空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 25

 

「真島、真島起きろって」
 
ん~。灰谷の声がする。
 
目を開けると……まぶしい……。
 
オレを見下ろしているのは……灰谷……?
 
光がまぶしくて顔が見えない。
でも……声は灰谷だ。
 
「起きろって。遅刻するぞ」
「ん~」
 
灰谷がオレの手を引く。
 
「ほら、みんな待ってるから」
「みんな?」
 
灰谷に手を取られて階段を上る。
 
ん?階段?下りるんじゃなくて上がるの?
 
 
1段 2段 3段……13段。
 
ん?オレなんで数えてんの?
 
ここは階段の上。
ちょっと高いところみたい。
 
 
ざわざわ ざわざわ。
 
 
辺りに大勢の人がいる気配はしているけど。
薄暗くて姿は見えない。
 
ん?
 
手を引いていた灰谷はいつの間にかどこかに消えている。
 
ここは?
 
え?
 
顔を上げればちょっとやそっとじゃ切れそうにない太いロープが輪になってぶら下がっている。
 
ギシッ。
床がきしむ。
見れば、足元の床は扉になっていて、下に向かって開くようになっている。
 
え?これって……。
 
 
柔らかい布で目隠しをされる。
 
え?え?
 
手首を後ろで縛られる。
 
 
え?ちょっと待って。
 
 
そして、首に太いものがかけられ、キュッと締められた。
 
 
シャンシャンシャンシャン。
 
シンバルをハチャメチャに叩いたような音が響き渡り、ざわめきが消え、ぴーんと張り詰めた空気が満ちた。
 
 
そして……。
 
 
足元の扉が開いてロープに首を吊るされる?
そんなイメージが頭の中に沸き起こる。
 
 
オレはカラダを固くして次に起こることに備えようとする。
 
 
……。
 
 
何も……起こらない。
 
 
え?何これ?え?
 
 
 
心臓がバクバクと音をたてる。
何?なんだこれ。
 
 
オレは耳を研ぎ澄ませて、辺りの気配を感じようとする。
 
 
何も聞こえない。
 
 
聞こえるのは心拍数の上がった自分の心臓の音だけ。
 
 
まるでオレの周りだけストップモーションがかかったみたいだ。
それともオレの時間感覚がおかしいのか?
もしかしてこれはコンマ何秒でオレが感じていることなのか?
 
いろんな考えが一瞬にして駆け巡る。
 
 
でも……何も起こらない。
 
時間が過ぎる。
 
 
縛られた手首のわずかな痺れと首を締めつけるロープの感触と重さ。
そして頼りない足元。
 
 
その時、耳元を風が吹き抜けた。
ヒューヒューと音がする。
 
 
冷や汗が背中を流れる。
 
 
それでも、何も起こらない。
 
 
宙ぶらりんな状態に恐怖がこみ上げる。
 
 
わー。わー。わー。
 
叫びが止まらない。
 
でもオレの声はまるで何かに吸い取られてしまったように外に出ない。
 
 
助けて。助けて。助けて。
 
 
声にならない心の叫びが止まらない。
 
わー。わー。わー。
 
 
 
「うわあ~」
 
オレは大声を上げてガバリと飛び起きた。
心臓がこれ以上ないくらい早く動いている。
ベッドの上だった。
 
 
夢?
夢かあれ。
 
 
オレは首筋を撫でた。
首に掛けられたロープの生々しい感触が残っていた。
そして、乾いた喉の痛み。
耳元をヒューヒュー吹き抜ける風の音も耳の奥に残っていた。
 
 
リアルだった。
まるで現実みたいに……いや、現実以上にリアルだった。
 
 
これは……あれだな。
城島さんが言っていた夢の光景だ。
マジか。
 
 
「こえ~」
 
 
 
自分がこんなに繊細だとは思っても見なかった……。
それとも灰谷にすまないという潜在意識がそうさせるのか。
それとも城島さんのイメージがオレの中に鮮烈に残ってしまったからなのか。
その日からオレは夜毎、悪夢にうなされ続けた。
いつも寸分違わず同じ死刑台の夢。
 
この夢の怖いところは何も起こらないという事だ。
それでもいつ、足元の扉が開いて、ロープに吊るされるかわからない。
そう、まるで死刑囚。
 
 
オレは眠るのが怖くなり、次第に眠れなくなった。
でもバイトは休めない。
 
とにかく昼間は眠くて眠くてしょうがない。
目を閉じたらうっかり眠っちゃいそうなぐらい。
でも、夜、ベッドに横になると目が冴えてしまっていつまで経っても眠れない。
そしてやっとウトウトしたと思ったら、ほぼ確実に死刑台の夢……。
 
――次第に消耗していった。
 
 
 
バイト帰り、オレは家に帰る気にもなれずに、ついフラフラとあの公園へ。
 
城島さんは……いた。
 
相変わらず淋しそうに、一人ベンチでビールを飲んでいた。
 
城島さんの姿を見て、なぜか心からホッとするオレがいた。
 
 
「真島くん」
 
オレを見つけると城島さんは小さく微笑んだ。
 
 
「こんばんは」
「こんばんは」
 
 
オレは城島さんの隣りに腰掛けた。
 
 
「暑いね。ビール飲む?」
「いえ」
「チューハイ?」
「いえ。飲むとたぶんすぐ寝ちゃうと思うんで」
 
城島さんがオレの顔をのぞきこんだ。
 
「ホントだ。疲れてるね。大丈夫?バイト、キツイの?」
「バイトは……まあキツイけどなんとか」
「バイトはってことは。どうした?なんかあった?」
 
心配そうな顔。
 
「はあ、それが……最近あんま眠れなくて」
不眠症?」
「なのかな。夢が強力で」
「夢?どんな夢?」
 
話していいものか悪いものか……。
 
「耳元で風の音がヒューヒューいう夢」
「風の音?」
「覚えてないっすか」
 
 
城島さんは眉間にシワをよせた。
記憶をたどっているようだった。
 
「ごめん。この間オレなんか言った?覚えてない」
「そうっすか。オレが吐いたのは覚えてる?」
「ああ。それは覚えてる。さすがに」
「すいませんでした」
「いやあ、未成年に飲ませちゃったのオレだし」
「そうっすね。オレが警察に駆けこんだら城島さん前科がつくな」
「そうだな」
「淫行罪とか」
「だねえ」
「冗談ですよ」
「わかってるよ」
 
 
城島さんはグビグビとビールを飲んだ。
 
あ、ノドに流しこむ感じ。
うまそう。
 
 
「プハーっ。……ああっ」
 
城島さんが急に頭を抱えこんだ。
 
「真島くん、もしかしてオレ、夢の話した?」
「……はい」
「それで同じようなの見た?」
「はい」
「それで、眠れない?」
「それだけじゃないとは思うけど」
「そりゃあ……ごめんね」
 
城島さんはオレの顔を見て本当に申し訳なさそうに言った。
 
「いや」
「ホントにごめん。この間オレ、久しぶりに仕事以外でちゃんと人と話したから。かなり酔っぱらってたし」
 
あれで?オレには全然酔ってるように見えなかった。
 
「つい調子に乗って自分のことしゃべりすぎた。反省してたんだ。そうか……ごめんね」
「いや。城島さんのせいじゃないです」
「オレにシンクロしちゃったんだね。っていうかさせちゃったんだよなオレが。それを覚えてないって……ホントにごめん」
 
 
城島さんは頭を下げた。
 
「いや、そういうんじゃないです多分。オレの潜在意識っていうか、灰谷への罪悪感っていうかが、こう~」
「真島くん、この間のはただの酔っぱらいの、たわ言だと思って忘れて欲しい」
 
城島さんはオレの目を見て言った。
 
「君はオレとは違う。オレみたいに深刻にならない方がいい。大丈夫。時間が解決してくれる。そうだな、あと2~3年も経てば状況が変わる。君なら大丈夫」
 
城島さんが立ち上がった。
 
「ごめん。オレとはもう関わらない方がいい」
 
城島さんは背を向けて歩き出した。
 
 
 
突然の城島さんの言葉にオレは戸惑った。
 
城島さんが言ったように城島さんとはもう会わないほうがいいのかもしれない。
そう思った。
 
でも……。
 
 
気がついたらオレは城島さんの後を追っていた。
 
 
「城島さん」
 
 
城島さんが振り向いた。
 
「責任、とってください」
「え?」
 
 
 
 
 
ブログランキング参加中。よろしかったらポチッお願いします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ 
★読んだよ~には拍手ポチッと押して頂けると嬉しいです♪