空々と漠々 くうくうとばくばく

BL小説ブログです。。。

ナツノヒカリ 43

 

結衣ちゃんとの初デートは海で会ってから三日後だった。
 
海からの帰り、みんなでグループLINEを作った。 
グループ名はとりあえずベタに「海の会」。
「海の思い出」なんてアルバムも作られ、そこにみんながそれぞれ撮った写真を追加した。
 
そしてその中にはなんとオレと結衣ちゃんのキスシーンも入っていた。
「お父さん許さないよ」のコメント付き。
さすがオタク佐藤。一瞬のシャッターチャンスも逃さない。
つうか、こういうの写真に撮るのもどうかと思うし、共有のアルバムに上げるってどうなの?
 
ん~。責任取れってことだな。
でもな~。
 
 
次の日、結衣ちゃんから個人LINEがきた。
 
『真島くん昨日は一日ありがとう。楽しかった。よかったら今度、パンケーキ食べに行かない?美味しいお店があるの』
 
本当なら昨日の夜にこっちから連絡してあげたほうがいいのはわかっていた。
でも、しなかった。
いや、できなかった。
一日経って結衣ちゃんの方から来た。
きっと勇気をふリ絞ったんだろうなと思う。
バイトを理由にでもして断って、もう会わないほうがいいんだろう。
 
 
でも……昨日の灰谷とのやりとりを思い出して気が変わった。
 
ちゃんと付き合ってやろうじゃん。
灰谷が明日美ちゃんとやってることを追体験してやる。
 
そんでオレのこと好きにさせて、こっぴどくフッてやる。
灰谷と明日美ちゃんの仲が悪くなるくらいに。
城島さんもいないし。なんせヒマだからな。
 
 
……オレはさらに壊れつつあった。
 
 
 
 
結衣ちゃんとカフェで待ち合わせる。
 
カフェ!
カフェだぜ。オシャレカフェ。
 
結衣ちゃんは海の時のラフ目の服とは違い、デートって感じでカワイくしていて、それはオレへの期待を感じさせた。
いや、好意か。
嬉しそうで恥ずかしそうで。
オレなんかのどこがいいのかって思うけど。
 
 
結衣ちゃんはトッピングの甘いやつがいっぱいのったパンケーキを注文する。
オレはアイスコーヒー。
 
「真島くん、甘い物キライ?なんだか好きそうなイメージだったから」
「いやあ、まあ、キライっていうか普通?」
 
甘い物もキライではないけど、ここのボリュームはちょっと完食出来る気がしない。
 
 
「うわあ~」
 
運ばれてきたパンケーキに結衣ちゃんは目を丸くする。
 
「すご~い。おいしそう~。あ、写真撮って明日美に見せよう」
 
ん~インスタ?……ではないのか。
食いもんを一々写真に撮るのって、なんだかなあ。
 
 
「いただきま~す。あ~おいしい~ん~」
 
結衣ちゃんは本当に美味しそうに嬉しそうに食べる。
 
うちのババアみてえ。
女ってみんなこう?
 
「ちょっと食べてみる?」って言われて、一口食べてみたけど……。
 
「甘っ!」
「そう?」
「甘さ控えめだよ」
 
胸焼けがする……。
 
それにしてもこの店、よく見れば女ばっかり。
なんだか落ち着かない。
あいつらとはこんなとこ来ねえもんなあ。
 
 
一通り食べ終えた結衣ちゃんが話し出す。
 
「真島くんって夏休み、何してるの?」
「ん~勉強」
「え?ホントに?」
「するわけないじゃん。バイト」
「あ。明日美と灰谷くんもいっしょだよね」
「あ~あんまシフトかぶらないけどね」
 
 
結衣ちゃんは、初めの印象は人見知りっぽかったけど、慣れてきたらよくしゃべる。
というか、しゃべらないと間が持たないんだと思う。
 
明日美ちゃんと、どこに行ったとか。
何が好きだとか。
こんなテレビを見たとかこんな映画を見たいとか。
話があちこち飛んで、よく聞けば、たいがいオチのないどうでもいい話。
オレはうんうんと聞く。
 
灰谷もこうやって明日美ちゃんの話を聞いてんのかな。
あいつが?忍耐強く?まさか?
 
 
結衣ちゃんの顔を見つめる。
小さい口がよく動く。
 
ん?話が止まった?
結衣ちゃんが赤くなっていた。
 
「ん?どした?」
「真島くんって聞き上手だから、いっぱい話しちゃう。ごめんね、うるさいよね」
「ううん。オレ、しゃべる子好きだよ」
 
オレがしゃべんなくていいからラクだ。
つうか別に話したいこともねえし。
でも、なんか聞いてんのダルイ。
めんどくさいから、手を握っちゃおう。
 
ギュッ。すりすり。
結衣ちゃんがポッとする。
 
「ちっちゃくてカワイイね。結衣ちゃんの手」
「ううん。真島くんの指、長くてキレイ」
 
結衣ちゃんがオレの指を触る。
 
「そう?」
「うん……好き」
「オレの指が?それともオレが?」
 
結衣ちゃんの目を見つめながら言う。
結衣ちゃんがモジモジする。
 
よく言うよオレ。歯が浮くわ。
 
「ん?……両方」
「ちゃんと言って」
「え?」
「オレの指が?」
 
首をかしげて結衣ちゃんの目をのぞきこむ。
結衣ちゃんの顔がみるみる赤くなる。
 
「……真島くんの指が……好き」
「オレが?」
「真島くんが……好き」
「よくできました」
 
オレは結衣ちゃんの手にチュッチュッとキスをする。
結衣ちゃん真っ赤。
 
 
自分でも鳥肌~なんだけど、意外にも結衣ちゃんには通じたらしい。
なんにせよ反応が返ってくるのが面白かった。
 
 
 
それから結衣ちゃんとデートを重ねた。
映画見たり、ショッピングに付き合ったり、メシ食ったり。
 
バイトの方はシフトを替わってあげてた多田さんが引き受けてくれた。
「真島くん、デート?デート?」なんて興味津々で聞かれてちょっとめんどくさかったけど。
 
 
何回かのデートでオレは女の子と付き合うコツをつかみつつあった。
 
 
話をよく聞いて(るフリをして)、でも意見はしない。
一番いいのはくり返すこと。
 
「真島くん、これカワイくない?」
「うん。カワイイ」
 
間違っても「ん~よくわかんねえ」なんて言ってはいけない
 
「これとこれ、どっちがいいと思う?」
「ん~どっちがいいかな?結衣ちゃんはどっちがいいと思う?」
「あたしはね、こっちかなって。でも、こっちもいいかな~って」
「あ~オレもこっちかなって最初思ったんだよね。こっちもいいけどね~」
 
 
そして少しのスキンシップ。
 
「あ、前髪崩れてるよ」
「え?」
 
オレは結衣ちゃんの前髪をシュシュッと手で整える。
 
「はいできた。カワイイ」
「ありがとう」
 
こんなことで結衣ちゃんは赤くなって嬉しそうにする。
特に「カワイイ」はマジックワードだ。
 
好きじゃないからなんでもできる。
どう思われるかなんて考えなくていいからなんでもできる。
ただのヒマつぶし。
 
 
はじめはオゴんなきゃなんないから、正直お金もったいないなあと思ってたけど、何回目からは割り勘にしようって言ってくれたんで助かった。
そういうところは気のつくいい子なんだよな。
でも、まあ――つまんねえよ。
 
 
そのうちに湧いてきたのはカラダへの興味で。
男とは違うカラダ。
灰谷が抱いている女のカラダ。
灰谷が勃つカラダはどういうのだろうって事だった。
 
 
 
結衣ちゃんとデートの別れ際。
オレは「おやすみ」って言いながら、抱き寄せて軽く唇にキスしてみた。
海でしたみたいな唇をくっつけるだけじゃなくてハムハムってやつ。
 
結衣ちゃんは驚いた顔をして固まっていた。
そして「おやすみなさい」と早足に家に入ってしまった。
 
チョロいな。
明日美ちゃんに報告したりするのかな。
そんでそれが灰谷に伝わったり。
女同士って筒抜けなんだろ。
 
はあ~。無意味だ。無意味なヒマつぶしだ。
 
オレ、イカレてる。
 
 
結衣ちゃんと出歩いても母ちゃんには佐藤や中田や灰谷と遊んでる、で通した。
女の子と付き合ってるなんて知られたらアレコレ聞かれたり、家に連れてこいとか言われそうでめんどくさいから。
 
 
灰谷と二人で会うことは、なくなった。
あれだけうちに遊びに来ていたのに、あの海以来、パッタリ来なくなっていた。
 
佐藤や中田を含めてみんなで遊ぶ時には会うけれど、会話もあんまりない。
 
淋しくないと言えばウソになる。
でも……それぞれ彼女ができて、離れていく。
男友達なんてこんなもんなんだろう。
 
 
 
 
 
ブログランキング参加中。よろしかったらポチッお願いします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ 
★読んだよ~には拍手ポチッと押して頂けると嬉しいです♪