空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 30

 

バイトの合間を縫って城島さんとは会い続けていた。
一つだけ変わったのは、城島さんの部屋ではなくホテルを使うようになった事。
 
ひんやりした清潔でパリパリのシーツに程よく効いた空調。
オレのカラダを撫でる城島さんのぬるい手。
押し開かれて、舐められて、しごかれて、しゃぶられて、羞恥心をアオられる。
それなのにあそこは気持ちよくて。
 
「んっ……んっ……んっ……あっ……」
「ここ……好きだよね」
「ん……んうっ……あぁっ……ん……ん……」
 
はじめは気分を変えたいと言ってオレが誘った。
でも本当のところはあの部屋が怖かったから。
城島さんはオレのわがままに付き合ってくれた。
いや、きっと城島さんもあの部屋で他の男としたくなかったんだと思う。
あの部屋より、オレはリラックスして城島さんにカラダを開くことができた。
 
 
「ふわぁ……あっ……」
 
城島さんのカラダにしがみつく。
 
「もっと……奥……んぅ……ああッ……や……」
 
ハッキリ言って、城島さんと寝るのは気持ちいい。
こういうのをカラダの相性がいいっていうのかもしれないけど、城島さんとしか寝たことがないオレにはわからない。
 
「はあ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 
つながったまま突かれながらキスするのは、イイ。
 
「あ……あっ……あっ……んっ……んっ」
 
突かれる度に声が出てしまう。
日に日に城島さんにイイ所を暴かれる。
 
「声、我慢しなくていいよ」
 
城島さんがオレの髪を撫でる。
優しい、でもオスの顔。
そう、他人に撫でられるのって気持ちいい。
 
「ああ……ああ……ん……ん……イク……」
「いいよ。イッて」
 
オレは知ってしまった。
他人の手の、カラダの、暖かさを気持ちよさを。
 
「ん……んん~」
 
甘いカラダと陶酔を。
 
 
 
「いっぱい出たね」
 
城島さんが額にキスをする。
……恥ずかしい。
 
「なんで?」
「ん?」
「額にキス」
「ああ。カワイイから」
「カワイくない……」
「カワイイよ」
 
少し、心配になる。
 
「城島さん」
「ん?」
「オレ……イイ?」
「どうしたの?」
「いや、オレばっか気持ちいいんじゃないかって」
「そんなことないよ。ちゃんと気持ちいいよ」
「いっつもオレばっかイッてるし。つうかイカせてもらってるし」
「若いからね。大丈夫。気にしないで。でもゴメン。オレも……限界」
「あっ……強っ……あっ……あっ……ん~」
 
 
バイト代はホテル代に消えていった。
城島さんは毎回払うと言ってくれるけれど、さすがにそうそう甘えてばかりもいられない。
二回に一回は払わせて貰った。
 
 
多分一人でいられないのはオレの方で城島さんは付き合ってくれているだけだから。
きっと過去の自分を抱きしめてやっているみたいな感じなんだろう。
そしてそれはけっしてラクな事じゃないと思うから。
 
 
一人でいられなかった。
灰谷を想う孤独に耐えられなかった。
何かで埋めておきたかった。
 
 
でもさすがに自分でもわかる。
会いすぎだった。
……恋人でもないのに。
 
城島さん、明日も仕事だろうに……。
甘え過ぎだろオレ。
時間を持て余すと、つい連絡してしまう。
 
 
足取りも重く家に帰ると玄関に見慣れた靴。
 
「ただいま~」
まこと~、灰谷くん来てるわよ」
 
母ちゃんが台所から出てきた。
 
あいつ、今日遅番じゃなかったっけ。
 
「ごはんは~?」
「食った」
「なんか持ってく~?」
「んにゃ~いらねえ」
 
オレは階段を上る。
 
「最近帰り遅いわよ。未成年なんだからね」
「わかってるって」
「今は男だって危ないんだから」
「はいはい」
まことってば」
「大丈夫」
 
部屋のドアを開ければ灰谷がいる。
 
「来てたの」
「ああ」
 
灰谷はベッドに寝転がってハイキューの新刊を読んでいる。
 
「あっ、それ、まだ読んでねえのに」
「いいじゃねえか、ケチ」
「いいけど」
 
ドサリとイスに腰掛ける。
あ~腰ダル~。
 
「まだ暑いな?オマエ今日泊まる?」
「ん?ん~」
「バイト帰りか」
「ん~」
「にしちゃあ遅くねえ?バイト帰りのデート帰りか?」
「ん~」
 
聞いてねえな。
何?そんなに新展開あったっけ?
 
ホテルでシャワー浴びたし、部屋着に着替えるか。
 
「オマエも着替える?Tシャツいる?」
「ん~」
 
テキトーに選んでベッドに放り投げると着ていたTシャツを脱ぐ。
 
 
「真島、オマエ、夕方どこにいた」
「は?なんで?だからオマエはオレの母ちゃんかって」
 
新しいTシャツに袖を通す。
 
ん?節子じゃねえよって言わねえのか。
まあいいけど。
 
 
「佐藤がさ、今日オマエ見たって」
「佐藤?どこで?声かけてくれればよかったのに」
「ホテル街で」
 
 
ピシッ。
心臓に一瞬にしてヒビが入った。
灰谷がオレを見ている。
強い視線を感じる。
背中を向けていて助かった。
 
 
ジーパンを脱いでジャージに履き替えながらオレは平静を装って聞く。
 
「へえ~。佐藤そんなとこで何してたの」
「それはどうでもいい。オマエ、オレになんか隠してねえか」
「なんだよそれ」
「つうか、こっち向け」
 
 
ふ~。
灰谷に気づかれないように小さく静かに息を吐くとオレは覚悟を決めて、ゆっくりと振り返った。
 
灰谷がオレを見つめている。
 
 
隠してること。
あるよ。
知ったらお前が引いちゃうようなこと。
 
オレ、男と寝てるよ。
んで、オマエのこと……。
 
 
灰谷が口を開いた。
 
「オレはオマエがなんだって構わないよ。オマエがオレの一番の親友だってのは死ぬまで変わらねえから」
 
真正面から、オレの目を見つめて、灰谷は言い切った。
 
 
ギュッ。目に涙が集中した。
ダメだ。泣くな。
オレは、爪を立てて拳をにぎり、奥歯を噛んだ。
耐えろ。耐えろ。
応えろ。応えろ。
灰谷に応えろ。
しゃべれオレ。
 
 
「……はあ?急に何言ってんだよ」
 
オレはイスに乱暴に腰掛けた。
 
しゃべれオレ。しゃべれオレ。
 
「ホテル街?ああ、行ったね、行ったよホテル街。それが何?オレは行っちゃいけねえの?」
「――」
 
今日見られたんなら、城島さんといた時ってことか……。
セフレとってのは通らないか。
オレは必死に頭を巡らせる。
 
「今さ、親戚の兄ちゃんがこっちに来てんだよ」
「親戚?」
「うん。なんかこっちの方に転勤が決まったって。で、その下見にちょこちょこ来ててさ。住む所探したりとか?久しぶりだからいっしょに外でメシ食おうって」
「メシ食うのになんでホテル街なんだよ」
 
だよな。う~ん。
 
「あの辺りにさ、マイラーメン屋があるらしいって言うから」
「ラーメン屋?」
「それがみつからなかったんだよ。で、探してるうちにホテル街に迷いこんじゃってさ。それをたまたま佐藤が見たんだろ?」
「……」
「で、何?オレがホテル街にいちゃあダメだってか?今日は違ったけど、行ったことあるぜ、あの辺りのホテル。セフレと」
 
つけてるか?
ちゃんとウソつけてんのかオレ?
 
 
「あ~そっか~」
 
灰谷はあからさまに安心した顔をした。
 
「いや~佐藤がさ、真島が男とホテル街に消えて行ったって言うからさ」
 
しかし佐藤とは意外なところから来たな。
 
「じゃあモ~ホ~とかってことになっちゃってるわけ。サトハイの中で」
「サトハイ?」
「佐藤と灰谷」
「いやそうじゃないけど。もしかしたらそういうこともあるかもって。あ~。だって佐藤が言うからさ~。うお~正直ちょっとビビったわ」
「なんだよそれ」
「いやまあ……なあ」
「何が『なあ』だよ」
「これはオレも腹括って聞いてみるしかねえなあってさあ~ビビった~」
「ビビってんじゃねえよ。『オマエがオレの一番の親友だってのは死ぬまで変わらねえから』。マジメな顔しやがって」
 
笑え。
笑え、オレ。
 
「ギャッハッハ。ウケる~。あ~涙出てきた。オマエらホントバカな、サトハイ。あ~、中田に電話しよ」
「やめろ。中田には言うなって。一生ネタにされる」
「されろされろ。あ、中田、オレ。オレオレバナナオーレ。聞けよ今な……」
 
 
 
「真島~。ごめ~ん」
 
中田とやって来た佐藤がオレに手を合わせる。
 
「なんだよう。オレモ~ホ~なんだろ。ケツかせ佐藤」
 
オレは佐藤をベッドの上に押し倒して足を持ち上げた。
 
「やめろ~。服の上から肛門さわんな~」
「ヤっちまうぞ~」
「ぎゃ~犯されるぅ~」
「童貞卒業まえにオマエの後ろ処女奪ってやるよ」
「うわ~それはイヤ。やめて~」
「ホレ、ホレ」
 
佐藤のケツに股間をグイグイ押しつけてやった。
 
「やめろって~」
「良かったな佐藤~。これおみやげな」
「中田、何?」
「たこ焼き」
 
中田がたこ焼きをテーブルに広げる。
 
「お~ウマソー」
「なんか大変だったみたいだな、灰谷」
「聞いてくれよ中田。佐藤がバカなんだよ」
「オレはバカじゃない~」
「バカじゃねえよな。童貞だよな佐藤」
「もう~みんなでオレのことバカにしやがって~」
「あったかいうちに食おうぜ~」
「ウーイ」
「オマエは食うな佐藤」
「なんでだよケチ中田」
 
 
久しぶりにサトナカマジハイ、四人で騒いだ。
 
たこ焼き食べてあれやこれや話して。
楽しかった。
 
 
こういうのがいい。こういうのでいい。
オレはこうやって灰谷のそばにいられればいい。
いっしょにバカやってられればいい。
 
 
その時は本当にそう思ったんだ。
 
 
 
 
 
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