のこと知ってるの?」
「いえ。さっき店長に聞いて」
「ああ」
「じゃあ、ボク、お先に失礼します」
「お疲れ」
 
立花友樹はなるほど、系列店で働いていただけのことはあり、ほとんど教えることもなく、テキパキと働いていた。
店長の言う通り即戦力だった。
明日美の穴も埋まるだろう。
明日美、目当ての客は減るかも知れないが。
 
それにしても真島のやつ、夏休みの残りのシフト全部休みってどういう事だろう。
確かに課題にはまるっきり手をつけてないとは言ってたけど。
みんなで手分けしてやる事になってるし。
 
具合でも悪くなったとか?
昨日の今日で?
いや、でもこの間の熱中症もあるしな。
 
灰谷は自転車で真島の家へ向かった。
 
 
 
チャイムを押すと母の節子が出てきた。
 
「あら灰谷くんどうしたの~」
「真島、いますか?」
「信ならいないわよ」
「え?」
「聞いてない?今日のお昼に自転車に乗って一人で出かけたの。旅に出るって」
「旅、ですか?」
 
意外な展開に灰谷は驚いた。
 
「なんか昨夜急に、一人になって色々考えてみたいから行かせてくれって言い出して。あたしは反対したんだけど。お父さんが『わかった行って来い』って。あの人ああ見えて、そういう青春っぽいの好きだから」
 
青春っぽい旅……。
 
「まあ、あの子もいろいろあったから。一人になって自分と向き合いたいって言うのもわからなくはないしね。とは言っても、あと一週間で学校が始まるからそれまでには帰って来るって約束だけはさせたんだけど」
「そうですか」
「でも、灰谷くんに黙って行くなんておかしいわね」
 
それだけ追いこまれてるって事かもしれないな。
いや、深刻か。
 
「でもね~あの子、あれで淋しがりだから、すぐに帰ってくるとあたしは踏んでるんだけど。多分、長くて二日。そうだ!ねえねえ灰谷くん賭けない?」
「はい?」
 
 
真島の家を後にして、灰谷はもう一度スマホをチェックしてみた。
折り返しの電話はないし、LINEのメッセージに既読もついていなかった。
もう一度電話してみたが、相変わらず電源は切られたままだった。
念の為に佐藤と中田に電話して聞いてみたが、二人とも真島の行き先はおろか旅に出たことさえも知らなかった。
 
親とバイト先だけ。
そこだけにはキチッと筋を通す辺りがなんとも真島らしかった。
 
それにしてもオレには一言あってもいいのに。
もしかしてやっぱ昨日の……つうかオレの……ことが関係してんのか?
ないことはないよな……。
 
あいつ、一人でどこ行ったんだろう。
 
 
灰谷は空を見上げた。
 
 
 
 
 
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