空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 32

 

灰谷が最初に感じたのは違和感だった。
 
明日美と食事をしながら灰谷は駅で会った真島とその親戚だという男の事を思い返していた。
 
さっきの人が佐藤が見かけた、ホテル街で真島といっしょにいたっていう男になるんだろうな。
二十代後半のスーツを着た、すらりとしたリーマンだって言っていた。
 
転勤の下見。
おじさんの方の親戚。
ん~。
この間は気がつかなかったけど真島があんなに懐いている親戚がいるなんて聞いたのは初めてだった。
久しぶりって言ってたから、まあ、そういうこともあるのかもしれないけど……。
 
 
そんなことより、あの雰囲気。
二人歩くあの雰囲気が……。
 
 
「灰谷くん、カニクリームコロッケ半分食べる?おいしいよ」
「うん」
 
明日美が灰谷の皿に載せてくれた。
 
 
「真島くんの親戚の方って、イケメンだったね」
「え?ああ。そうだな。感じもよかったし。整った顔してた」
「真島くんといっしょにいると、なんだかちょっとそういう雰囲気に見えちゃた」
「そういうって?」
「ん~なんていうか親密っていうか。恋人同士の秘密の逢引現場に出くわしちゃったみたいな?」
 
 
逢引――明日美の使ったその古臭い言葉がピタリと当てはまっているような気がした。
そう見えたのは自分だけではないのだと灰谷は思う。
声をかけた時の真島のあの、驚いた顔。
 
 
「灰谷くん、ごめんね」
「え?何が?」
「さっきからなんか怖い顔してるから。半分冗談だったんだけど」
「ああ。いや……いいんだけど」
 
 
明日美が灰谷を見つめた。
 
「何?」
「ん?いつもならハンバーグちょっと食べてみるって聞いてくれるでしょ」
「あ!ごめん。ちょっと食べる?」
「ううん。そういうんじゃなくて」
 
灰谷はハンバーグを急いで切り分けると明日美の皿に載せた。
 
「ありがとう。でも本当にそういうんじゃなくて。なんだか考え事してるなって」
「……あのさ、親戚っていうわりにはちっとも似てなかったよな、あの二人」
「そうだね。どっちかというと真島くんより灰谷くんに似てたかな。あの、城島さんって人」
「え?オレに?」
「うん。背格好がね。見た目の雰囲気っていうか。話したら全然違ったけど」
 
 
見た目の雰囲気がオレに、似てた?
 
真島は終始落ち着かない様子だった。
そして城島という男の反応をすごく気にしていた。
話かけてもどこか上の空だった。
帰っていく男の姿をいつまでも目で追っていた。
 
――。
 
本当に親戚なのか?
いや……それより……。
この違和感の正体は……。
 
 
――そうだ。
真島はオレを見なかった。見ていなかった。
まるで目に映っていなかった。
 
 
そんな風に感じたことが今までただの一度もなかったことに灰谷は、初めて気がついた。
 
 
真島が変わった?
いつから?
 
 
目の前では明日美がおいしそうにハンバーグを頬張っていた。
 
オレが明日美ちゃんと付き合いはじめてから……かもしれないな。
 
セフレの事といい……。
なんだか……。
このなんとも言えない気持ちはなんだろう。
 
 
灰谷は初めての感情に戸惑いを覚えた。
 
 
 
 
 
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