空々と漠々 くうくうとばくばく

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ナツノヒカリ 41

 

海の家でみんなでメシ食ったら、カップルタ~イムってんで。
オレは結衣ちゃんとそのまま残ってかき氷、いやフラッペか、なんか食べてみたりする。
 
 
佐藤は桜子ちゃんをおんぶして波に洗われて鼻の下を伸ばしていた。
あいつ多分勃ってんな。
余裕の中田カップルは並んで肌を焼くのに余念がない。
 
 
灰谷は?と探せば波打ち際にいた。
こんなに離れてても、人がいっぱいいても、灰谷をすぐに見つけられるオレ。
で、灰谷の隣りにはもちろん明日美ちゃんがいる。
 
 
砂に足を取られてコケそうになる明日美ちゃんを灰谷が受け止める。
明日美ちゃんが灰谷の手を握る。
そのまま手をつないで二人並んで歩く。
お似合いだった。CMか。
スキもない。
 
 
目にした現実はあまりにも強い。
 
本当は気持ちの整理なんかついてないんだ。
ちっともついてないんだ。
胸がかきむしられる。
 
 
灰谷が明日美ちゃんと話してる。
あいつ、女の子と何話すんだろう。
付き合ってしばらく経つし、もっとベタベタイチャイチャする感じになってるかと思ったけど、灰谷はいつもの灰谷だった。
 
つうか、そういうやつなんだよね。
そんで、そういうところも好きなんだオレ。
 
 
明日美と灰谷くん。お似合いだね」
 
結衣ちゃんが言う。
 
「ん~」
「美男美女」
「オレたちだってそうじゃん」
「ククク。真島くんっておもしろいね」
「そう~?んなことないよ」
「あのね、私ちょっと灰谷くんにヤキモチ焼いてたの」
「ヤキモチ?」
明日美、灰谷くんと付き合うまで、毎年夏はあたしと遊んでたのに、彼氏出来た途端に見向きもされなくなっちゃった」
 
少し口を尖らせて話す結衣ちゃんはカワイかった。
オレだって女の子をカワイイと、ちゃんと思う。
 
「ん~でも、そういうもんじゃん」
「真島くんは?」
「ん?」
「灰谷くん、明日美と遊んでばっかで淋しくない?」
「あ~。でもまあ、そういうもんじゃん」
「男の子はそうなのかな」
「かな?」
 
 
オレは元からあきらめてるから。どうにかなるとかも思ってないし。
 
 
「結衣ちゃん、オレたちも付き合っちゃおっか」
 
オレはオチャラけて言う。
 
「え?」
「なんてね」
「いいよ」
「え?」
「いいよ、付き合っても」
「いや、そんな簡単に」
 
結衣ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいた。
 
「あたし……真島くんのこと好きなの」
「え?」
 
え?え?今なんて?
 
「『結衣ちゃんも怖かったね』って言ってくれたでしょう?あの時」
 
え?そんなこと言ったっけオレ。
 
「あの日、一番怖かったのは明日美だと思うんだけど。あたしもね、怖かったの。明日美が連れてかれそうになってるの見て、本当に。でもね、しょうがないとは思うんだけど、みんな明日美明日美で」
 
そっか。この子も明日美ちゃんのそばにいて大変なんだなあ。
 
「でも、真島くんだけがあたしに『怖かったね、がんばったね』って言ってくれたの。すごく嬉しかった。帰り道でもろくに返事もできないあたしに気を使って色々話しかけてくれてそれも嬉しかった。だから、明日美から真島くんの話が出る度にドキドキしてた」
 
う~ん。
まあでもそれは、あの状況だったらオレじゃなくてもそういう風にすると思うんだけど。
って明日美ちゃんからオレの話ってどんなだろう。灰谷経由だろ。
そっちの方が気になる。
 
しかし、その程度で告っちゃうんだ。
簡単だなあ。
好きにも重さがあるんだな。
軽いなあ。
オレが重いのか?
 
 
と、何気なく視線を海に向ければ……。
 
キス……していた。
灰谷と明日美ちゃんが。
 
小さい明日美ちゃんが背伸びして、灰谷の首に腕を回して。
灰谷の手は明日美ちゃんの背中に。
カラダをくっつけて。
 
灰谷がキスしている。
 
それはそんなに長い時間じゃなかったとは思うけど、オレの目に焼きつくには十分な長さだった。
 
 
 
ああ。ダメだ。ちっとも思い切れてねえ。
心臓イタイし、涙出る。
 
 
その時、灰谷と目が合った。
 
 
「真島くん?」
 
次の瞬間、オレは結衣ちゃんの顔を引き寄せて唇を重ねていた。
 
 
灰谷。灰谷。灰谷。
灰谷がオレを見ている。
きっとオレを見ている。
 
 
胸がちぎれそうだった。
自分で自分がイヤになる。
オレはちっとも思い切れてなんかいない。
友達でいいなんて思っていない。
この執着を誰かどうにかしてくれ。
 
 
唇を離した。
 
 
「ごめん」
 
結衣ちゃんの顔が見れなかった。
 
「……ビックリした……嬉しい」
「あっち、行こう」
 
オレは灰谷の方も見ることができない。
結衣ちゃんの手をつかんで席を離れた。
 
 
 
 
「真島~この野郎キスとかキスとかキスとかしてんじゃねえぞ。今日会ったばっかだろう」
「いや、二回目だって」
「え?キスするのが?」
「違うって。会うのが」
 
オレのキスシーンはなぜかタイミング良く、いや悪く?みんなに目撃され、特に佐藤から糾弾された。
桜子ちゃんとは、まだだったらしい。
 
「結衣ちゃんも!イヤならイヤって言わなきゃダメだよ」
「……うん」
 
結衣ちゃんは赤くなってうつむいた。
 
「イヤがってない。むしろ喜んでる……真島~この女たらしめが~コロス!つうかオマエら付き合うんだろうな。付き合うからキスしたんだろうな。え?お父さん黙ってないよ」
「誰がお父さんだ」
 
その時、黙って佐藤を見つめていた桜子ちゃんが口を開いた。
 
「佐藤くん」
「ん?何?桜子ちゃん」
 
桜子ちゃんがトコトコと寄って行って佐藤の唇にチュッとキスをした。
 
「え?え?キッス!!」
 
佐藤が憤死した。
阿鼻叫喚。
 
何が何だか、オレと結衣ちゃんは付き合うことになってしまった。
 
その日、オレは灰谷の顔が見れなかった。
 
 
 
 
 
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