空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 21

 

夏休みに入った。
 
オレはバイトのシフトで予定をバンバン埋めた。
ただ一つ明日美ちゃんとは一緒にならないようにだけは気をつけて。
いつも人数ギリギリで回してるし、田舎に帰るとか子供を遊びに連れて行くとか休みたい人はいっぱいいたからシフトは入れ放題だった。
 
先手必勝。
時間がありすぎるとロクなことを考えない。
この夏は金を稼ぐ!と決めた。
何より働いていれば灰谷の事も、灰谷と明日美ちゃんの事も考えずにいられる。
オレ自身の事も。
カラダも疲れて家に帰るとすぐ眠たくなっちゃうし。
 
 
――灰谷とはシフトの日以外には、あまり遊べていない。
こんなの初めての事だ。
まあ、オレがバイト入れすぎて時間が合わないってのが大きいし。
灰谷も明日美ちゃんとデートだかなんだかも。
付き合いたてって、まあそりゃそうだよな……。
 
 
遅番中番早番、出勤時間もマチマチで、睡眠時間がガタガタになり、たまの休みの日は寝不足を補うためにグーグー寝ていた。
もともとオレは平気で10時間ぐらい眠れるタイプ。
 
その日は久々の休みで、オレは部屋で惰眠をむさぼっていた。
あ~よく寝た~って起きたらもう午後でベッドから下りようとしたらなんか踏んづけた。
 
なんだっけコレ?紙袋に世界一有名なネズミキャラクター。
 
ん?メモが入ってる。
 
『真島くんへ』。
 
あ~これ……灰谷経由で明日美ちゃんからもらったおみやげの某ランドのチョコレートクランチだ。
 
一つ取り出し、ビニールを剥いて口に放りこむ。
ウマッ。
 
灰谷と明日美ちゃんはデートであちこち遊びに行ってるみたいだった。
しかし……ランドとはね。
夏休みで混み混みだろうに。
 
佐藤だったら彼女と二人でネズミの耳でもつけて、風船握ってポップコーン持ってデレデレの写真がデート中に実況中継みたいにガンガン送りつけられそうだけど、灰谷はそんなこともなく。
明日美ちゃんみたいにおみやげ買ってくるでもなく。
まあいらないけど……。
 
灰谷ああいうの好きじゃないだろ。
でもいっしょに行ってあげちゃうんだな、と思えば気持ちも沈む。
 
チョコクランチをもう一個口に放りこむ。
ウマッ。
もう一個。
 
 
突然、オレの部屋にヨーデルが鳴り響いた。
♪ヨロロロロリホ ヤヒホリヨホホ ヨロロロロリホヤ ラリホリヨ~
 
電話の着信音。
――灰谷からだ。
 
ペーター灰谷の着メロをマジサトナカ(オレ・佐藤・中田)の三人はヨーデルにしたからだった。
LINEのグループ名は『ペーター灰谷と搾乳隊』に変更された。
まあ実際に搾乳するのはペーター灰谷だけなんだけど。
灰谷が嫌がって元の『サトナカマジハイHiHiHi』に戻そうとするが、三人で阻止している。
『ペーター灰谷と搾乳隊』よりウケるやつじゃないとムリだろうな。
 
しかし荘厳だなあ~ヨーデル
ハハハハハハ。
乾いた笑いが出る。
 
「ウィ~、ペーター灰谷」
『ペーターやめろ。つうか着メロ変えてグループ名を戻せ』
「やだね」
 
ん~今の時間、灰谷バイトじゃねえの?休み時間か。
 
「んで何?あふ~」
『寝てたのか?』
「うん」   
『つうかめずらしく明日もバイト休みだろ。映画行こうぜ』
「いや、入ってる」
『え?』 
「遅番代わったから」
 
チョコクランチをもう一個口に放りこむ。
ウマッ。
 
『じゃあ明後日は』
「シフト。オマエも一緒だろ確か」
『そっか。じゃあその次の日は』
「さっき多田さんに頼まれて遅番変わった」
『多田さん?』
 
電話の向こうで灰谷がイラッとしたのがわかった。
 
『なんか今月の多田さんのシフト、ほぼ真島が出てねえか?』
「あ~なんか実家のお母さんが入院するとかで付き添いに行くんだってさ」
『あ~そりゃ……。でも、オマエばっか、代わんなくてもいいだろ。店長いるんだし』
「まあそうだけど。金になるし」
 
もう一個口にポイッ。
 
『金金ってなんでそんなに金いるんだよ』
「バイク」
『それ夏休み前から言ってねえ?』
「言ってるね」
『……』
 
灰谷が押し黙った。
オレはもう二つチョコクランチを口に放りこむ。
ん~口の中チョコレート~。
 
『オマエ、もしかしてオレと遊びたくねえの?』
「……」
 
今度はオレが黙る番だった。
 
『黙んなよ。冗談なのに』
「いや、別に。オマエ、乳搾り、いや、デートで忙しいだろ」
『んなことねえよ』
「まあオレ、今年の夏は金稼ぐからさ、灰谷は青春しろよ」
『なんだそれ』
「ワリぃ、まだ眠いから切るよ」
『おい真島。いつなら映画行けんだよ』
「映画はDVDでいい。人混みキライだし。明日美ちゃんと行けよ。じゃな」
『真島……』
 
なんか言いかけてたみたいだけど切っちまった。
 
ビニールの包み紙が山になっていた。
オレはかき集めてゴミ箱に捨てる。
 
オレ断ったし、映画、明日美ちゃんと行くんだろうな……。
 
あ~ウジウジウジウジ。
やんなるわ!
 
腹も減った……。
お菓子じゃ埋まんねえ。
 
 
 
階段を降りて一階へ。
 
「母ちゃ~ん」
 
母ちゃんの姿はなく、台所の机の上に、ラップがかかった焼きそばとメモがあった。
パートか。
 
 
”レンジでチンして食べなさい。母”
 
レンジでチンとか言い回し古っ。昭和か!
 
 
焼きそば食べた後はゲームやってDVD見て。
またちょっとウトウトして。
夕方になって帰ってきた母ちゃんと夕飯食ってテレビ見て。
んでまたゲームやって……って不毛~。
 
オレはコントローラーを放り出して、ベッドに寝転んだ。
 
 
夏休み。
はあ~やることねえ~。
勉強は~しねえ。
いっぱい寝ちゃったから眠くもなんねえし。
 
佐藤は趣味のフィギュア使ったジオラマ作りに夢中らしいし、中田は服屋でバイトだろ。
 
 
去年の夏休みってどうしてたっけ?
灰谷と~なんかダラダラダラダラしてた気がする。
 
『灰谷くん、夏休みに入ってからあんまり来ないわねえ~』
なんでさっき母ちゃんも言ってたけど。
 
「イタタッ」
 
寝返りを打つと、タオルケットにピアスが引っかかった。
 
 
あ、そうだ。
去年の夏休みだ、灰谷と二人で耳にピアス穴開けたのって。
オレは思い出した。
 
 
高校に入ったらピアスデビューしようと決めていた。
いちおう学校では禁止されてたから、延ばし延ばしで夏休みになったんだ。
 
ノリノリのオレに対して「カラダに穴あけるのはな~」なんて言っていた灰谷。
初めてのバイト料をもらうと灰谷引っ張ってピアスを見に行った。
 
「あっ」
 
二人で同時に目を止めたのがクロムハーツで。
片耳1個分でバイト料のほぼ全額だった。
 
 
「最初はもうちょっと安いの買って両耳にしようぜ」というオレに、「いや、あれがいい。オマエもあれにしろ。それならオレも穴を開ける」と灰谷が言ったのだ。
 
オレたちはデザイン違いを1コずつ購入した。
 
で、本当なら穴も病院で開けたかったけど、お金もなく、ピアッサー代もケチったオレたちは、安全ピンで開けて安い医療用の透明樹脂のピアスをつけることにした。
これなら穴開いてても学校にもバレないし。
 
 
まずはオレから、っていうんで左の耳たぶに氷を押しあてた。
 
「当たり前だけど、冷てえ~。感覚がなくなるまでってどんくらい?」
 
オレは耳たぶを何度も触って確かめた。
 
「つうか感覚なんてなくなんないんだけど」
「そりゃあ、全くなくなるってことはないだろ。大体でいいんじゃないの?」
「そうかなあ。もう一回調べてくれよ灰谷」
「ん~男は思い切りだぞ真島」
「は?」
「耳たぶ消毒しろ」
 
言うと灰谷は安全ピンをライターの火で炙った。
 
「ほれ、耳よこせ」
「うげえ~こぇ~」
 
あらかじめマジックペンで目印をつけておいた。
 
「行くぞ」
 
ブツッ。
灰谷はためらいもなく一気にぶっ刺した。
 
「イッ……た!」
 
痛かった。
予想外に痛かった。
 
「ホレ、早く。透明のピアスつけないと。穴塞がる」
「そんなすぐ塞がんないだろ。つーか痛いよ~」
 
オレは半泣きだった。
 
「そんなに痛いか~」
「痛いよ~」
「オマエが開けたいって言ったんじゃん」
「言ったけど~痛いって~」
「そんなに?」
 
灰谷は疑がうような顔をした。
 
「おう。オマエやめる?」
「なんで。やるよ。ピアス買っちゃったし」
「痛えぞ」
「それがなんだよ」
 
男だね~。オレは思った。
いや、オレも男だけど。痛いもんは痛い。
 
次はオレが灰谷の耳にぶっ刺す番だった。
氷で冷やさなくていいって言うから直接。
 
「行くぞ」
「おう」
 
灰谷の耳をつかんで安全ピンの先を目印に押し当てる。
まっすぐ刺さないと穴が曲がってしまう……。
 
「灰谷」
「ん?」
「オマエ自分でやってくれない?」
「は?なんで」
「なんか。人の耳に穴あけるとか怖い」
「あ~?自分は人にさせといてなんだよ」
「いやあ~でもさ~」
 
オレはシブった。
 
「やれ」
「え~」
「やれって」
「ん~」
「オレがオマエに穴開けたんだから、オマエがオレに開けんの当然だろ
 
お互い穴を開けあう。
なんか……ヤらしいな~。
 
でもそうか。
灰谷がオレに穴を開ける。つうか開けた。
オレが灰谷に穴を開ける。
 
そんで多分、うまくすればずっと残る。
 
なんか……まるで"しるし”みたいじゃね?
 
オレはその時ちょっと思った。
 
 
「行くぞ」
「おう」
 
覚悟を決めて、プツッ、灰谷の耳たぶにピンを刺した。
肉のかなりの抵抗感。
うお~刺したはいいけど突き抜けねえ。
うぎゃ~。
ギュー、オレはピンを押しこんだ。
プツっと皮を一枚破ったような感触がして裏に突き抜けた。
 
怖かった。
 
 
あの時の、灰谷に開けられた左耳の小さな痛み。
そして灰谷の耳たぶに安全ピンを刺す時の、あの感触を今でもハッキリと思い出すことができた。
 
実際にクロムハーツのピアスをつけたのは穴ができあがった2ヶ月後、夏休みが終わって二学期が始まった頃だったんだけど。
その後、もう片方の耳にもお互い穴を開け、今年の春には両耳にピアスがはまった。
 
灰谷とお揃いのデザイン違いのクロムハーツのピアス。
 
“しるし”。
 
って……灰谷にはそんな感覚ないと思うけど。
 
 
灰谷……。
今日もデートかなあ明日美ちゃんと。
オレは明後日にならないと会えないんだよなあ。
ってまあ、オレが断ったんだけど……。
 
はあ~。
オレ……もう……なんか……。
 
心のピアス穴がジクジク痛んだ。
 
最近胸やら心やらあっちこっち凍るわ痛むわで……ホントしんどい。
 
 
ダメだ。
うちにいられねえ。
 
オレはガバリと飛び起きた。
 
 
 
 
 
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