空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 22

 

こっそり家を出ようとしたら風呂あがりでパジャマ姿の母ちゃんに見つかった。
 
まこと~どこ行くの?」
「ん~コンビニ」
「こんな遅くに?あたし先、寝るよ」
「ああ」
「お父さん遅いみたいだし」
「いいよ」
「気をつけなさいよ」
「大丈夫だよ」
 
 
外に出てはみたものの、結局行くところなんかなくてまたゲーセン。
相も変わらずシューティングゲーム
 
死ネ死ネ死ネ死ネ。
稼いだバイト代をつぎこむ。
 
 
日々はオレの気持ちなんか無視してたんたんとやってくる。
日が昇って、日は沈み、また昇る。
 
 
時々、何もかも捨てて逃げたいと思う。
灰谷のいないところへ。
ここではないどこか。
灰谷を想い続ける自分ではない場所。
それは……どこだろう。
 
 
佐藤や中田の家に遊びに行くには時間が遅いし、もちろん灰谷のところにも行けないし。
持ち金も使い切って行くところもなくて。
うちへの帰り道。
ふとあのコンビニ近くの公園に足を向けた。
この間、オレの処女を奪ってくれたおっさんと酒飲んだベンチ。
なんとなく……。
 
で……いた。
 
 
「よお」
 
オレの顔を見ると男は笑顔で手を挙げた。
この時間だからかスーツ姿じゃなくて、Tシャツにジャージでサンダル履き。
手には缶ビール。
コンビニのビニール袋を持っている。
近所にふらりと買い物に来たみたいな姿だ。
ただ、この間会った時より痩せてやつれたように見えた。
 
 
「こんばんは」
「こんばんは。ハハ、他人行儀だな。まあ他人か。座れば。あ、飲む?」
「いいえ」
 
オレは隣りに座る。
男はビールをグビリと飲んでから言った。
 
「この間大丈夫だった?カラダ」
「はい」
「そう。気になってたんだ」
 
オレばっか何度もイカせてもらっちゃって気持ちよかったです……とは言えるわけもなく。
 
「あの……」
「うん?」
「キスマーク」
 
と、この間灰谷にバッチリ見られた首の後ろを指差す。
 
「ここに付けました?」
「あ、ごめん。君がカワイくて……つい」
 
カワイイ!?
 
「……カワイくねえし」
「カワイかったよ」
 
う~。
 
「一応、服着てれば見えないところに付けたつもりだったんだけど。よく気づいたね」
 
いや気づいたのオレじゃないけど。
 
「もしかして誰かに見られた?」
 
一番見られたくないやつに見られた。
 
「……」
「そっか。ごめんね」
「いや、まあ……もともとオレが頼んだんだし」
「あ、これ、あげる」
 
男はコンビニのビニール袋から棒つきのキャンディーを出した。
 
「メロンソーダ味ってのがそそるよね」
 
メロンソーダか。
ペロペロ、男と並んでキャンディーをなめる。
 
ガキの頃、灰谷とよくなめたな。
安っぽいメロン香料の味。
ガリガリと噛んで、最後に紙の棒が残る。
ガジガジとしがんでチュウチュウと吸う。
 
思い出もしゃぶり尽くせばいつかは味もしなくなっちゃうのかな。
アップデートされない記憶はいつかどこか遠くへ。
したら、灰谷のこと忘れられるのかな。
こんな風にいつもいつも何かにつけて思い出したりしなくなるのかな。
 
かなかなかな。
 
かな……ばっか。
 
 
 
「うち……来る?」
「え?」
「まあ、よかったらだけど」
 
そう言うと男はグビグビグビとビールを飲み干してグシャリと缶をつぶした。
 
どうしたもんかな、と思っていたら、男は立ち上がった。
 
「行こっか」
 
男はゆるく笑った。
 
 
まあ、いっか。
 
住宅街の細い路地を行く。
ペタペタペタペタ。
男のサンダルの音がする。
オレはその後をついて行く。
 
しばらく歩いて男は小さなマンションの前で振り返った。
 
「うち、ここ」
 
男はポストをのぞきこむ。
201号室。
『城島』とある。
 
「じょうじまさん」
 
呼びかけると一瞬間があって、男は振り返ってオレの顔を見つめた。
 
「しま。じょうじまじゃなくて、じょうしま。濁らないんだ」
「へえ。じょうしまさんか」
「そういえば君の名前聞いてなかったね」
 
どうしよう。本名言っても大丈夫かな。
苗字なら、いいか。
 
「真島、です」
「まじま。ましまじゃなくて?」
「はい」
「島かぶりだね。真島くんか」
 
 
 
階段で2階に上がる。
一番奥の角に201号室はあった。
城島さんはドアノブをつかんで開けた。
 
「どうぞ。なんにもないけど」と言って入って行った。
 
カギはかけていないし、電気も点けっぱなしだった。
ちょっとそこまでにはカギをかけない人なのかな。
 
 
広いワンルーム、と思ったけれど、これは極端にモノが少ないからだとしばらくして気がついた。
床に直置きにされたテレビ。折りたたみの小さなテーブル。薄い折りたためるマットレスと枕にタオルケット。
目につくところにあるものと言えば、ほぼそれだけ。
 
「あっ、テキトーに座って。座布団とかもないから、マットレスの上に座っていいよ」
「なんもないんですね」
「あ~。引っ越してきたばっかりだし、ミニマリズムっていうの?モノをもたない生活ってやつにハマっちゃって色々捨てちゃった」
 
お言葉に甘えてマットレスの上に腰を下ろす。
 
というか城島さんのパーソナルを表しそうなものが一つも見当たらない。
佐藤んちで言えば、所狭しと並んだフィギアやアニメグッズ。
中田んちで言えば大量の服とオーディオ機材。おしゃれ家具。
灰谷とオレんちで言えばマンガやゲームソフト。
 
 
「ええと、いま買ってきたビールかチューハイか水しかないけど」
「あっ、じゃあ水で」
「酒でもいいよ」
 
城島さんはクスリと笑って言った。
 
「じゃあ、チューハイ」
「ほい。で、チータラと」
「好きですね、チータラ」
「うん。好きなんだ」
 
城島さんはオレの隣りに腰を下ろすとビールをぐびぐびと飲んだ。
 
「捨てるのってさ、ハマると快感なんだよ」
「あとで後悔したりしないんですか」
「あ~ほとんどしないね。ほぼ思い出しもしない。たま~に、あっあれ捨てなきゃよかったとか思うけど。モノなら大概のものは買い直せるしね」
「はあ~」
「自分が何に執着していたのかがわかるんだ。ただ冷蔵庫はあってもよかったかなと思うけど。まあコンビニを自分ちの冷蔵庫だと思えばねえ。24時間やってるし」
 
冷蔵庫がない?ホントだ。
ガス台にナベが一つのっているだけだった。
台所は使っている形跡がほとんどない。
床に空き缶のいっぱい入ったゴミ袋が一つあるだけだった。
 
「ごはんとか作んないんですか」
「作らない。アウトソーシングだね。外で食べるか、買ってくるか。まあでも、買って帰るとゴミが出るから理想は外で食べるほうがいいけどね」
 
皿もコップもないようだった。
まるで世捨て人だ。
 
「逆にテレビは捨てられないんですか」
「ああ。うるさいから消音にしてつけてるだけで、ほとんど画面も見てはいないんだけどね」
 
消音にして見ない?
じゃあなんで、つけてるんだろう?
 
 
城島さんはこの前みたいにチビチビとチータラを食べながらビールを次々と空にした。
やはり顔色はまったく変わらなかった。
オレは酔わないようにチューハイをゆっくりと飲んだ。
 
 
ポツリポツリと話をした。
学校どうなの?とか、仕事何してるんですか?とか、進路どうするの?とか。
そのどれもは親戚のおじさんと話すのと変わらないようなこと。
 
で、ほどよく酔いが回ってきた時、その話になった。
 
 
 
 
 
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